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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章【夏休み】
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54『母』


踏み入った霊山はきちんと山道が整備されており、意外と歩きやすい。

辺りの景色を見ながら進む俺とは対照的に、ユイはひょいひょいと先へ進んで行ってしまう。

しかも道の脇の林の中を、だ。整備された山道を歩けばいいものを……


そして、見失ったかと思うといつの間にやら隣を歩いていたり

一定の距離まで離れると立ち止まって俺が来るまで待っていてくれたり


何だかよくわからないが、やっぱりユイにとって外出は楽しい事らしい。

常にパタパタ揺れ動く尻尾が何よりの証拠だ。


「何をもたもたしているのですか。もう少し機敏に動いてください」


「そんなに急ぐ用でもないだろ。散歩を急かす犬みたいだなお前」


「犬扱いしないでください。私はそこらの犬とは違うんです」


「はいはい……」


今にも噛みついてきそうなユイの柔らかい髪を撫でつつ、俺は山道を進む。

霊山を歩いていると、時々魔物が飛び掛かってくるが

次の瞬間には氷漬けになって何処かへ飛ばされるのでとりあえずは安全である。


ユイにスキャナを向けてみると、『氷を司る』魔物と出た。

少し前は『冷害を引き起こす』魔物だったが……

まぁとりあえず氷を操る系の魔物であることは確かだ


そんなユイが熟睡すると人型の体は消滅し、一本の刀が残る。


常に冷気を纏う小太刀は紙のように軽く、あらゆるものを切り刻む。

柄には白い毛皮。そして曇りないその刃には『神威』という名が刻まれている。


明らかに『人』が彫り込んだ文字である。


「じろじろ見ないでください。気持ち悪いです」


「悪かったな」


等と何だかんだやっているうちに、俺とユイの視界には立派な屋敷が姿を現した。

その屋根を貫くように、樹齢数千年はあろうかという巨木が聳えている


そして大小様々な魔物が俺とユイを見つめている。

ある者は警戒し、ある者は怯え、そしてある者は好奇心に満ちた目で。


「やっと着いたか……相変わらずだな」


「ここですか。魔物が溢れていますね……それと、とても懐かしい香りがします」


すると、屋敷の中から白い着物を着た少女がとてとてと歩いてきて

俺たちの前で立ち止まり、ぺこりと頭を下げた


リボンで束ねた白い髪を綺麗に切りそろえ、大きな紫色の瞳がきらきらしている

身長はユイと同じくらい……何というか将来が楽しみな女の子だ


「圭一様ですね? お待ちしておりましたっ」


「君は……?」


「紫苑様がお待ちです! さぁ、こちらへどうぞ」


女の子はニコニコしながら俺とユイを屋敷へ(いざな)

前はこんな娘居なかったような……相変わらず母さんの周りは良くわからないな。


ユイは俺の服の裾を掴みつつ辺りの魔物を睨みつけている

警戒するのは良いけどさりげなく裾掴むのはやめてもらいたい


ふとポケットに目を向けると、アリスはすやすやと眠ってしまっていた。

道理でおとなしいと思った……人形のくせにかわいい寝顔してやがるぜ


ってかここ、俺の実家なんだけどな。

どうして客人みたいに扱われているんだろうか



ざわめきつつ道を開ける魔物をよそに、俺たちはやがて茶室にたどり着いた

案内されずとも母さんが居る部屋なんて見当つくんだが……見事に予想通りだったな


それなりに広い茶室の真ん中では、薄紫の着物をきた女性……

もとい母さんが静かにお茶を点てていた。


何というか……相も変わらず美人である。

しばらく会ってなかったこともあって一瞬見惚れてしまった。なんという不覚


「ごゆっくりどうぞーっ」


――ぱたん。

明るい声と共に障子が閉じられ、辺りが一瞬で静まり返った。


「……このくらいでいいかしら」



優しい声で呟いた母さんは、ぐいっとお茶を飲み干し……

……むせた。


ぶっちゃけ礼儀作法も何もあったもんじゃない。


「っ……やっぱり緑茶は苦いわね。麦茶が飲みたいわ」


「(……何だこの状況)」


母さんは軽くため息を漏らし、取り出したハンカチで口を拭き

こほん。と咳払いしたのち、気が付くと優しい微笑みと共にユイを撫でていた


「ふふ、お帰りなさい圭一。待ってたわよ」


「母さん……せめて俺の方を見て言ってくれないか」


「かわいい子ね……うちの子になる気は無い?」


「(まるで聞いちゃいねぇ……)」


なでなで。

母さんは穏やかな笑みを絶やさずユイの頭を撫でまわす。


何故かユイも大人しく、されるがままにされている。

それどころかとても気持ちよさそうだ

……パタパタ動く尻尾が全てを物語っている。


間違いない。動物を知り尽くした母さんのテクだ


「貴女、名前は何ていうの? きっと圭一に素敵な名前を貰ったのよね」


「ん……ゆい、です……」


「そう。かわいい名前じゃない……良い子ね」


もうなんかユイが洗脳されてるようにしか見えない

普段なら触らないでください的なことを言うのに……


「ユイちゃん……美味しいおやつをあげるわ。こっちへいらっしゃいな」


「はい……」


ふんわりした雰囲気に包まれ、ユイと母さんは茶室から出て行った。

どうしてこうなったんだ……


ふと、屋敷を貫く巨木から囁く声が聞こえた。


『ふん……天下の白帝が堕ちたものだな』


「……あ?」


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