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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 2編 【水姫祭】
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65『本領発揮』

~黒館・地下闘技場~

 

――轟音と共に、白い鎧が壁に叩きつけられる。

壁は大きく陥没し、空気がビリビリと震えた。


茨を纏ったクラウスは大きく跳躍しよろめく鎧の(ヘルム)に狙いを定め、

防御の為構えた大剣もろとも左腕を力任せに振りぬいた。


ガァン!という小気味いい音と共に、ヘルムは大きく弾き飛ばされ壁に激突した


「無駄だって、どうして理解しないんだい?」


頭を失った鎧は振りぬいたクラウスの左腕をつかみ、背負い投げの要領で地面に叩きつける。

鈍い音と共に、クラウスの背に衝撃が走った。


「ぐ……っ!」


「君の薔薇は便利な力を持っているのに、生かしきれてないんじゃないか?」


ファルシオは倒れるクラウスの体を右足で思い切り蹴り上げ、直後異変に気付く。

蹴り上げたのは茨の塊。変わり身である。


銀の甲冑に毒を纏う茨が絡み、甲冑は異臭と共に形を失ってゆく……


「強酸性の毒か。良く思いついたじゃないか」


頭と右足を失ったファルシオはそれでもなお、剣を支えに立っている。

ファルシオの鎧に中身は存在しない。彼の体はとうの昔に朽ち果てているのだ。


しかし彼は使い魔の力を借りて、昇天することなく現世に踏みとどまっているのである。


「ふん……分かってはいたが、やはり勝ち目は薄いな」


大薔薇の傍でじっと不死身の鎧を見つめるクラウスの体力は尽きかけていた。

それも無理は無い。ファルシオは死人なのだ。


幾ら倒しても蘇ってくる鎧は、それこそ跡形もなく消し去るくらいの攻撃をしなければ完全に倒すことはできない。クラウスにはそこまでの気力もスタミナも残されてはいなかった。


「さて、どうする? まだ続けるかい?」


「続けても……大して、状況は変わらんさ」


「そうそう。そんな弱い人より私と遊ぼうよ」



「「!!」」


クラウスはバッと天井を見上げた。

視線の先には……


「ふふ。その鎧がここの旦那様なのね?」


天井に足を付いて逆さまに立つ少女・妖紀がにやにやと怪しい笑みを浮かべていた。


さらに……



――ガコン「!」


施錠してあった地下闘技場の扉が開け放たれ、外部から黒い影が舞い込む。

蠢く影は龍のようにしなり、螺旋状に闘技場を周ると天井に立つ妖紀の傍らで紅い眼を開き……大きく翼を広げた。


「……柊。これは一体どういうつもりだい?」


「……」


ファルシオは妖紀の方にいつの間にか装着した頭を向け、呟く。

開錠された扉の傍らには、深紅のメイド服を纏う女性・柊が佇んでいた


「……ごゆっくりどうぞ」


柊はそれだけいうと深々と頭を下げ、姿を消した。

柊が消えると同時に扉は再び施錠され、地下闘技場は密室と化した。


右足を失ったファルシオと、憔悴したクラウス。

そんな二人に妖紀の相手をする気力など、残っているはずもない。



「ねぇ。私と遊ぼうよ」



~レイニィタウン・とある広場~



ユイと共に街を歩き続けてどのくらい時間が経っただろうか。

広い街だからか、中々皆が見つからない。


「居ました」


ぴくん、とユイが反応し、ぴっと指差す。

その方を見てみると、広場の傘つきベンチに座る見覚えのある奴らが何かを話していた。


特殊科の皆だ……やっと、見つけた……


その瞬間俺は安心からか脱力してしまい、体が急に重くなるのを感じた。


「あっ、杉原君! 探しましたよ~」


見覚えのある面子が、俺とユイの元へ駆け寄ってくる。

それっきり、俺の意識は途切れた。






……俺が目覚めると、不思議なベッドの上だった。

今日はよく気を失ってしまうな等と考えつつ、水色の天井を眺めていると

視界の端からにゅるんと透明なゼリー状の何かが差し出されてきた。


「?」


『……』


半身を起こしてみると、キャロルがベッドの傍らに座っていた。

差し出されたゼリー状のものは食べれるものらしい。キャロル自身も咥えている。


「あ、ありがとう」


『……♪』


キャロルはフードの下に白い八重歯を覗かせた。目元は見えないが笑顔なんだろう。


ゼリー状のものを受け取って口に含んでみると、意外とひんやりとしていて美味しかった。


味は……ほんのり甘く、鼻からスッと抜けていくような不思議な香りが何とも言えない。

その上舌で潰せるほど柔らかく、滑らかなのど越しが病み付きになりそうだ。


こんなに美味しいゼリー状の物を初めて食べた気がする。

何というか印象的だ。体に残っていた気だるさも一気に取れた。



「ところで、他の皆は……?」


『……』


俺が尋ねるとキャロルは、はむはむとゼリー状の物を咥えつつぶかぶかの袖に包まれた手で窓の外を指した。見てみると、いつの間にか外は暗くなってしまっていた。


俺は結構長い時間寝ていたんだな……

っていうか、キャロルはもしかしてずっとそばに居てくれたんだろうか。

退屈だったろうに……案外優しい奴なんだな。


さらに部屋をよく見てみると、結構暇つぶしをしていたらしい痕跡が残っている。


「……起きたのですか? 心配させないでください……」


非常に聞きなれた甘い声。

体を捻って見ると、俺が寝ていた場所のすぐ隣でユイが一緒に寝ていたらしく、

俺はもぞもぞと毛布から這いだしてきた毛玉を抱きしめずにはいられなかった。


「お前も居てくれたのか……ありがとうな」


「っ……いきなり抱きしめないでください……!」


ユイはいつもの如く拒絶的な台詞を吐いてくるが、

ちゃっかり俺の背中に手を回しているのは秘密だ。



「……もう、祭が始まりますよ。早く用意してくださいっ」



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