プロローグ3『目覚め。開放。夏休み!』
チュン、チュン……
穏やかな鳥の囀り。
窓から差し込む優しい日差し。
胸の上に感じる冷たい温もり。
俺がゆっくりと目を開けると、ぼんやり霞む視界の中
ずっしり微笑ましい重みを感じる胸の上には白い毛玉が乗っていた
確か前は隣だったが……ついに上になったか。
顔を横に向けると枕の傍でアリスが座っていた
「……おはよう、アリス」
『Good morning』
「んぅ……」
白い毛玉がもぞもぞ動いて少しずつ顔の方へ擦り寄ってくる。
僅かに開いた紅い瞳がじっと俺の口元を見つめている理由は知らん
「朝の挨拶……するです」
「一応聞いておくぞ。何する気だお前」
「聴くだけ野暮です……朝の口づけを」「降りろ」
~
対抗テストから一晩が過ぎ、誰も居なくなった箱庭。
いつしか白い立方体には亀裂が入り、隙間から黒い波動が漏れ出している
『オオォォォォォォ――!!』
刹那轟く鈍い咆哮に空気は震え、轟音と共に箱庭は白い瓦礫と化した
吹き上がる白い粉塵が風に消えるころ、瓦礫は動き始める
ガラ、ガラ……
「けほっけほっ……流石に眩しいわね」
瓦礫を押しのけ現れたのは、優しい日差しに目を細める少女。
そのきめ細かな肌には擦り傷が沢山できており、身にまとうブレザーは穴だらけだ
縮れたアホ毛をピコピコ動かす少女・アサギは瓦礫の山を見渡し
「ねぇ! どこにいんのよ、せめて何か合図しなさいッ」
金属音と共に銀のフォークが突き出し、瓦礫の山を吹き飛ばす。
『……』
フォークを握っていたのは、これまたボロボロの布を纏う少女である
小柄な身を包む布が裂け、白い肌や栗色の髪が露わになっている
「アンタ、キャロルって言ったっけ……中々やるじゃない」
『……♪』
アサギとキャロルはぐっと握手し、お互いに笑顔を見せる
「ところでアンタ、なんでそんなに眩しそうにしてるのよ」
『……』
「まぁいいわ。私は一回屋敷に戻るけど……」
『♪』
「え? アンタも帰るの?……なら、途中まで一緒に帰ってあげてもいいわよ」
『……♡』
二人の少女は並んで瓦礫の山を後にする。
~箱庭跡地~
「痛てて……でぃあぼろ、だいじょぶ?」
『ォォン……』
崩れ去った瓦礫の中、妖紀は力なく紺色の闇に沈んでいた。
瓦礫の隙間から差し込む優しい日差しに照らされ、
鋭い触手と禍々しい翼を持つ魔物が妖紀を包み込むように佇んでいる
魔物は瓦礫に埋もれるシルクハットをひょいと掬い上げ、
暗闇に沈む妖紀の頭にそっと被せる
ボロボロになった闇色のワンピース。千切れた紺色の髪。
その傷だらけの幼い体を労わるように、触手が緩やかに蠢いた。
『……』
「うん、大丈夫だよ。でぃあぼろ……ありがと。
暗闇を操る魔物。か……相手が悪かったね……」
妖紀は差し込む光に目を細め、クスクスと笑みを零す。
「見てごらん……これが、陽の光だよ」
切り刻まれ、千切れた袖に繋がれていた鎖は、切れている。
それが何を意味するのか。
それを理解する者が現れるのは……もう少し、先のお話。




