73『正体』
「うぅ……わあぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「お、おい……もう泣くなって。俺が悪かったよ」
ゴスロリ少女・アリスは俺のベッドの上でユイを抱きしめて大泣きしていた。
ユイは光の無い瞳で虚空を見つめ、されるがままにされている。完全に電池切れてるなアレ
聞いた話によると置いていかれて寂しかったから、頑張って頑張って部屋から脱出したら校長が現れて、不思議な薬を創ってくれたという。その薬を飲んでみたら人間としての体と声を手に入れることができたと。何とも不思議な話ではあるが、あり得ない話ではない。
そういや……アリスのことすっかり忘れてたな……
当然平謝りだ。それでもアリスはよっぽどショックだったらしく、中々泣き止んでくれない。
さらにアリスの周りに漂う輝く何かはあの金色の液体が変化したものらしく、
アリスの意思で自由に操ることが出来るようだ。下手に慰めようとしても近寄らせてくれない。
どうしろって言うんだ……あんな大声で泣かれちゃ両隣の部屋の魔物娘が何事かと踏み入ってくるかもしれない。俺は何かもう疲れたから早く寝たいのに……ユイを愛でることも出来やしない。
「うあぁぁぁん! けーいちのばかぁぁ!!」
「だからごめんって何回も謝ってるだろ……? 頼むから静かにしてくれ……夜だから!」
~
「ばか……」
数時間後、結局アリスは泣き疲れて寝てしまった。
抱き枕のようになって一緒に寝ているユイと並んで凄く可愛らしい。
さらに輝く粉末が二人を包むように漂っているため、可愛いを通り越して美しく見える。
とりあえず大きいベッドではあるが、二人が並んで寝ているので俺の寝るスペースは無い。
「やっと寝たか……」
俺は倒れるようにソファーに身を投げ、深いため息をつく。
さっきとはまるで違う、静かな部屋の中、ユイとアリスの寝息が微かに聞こえてくる。
何だか凄く疲れた……沢山寝たはずなのに、今はとても眠い。
「――驚いたな。本当に白帝じゃないか」
「!」
ふと、親父の声が聞こえた気がする。
閉じかけた瞼を開けて部屋の中を見渡して見ても、当然親父は居ない。
夢か……もういいや、さっさと寝てしまおう。
ソファーの冷たい布地に身を任せ、俺はそっと目を閉じた
~寮棟・屋上~
「やれやれ……本当だったのか」
『不思議なこともあるもんだにゃあ』
『白帝と言えば、あのアイリス様が初めて接触に成功した氷のバケモノじゃん』
『そんなやつ居たの? 私分かんないよぅ』
屋上の柱に寄りかかり、じっと空を仰ぐ男性・善二郎の周りには多種多様な魔物が佇んでいた。
その数ざっと6。それぞれが人に近い外見を持ち、なおかつ異質な気配を放っている。
「……あの様子じゃ、切り離しは無理だな。面倒なことをしてくれたもんだ」
『ねぇぜんじろー、抱っこしてぇ』
『抜け駆けはずるいにゃ。テトが先にゃよ』
『争うなガキども。善二郎の寵愛を受けるのはこの私だ』
『独り占めはしないという決まりだろう……? 主さまは皆を平等に愛してくれるさ』
『でも、善二郎さまったら夜の相手はまったくしてくれないんですもの。寂しいわ』
屋上で始まる飼い主争奪戦に善二郎はやれやれと肩を落とし、その場に地図を広げた。
魔物たちは善二郎に絶対的な信頼を寄せている。もちろん全員が何よりも愛しているのは善二郎だ。
そんな魔物たちが飼い主である善二郎を取り合うのは当然ともいえる状況なのである
「あまり騒ぐなお前たち。帰ったら全員可愛がってやるから……
さて、ここからどうやって帰ればいいんだ? この辺りの地理は良くわからん」
『もしかしてアスタロト連れてこなかったのって、白帝に感づかれないため~?』
『だとしたらさすがご主人様にゃ!』
『同族だもんねぇ、あいつら近寄るとすぐお互いを察知するから……』
『あいつら確か天魔族でしょ? 人間は七天とかネーミングセンス無い呼び名付けてるけど』
『やぁねぇ。天魔族なんて私たちが勝てる相手じゃないわ』
『確か、『境界』のアマテラスも天魔族だった気がする……』
『おぉ怖い怖い……っははははは!』
『……くだらん』
地図を広げて小さく唸る善二郎の周りで、魔物たちは談笑に勤しむ。
その会話に秘められた事実を理解できるものなど、いなかった。
その後、しばらくの間地図で現在位置を確認したり、帰り道を探っていた善二郎だが
「よし」と小さく呟いてスッと立ち上がり、バチンと指を鳴らした。
その瞬間、魔物たちはぴたりと話すのをやめて善二郎の周りを囲むように整列する。
「さぁ、帰るぞ」
翻した視線の先に映る物。それを知る者は居ない




