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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
88/114

78『暇を持て余したあの人』


「~♪」


広く美しい屋敷の庭の片隅で、ノワールは小唄を口ずさんでいた。


小さな翼をパタパタ動かし、満面の笑みを湛えるその様子はとても和やかだ。

そんな彼女の手にはラッピングのされた小包。


浩二によって起こされたノワールは小包の配達を頼まれたのである


そして、何故ノワールが上機嫌なのかというと……



『きちんと届けることが出来たら、漢字辞書買ってやる』

「!!」



文字を具現化することを得意とするノワールにとって、力そのものである漢字の読みと書き方。

そして意味や使い方が諸々書いてある漢字辞書はとても魅力的な報酬であった。


ノワールは当然二つ返事で引き受け、今に至るというわけである


ちなみに届け先は混沌の街の東。『Junkshop』という雑貨屋である


「裏門……これ、かな?」


ノワールは庭の隅に草で隠されているような古びた門を見つけ、ぐいぐいと開け放つ。

門の先は薄暗い洞窟であった。肌寒く不穏な風が、ノワールの柔らかな頬を撫でる



小包をぎゅっと抱きしめ、少女は一人、暗い洞窟へと踏み込んでいく




~流星学園~



一際立派な机に向かい、積まれた書類にペンを走らせる紺色の魔女。

流星学園校長・樫之宮 玲紀は暇を持て余していた。


もちろん仮にも校長なので、やるべき仕事は山積みだ。しかし彼女は面白味のない作業を嫌う。


普段は傍に付きそう暁も今は居らず、作業を手伝うのは使い魔と妖精くらいだ。



机に向かって数時間。そろそろ飽きてきた校長は飛び回る妖精を弄ったり、使い魔であるヘリオスに無茶な要求をしたりと、なかなか自由な時間を過ごしていた


「ヘリオス、紅茶を淹れて頂戴」


『無茶言うなよ玲紀。俺は創る魔物であってお前の召使いじゃねぇんだぞ……つーかまだまだ書類残ってんだろが。全部終わらせた方が後々楽だぜ』


「……仕方ないわね」


校長は軽いため息の後、再び書類にペンを走らせる


校長の使い魔は『創造主・ヘリオスリオン』と呼ばれる伝説の魔物だ。一般的に混沌の創造主と呼ばれ、その名の通り何かを作り出すことを得意としている。


その気になれば世界を滅ぼすこともできる怪物だが、とある出来事をきっかけに校長のサポートをしている。割とまともな性格を持つ彼は校長の封印術式を作り出すことを生業としているのだ。


多少口が悪い一面もあるが、なんだかんだで頼りになる彼と共に、校長は書類にサインをしなければならないのだが……


数分も経たぬうちに校長のペンは動きを止め、しなやかなその指は妖精の体を絡めとった。


「やっぱり退屈だわ」

『きゃっ!?』


小さな妖精を捕まえ、ムニムニと弄り倒す校長。

その背後に佇む白の怪物。ヘリオスは冷たく光る目でその様子を眺めている


校長の気まぐれに振り回される妖精に抵抗の余地は無い


『……気になるなら素直にそう言ったらどうだ。玲紀』


「……」


校長は妖精弄りをする手をぴたりと止め、その白い頬を僅かに赤く染めた


『図星かよ……さっさと着替えて出かける準備しやがれ』


ヘリオスは校長の帽子にしゅるんと入り込み、校長は再び軽いため息をつく。

そして、ぺいっと妖精を解放した校長は学校用の立派なローブを脱ぎ、普段着である紺一色のローブをその身に纏う。帽子の下の金の瞳が、きらりと怪しく光った


『移動法はどうするつもりだ?』


何処からともなく、ヘリオスの低い声が木霊する。


「いつも通り、ドアを創って頂戴」


『……あいよ』


言い終わると同時に、校長室に銀色のドアが音もなく現れ、かちゃりと僅かに開いた。

浮遊する妖精は校長に手を振り、『あとは任せてください』と言った。


校長は流し目で妖精を見つめて微かに微笑み、扉の向こうへ姿を消した





「……?」


邪龍の姫君、ノワールは薄暗い炭鉱に立っていた。

線路が敷かれたトンネルの上部には、切れかけの電球がぶら下がっている。


ノワールは時折響く重厚な轟音に耳を塞ぎ、来た道を戻ろうと辺りを見渡すが……


「ここ……どこだろ……」


眼前に広がるのは無数に枝分かれした鉄臭い通路。ノワールは方向感覚を失ってしまっていた。

あちこち移動してはみたものの、見覚えのある通路には出ない。


こんなはずじゃなかったのに、とノワールは小包を抱いたまま目を潤ませる


「どうしよう……」


ふらふらと壁に手を付くと、手がススで真っ黒に染まってしまった。

まるで人の心みたい。小さく呟いたノワールはその場にへたり込んでしまう


すると……


――ジリリリリリリリリッッ


「!?」


目覚まし時計のような轟音と共に、ばたばたと忙しない足音があちこちから響いてくる。

ノワールはびっくりして立ち上がり、慌てて傍に積んであった箱の影に身を隠した


足音はやがてノワールが居たトンネルの内部にも響き、ノワールがこっそり様子を伺ってみると……

トンネルの中をススだらけの獣人たちが駆け回っていた。


黒い塊を沢山積んだ荷車を押す者、大きなつるはしを抱えてよたよたと歩く者、

獣人たちは犬や猫など沢山の種類が確認できる。しかし全身真っ黒に汚れ、その瞳に光は無い。


「……?」





『そこのお前、何をしている』




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