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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 2編 【水姫祭】
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69『伝説』

微妙な顔をしながら汚れたカードをじっと見つめるアサギ。

その様子はどこか神妙である。何ともいえない空気が辺り一面に漂っていた。


「なぁアサギ、そのカードはどういうものなんだ?」


「……」


アサギは答えない。

ただじっとカードを見つめ、光にすかしたり裏返したりして首を傾げるばかりだ。


「おい、アサギ――」


「うっさいわね。少し黙っててよ」


ピシャリと払いのけるように言うと、アサギはやれやれと肩を落とした。

汚れたカードの淵が、きらりと輝く。


「どうすればいいのかしら……」


「はぁ……」


見てみると屋台のお姉さんはがっくりと消沈し、既に片づけを始めていた。

そしてギャラリーはぞろぞろと去って行き……やがて俺を含めた三人だけが残った。


『?』


キャロルは相変わらず状況を理解していないようだ。


「で、それはどういうものなんだよ」


「これはとても珍しいお宝なの。世界にたった七枚しかない貴重なカードなのよ!Sクラステイマーのクラウディアが使い魔の力を使って作り出した『願いを叶える』カードなの!一回使うとただの紙切れになっちゃうけど、オークションに流せば国を3つ買えるほどの値が付くわ。これさえあれば国を滅ぼすことも出来るし、他人の心だって思うがまま! 何でもできるわ。

とにかく、こんな祭なんかで手に入るような代物じゃないのよ!!」


薄汚れたカードを手に輝く瞳で熱弁するアサギ。

うん、まぁ凄いものだってことはよく分かった。もうなんか凄すぎて訳分からん。


「……でも、私は使い方がよくわからないのよ。空に掲げて願いを言えばいいのかしら」


「もう好きにしろよ。キャロル、他の皆を探しに行こうぜ」


『……♪』


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私も行くわ」





「……」


レイニィタウンの最奥、参杯客が溢れる神社の屋根の上に、ユイは佇んでいた。

その傍らには半透明の大蛇、水姫が寄り添うようにとぐろを巻いている。


水姫は眼下に広がる人の群れを見て楽しげに嗤っていた。


『見てごらんよ、白いの。人間が私の加護を求めて列を成している。

昔はちっぽけな生き物だと思ってたけど、こうして見てみると微笑ましいねぇ』


「相変わらず貴女の考えには賛同できませんね。

私は人間なんて大嫌いです。昔も今も、それは変わりません」


ユイはぷいっと顔を逸らして毛づくろいに勤しむ。


『あはは、あいつをまだ気にしているの? いい加減に忘れちゃいなよ。

人間は悪い生き物じゃないさ。それはアンタもよくわかってるはずだよ』


「……」


水姫は自らの透き通る蛇腹から大槍を取り出し、うっとりと目を細める。


『……あいつが消えたのは、他の人間のせいじゃない。ましてやアンタのせいでもないよ。

まぁ、アンタからしたら人間ってのは大好きだった主を殺して、自分を狭苦しい箱に封じ込めた憎き存在なんだろうけどねぇ……人間はよくやった方だと私は思うよ。何せアンタは私らの中じゃ一番強かったんだから』


「今の私はとても非力です。できる事なら皆さんに会いたくありません……」


『まぁそう言わないの。今のアンタは充分強いし、見た目はあんまり変わってないよ。

久しぶりに皆で酒でも飲みたいねぇ……皆どこ行っちゃったんだか』


大槍を手に、どこか遠くを見つめる水姫はとても寂しげである。

ユイと水姫はよく喧嘩する仲ではあったが、この時ばかりは穏やかな雰囲気に包まれていた。


『聞いた話、あの魚と蠍もアンタと同じように封じられたらしいよ。

連絡は取れないけど……鳥と木は無事らしいね。龍は知らない』


「そうですか。別に会う予定はありません」


ユイはそれだけ言うと、じっと遠くを仰ぎ


「それでは私はそろそろ失礼します。私には、帰るべき場所がありますから」


屋根から飛び降り、雑踏に紛れて姿を消した。



「帰るべき場所。ねぇ……うん、良い響きだ」


残された水姫は彼方を見つめ、ただケラケラと笑っていた。




広場から少し離れた路地裏。人通りが少ないその場所に暁先生は立っていた。

その手には祭で獲得した戦利品の数々。そしてその傍の建物には黒い龍がへばりついている。


燃える様な朱色の瞳、艶やかな黒い鱗。しなやかな尻尾と大きな翼。

心なしかぐったりと建物に身を寄せる龍の口からは紅色の煙が漏れている。


「やれやれ……少しは落ち着きましたか?」


『……』


「全く……お酒が飲めないのに甘酒なんて飲むからですよ」


黒い龍は低く唸りながら建物の壁を鋭い爪で抉る。

爪の他にも、牙や大きく揺れる尻尾は立派な凶器となる。


さらに、龍の周りには具現化した紅色の文字が淡く光を放っていた。


時折飛んでくる紅い刃をひょいひょいと回避し、暁先生は軽くため息をついた。



「はてさて、どうしましょうかねぇ……」

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