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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 2編 【水姫祭】
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EX『暗闇に魅入られた少女』



とある街の一角、薄暗い路地裏に、一人の少女が住んでいた。


貧しい家に生まれた彼女は幼いころ親に捨てられ、それでも彼女は必死に生きていた。

八百屋の隅に置いてある葱を盗み出し、路地裏に持ち帰って齧ったり

ときには肉屋にねだって切れ端を分けてもらったりもした。


道行く人を呼び止め靴を磨き、雑用を引き受け、わずかな収入を得て

大きな屋敷に出向き、働かせてくれと頼みこんだ。


しかし薄汚れた子供が屋敷に入れてもらえるはずもなく

当然のことながら門前払いを食らってしまう。

それでも彼女はめげずに少しずつ資金をかき集め、

少しでも身なりを小綺麗にして、また別の屋敷に出向く。


それでも、彼女の面倒を見てくれる者など居なかった。


そんな日々が何年も続き、身も心も疲れ切った彼女は暗闇に助けを求めた。

誰に言ったわけでもない。ただ、誰かの傍に居たかった。

暗い路地裏にたった一人住んでいた彼女は、家族と呼べる存在が欲しかった。


……そんな彼女の声を聴く者がいた。



――『苦しいか? 私が楽にしてやるぞ』



その時彼女が何を見たのか。それは、誰にもわからない。




……その後、毎日のように街を駆け回っていた少女は姿を消し

代わりに、黒館という屋敷から暗闇を纏う魔物が現れるようになったという






――それは、とある日の出来事。


真っ暗な街の、真っ暗な道、真っ暗な影から、声が聞こえた。


『苦しいか? 私が楽にしてやるぞ』


声のした方へ目を向けてみると、そこには蟲みたいな『悪魔』が佇んでいた。

大きな翅と、長い触角、幾つもの鋭い刃。

その周りには、黒い影よりも黒い闇が渦巻いていた気がする。


その鏡みたいな刃には、怯えた表情の私が映っていた。

青い目から涙を零し、服はぼろぼろ。薄汚れている。


その時私は初めて、自分がどれだけちっぽけな存在かを理解した


『どうした。私が怖いか……? なぁに、すぐに楽になれるさ。

ただ、私を受け入れ、全てを委ねればいいのだ……』


黒い影の中で悪魔の目は白く光っていた。

ニタニタ笑うその顔は、とても、とても、怖かった。


その時、私は何て答えたんだろう。

良くわからない……けど、気が付いた時には




――私は、真っ黒になっていた。




目を開くと、そこは真っ暗な場所。

動こうとすると、体が重くて動けなかった。


辺りは暗かったけれど、私が居た暗い街だということは分かった。

そしておそらく私が居るこの場所は……路地裏だ。


ふと、私は体に違和感を感じた。

私の目線はこんなに高かっただろうか。それに、体も何だか変な感じがする。


「――ッ」


ふと、近くで誰かが声にならない悲鳴をあげた。

私が無意識に目を向けてみると……女の人が、恐怖に満ちた表情で私を見つめていた。


「ば、化け物……!」


バケモノ……? 違う。私はバケモノなんかじゃ……


「嫌、近寄らないで……っ 誰か、誰かぁ!」


女の人は叫びながら逃げてしまった……


私の意識とは別に、重かった体が動きだし……建物のガラスを覗き込む。

……ガラスには、水色の眼を持つ『悪魔』が映っていた。


暗闇に光る水色の瞳。真っ黒な刃。大きな翅。大きく湾曲した……角。

周りの暗闇は全て、私の体と繋がっている。

……どこから見ても、『化け物』だった。


これが……私? そんな……


『クク……驚くのも無理はない。お前の意識は私の中にあるのだ』


ガラスに映る化け物が、にたりと笑った。





「うわぁ、魔物が出たぞ!」


――違う。


「テイマーを呼べ! こいつは害魔だ」


――違う。



私を見た人は皆逃げてゆく。

私は魔物なんかじゃ……ないのに。


でも、私の意識じゃ体が動かない。


「ほう……魔物に呑まれた娘か。珍しいな」


ふと気が付くと、真っ白な騎士が私に剣を向けていた。

この人は誰だろう……どうして、私のこと……


「魔物よ。名を名乗れ」


『私の名は暗闇(ダークネス)……この娘の存在に気が付くとはな』


「貴様……やはり『常闇の支配者』か。道理で嫌な気配だと思ったよ。

どうしてこんな街にやってきた? 貴様は魔界の深淵に住まうべき者だろう?」


『知らんなぁ……この娘が助けを求めていた。だから私は応じた。

ただ、それだけだ……それにしても、魔界の存在も知っているとはな……』


私の意識とは関係なく、白い騎士は会話する

ただひたすらに、淡々と。『化け物』と対峙しているのに……


その瞳はまるで親の仇を睨むような鋭い光を宿していた。


「その子を解放しろ。貴様の魔力は人の体には強すぎる。

このままじゃ貴様も憑代を失うことになるぞ」


『知るか。この娘は私の物だ……』


ぎゃりぎゃりと私の体から刃が突き出し、騎士を囲んだ

違う。違う! 私は……


「……これで最後だ。その子を解放しろ」


『……嫌だと言ったら?』






「――力ずくで奪うまでだ」






♦ ♦ ♦ ♦





……ふと気が付くと、私は柔らかいベッドに寝ていた。

体が……軽い。手を見てみると、ちゃんと人間の手だった。


少し頭が痛いけれど……きちんと体も前のままだ


私は、どこかのお屋敷の中に居るみたい。

綺麗なふわふわのベッドに高級そうなランプ。部屋もすっごく広い。

私の体も綺麗になってるし、服は……喪服、かな……?


壁の隅には、あの人が身に纏っていた白い鎧が立っていた。


鎧の隣には、沢山の野菜やお肉が積まれていた。

私が大好きな葱も、とてもみずみずしい色をしている。


私はベッドから降りて、積んである食べ物の山をじっと見つめた


綺麗な青緑色……他の野菜もとっても鮮やかな色をしている



……美味しそう……これならきっと、生でも美味しいはず。

いっぱいあるし…………少しくらい、良いよね……?


「葱が好きなのかい? 珍しいな」


「きゃあぁ!!」


急に聞こえたあの人の声に、私は思わずその場にへたり込んでしまった。

慌てて部屋を見渡して見ても、私の他には誰も居ないのに……



「――お目覚めになられましたか?」


「!」


私が振り返ると、背の高い女の人が優しく笑っていた。

紅色と呼ぶに相応しいメイド服と、燃える様な赤い髪。真っ白な肌。

とてもきれいな人……凄く、優しそう。


「申し遅れました、私……柊と申します。

夕飯の用意はできております。さぁ、こちらへ……」











「――アサギ! また一人堕ちてきたみたいだけど……どうするんだい?」


「どうもこうもないわよ。どいつもこいつも……柊! 例の書類は!?」


「こちらに」



……黒館(くろのやかた)

幽霊街にひっそりと佇むその館は、幽霊たちの管理を任されている。


常に薄暗い幽霊街は文字通り現世で命を失った幽霊や魔物のための街であり、

となれば当然、黒館にも……。



「んもぉ、ちょっと行ってくるわ」


窓を開け放ち、暗闇に身を投じたアサギは黒い翅を羽ばたかせ、飛び立つ。

風を切る鋭い轟音と共に飛行する魔物の心臓部には、白い呪印が描かれている


「ここに来たばかりの頃は夜が来るたび自分の体に怯えていたのに……

今となってはすっかり使いこなしているな。流石、適応力は高いということか。

それはそうと柊、また腕に傷がついてしまったんだが……」


そう言ったファルシオは白い鎧に包まれた右腕をガコンと外す。

ファルシオの全身を覆う鎧に中身は()()


「旦那様……大概にしてくださいませ」


「ねぇ、ごはんまだー?」

「お腹空いたよぅ」

「今日はお肉食べたいなー」


柊の足元できゃいきゃい騒ぐcolorの四肢と額、胸にはそれぞれ呪印が描かれている。


「皆の呪印も見えてきたな……隠しておかないと」


「それでは、私が道具を持ってまいります。ついでに紅茶でもお淹れしましょうか」


「わーいっ」




白い鎧と黒い魔物。そして紅いメイドと極彩色の少女が暮らす黒館。

そこでは今日も、賑やかな声が響いている。

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