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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 2編 【水姫祭】
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61『薔薇と不死身と番傘と』

辺りを見渡して見ても、人影は無い。

この一瞬で行き交っていた人々はおろか、特殊科の皆が姿を消すなんておかしい。

状況的に考えて……さっきの少女の仕業か


「ユイ、起きろ」


「……んー……」


俺の首筋を抱きしめてぐりぐりしてくる毛玉を半ば強引に引きはがし、ゆさゆさと揺する

しばらくぼんやりと揺られていたユイではあるが、やがて意識が覚醒すると

俺の胸を突き飛ばして地面に着地し、何事も無かったかのように毛づくろいを始めた。


「全く……気安く触らないでください」


「お前が抱き着いてきたんだろうが」


ユイはやはり不思議な冷気を纏っているらしく、ユイの周りに降り注ぐ雨粒がことごとく凍り、霧散し、ユイの体に吸収されてゆく。

その様子はまるでダイヤモンドダストである。とはいえ、見惚れている暇はない


俺は、さっきの紅い番傘を追うことにした。

霧に包まれた幻想的な街並みの中、じっと目を凝らして見てみると、建物の角を曲がる紅い色が見えた。

あそこか。絶対捕まえてやる!


バシャ、バシャバシャ。


「(くそ……思うように足が動かねぇ)」


雨が降る中、荷物を持ったまま早く走るのは無理だ。

降り注ぐ雨は体を冷やし、みるみる体力は奪われ、水を吸った靴は足枷と化す。


歩くたびに足元の水が凍りつくユイには関係なさそうだ。

こんな時ばかりは、ユイの力が羨ましいと思う


「ユイ、荷物持ってくれ「嫌です」


バシャ、バシャ。

そうこうしているうちに少女が曲がった建物の角にたどり着いた。


しかし曲がった先に紅い番傘の影は見えない。


「くそ……見失ったか」


「貴方はどうしてこう、いつもいつも面倒を引き起こすのですか」


はぁ、と溜め息を漏らしたユイは紅い眼で俺を睨みつける。


俺にどうしろって言うんだ……お前寝てたくせに。

と言いたくなる気持ちをぐっとこらえ、俺は再び紅い番傘を探す


俺の体と髪はすっかりびしょ濡れだが……ユイの髪は柔らかく風に靡いている。

ひょっとしたらユイは濡れることも無く、寒さも感じないのかもしれない。





異質な音と共に、豪華な装飾が成された門がこじ開けられる。

鋭い爪を備えた触手が格子に絡み、切り刻む。


「見つけた、見つけた……あの子の匂いがする」

――クスクス。


妖紀は原形を失った門をくぐり、黒館の正面玄関の前に立った。

その傍には歪な影がひっそりと佇んでいる


立派な扉の中央には金色のベル。妖紀は迷わずにベルを鳴らした


――カラン、コロン


客人の来訪を告げるベルの音と共に、扉が開き……

そこには、深紅のメイド服を纏った女性。柊が佇んでいた


「ようこそ……黒館(くろのやかた)へ」


『……ッ』


言葉にならない唸りをあげた『影』は鋭い刃を柊の首に突き付け、

数本の腕で妖紀を守るように包み込んだ


妖紀は自らの背後に佇む影を愛おしそうに抱きしめ、寄りかかる。


「大丈夫だよ。でぃあぼろ……敵意は感じない」


「妖紀様、ディアボロス様……あなた方をお待ちしておりました。

さぁ、こちらへ……旦那様の元へご案内いたします」


深々と頭を下げた柊はそっと屋敷の中へ妖紀と影をいざなう。

玄関の先はロビーでは無く、果てしない廊下が続いていた


「案内してくれるの? ありがとー」

『……』


妖紀は微笑みながら廊下を歩いてゆき、音も無く浮遊する影も妖紀の後を付いてゆく。

二人が通った後の絨毯には、赤黒い足跡がいくつも付いている


……二人の先を行く柊の口元は、僅かに歪んでいた




~黒館・地下闘技場~


『毒を作る』


原形を留めていない瓦礫の山の頂上に、巨大な薔薇が花開いていた。

光る茨を纏い、堂々と花弁を広げるその様子は気高く美しい。

その鋭すぎる棘からは毒々しい液体が染みだしている


ぽた、ぽたと滴る液は猛毒を秘めている。人なら数分と掛からず死に至るほどだ。

しかし……対峙している相手は人ではない。


大薔薇の傍で左手をぐっと握りしめるクラウスの表情は険しい。


「(相性が悪すぎる……とても勝てる相手じゃないな)」


クラウスが睨む先には、大きく陥没した壁と白い鎧の残骸が散らばっている


「随分と強くなったんじゃないかい? クラウス……」


床に散らばる白い破片が、音もなく形を取り戻してゆく。

その足元から順に白い破片は組み上がり、やがて亀裂すらも無くなってゆく……


「ククク……」


頭以外の部位が組み上がった白い鎧は足元に転がるヘルムを拾い上げ、装着した

かちゃり、と固定されたヘルムの奥には……オレンジの光が灯っている


「相変わらずだな……この化け物が」


「褒め言葉さ」


クラウスは吐き捨てるように呟き、光る茨をその身に纏わせ、

ファルシオは何処からか取り出した広刃の大剣を構えた。


純白のヘルムの奥から覗く光はまるで眼光。

ほんの数分前まで破片だった白い鎧は、クラウスの前に立ちはだかっている



猛毒の薔薇と不死身の騎士。

勝敗は火を見るよりも明らかであった



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