45『一年生の想い』
二年生の出番が終わったことを知らせる放送が入り、俺を含めた一年生は席を立つ。
「まぁ精々私の足を引っ張らないようにすることね」
「貴女が言える立場ですか? 暗闇でしか活躍できない外見詐欺師のくせに」
「アンタは黙ってなさいよ! 冷やすことしかできない非合法ロリのくせに」
「黙っていない人が何を偉そうに。ところで貴女の胸部は私と変わりませんね」
「アンタのまな板と一緒にしないでくれる?」
「そうですね。貴女の絶壁よりは数倍マシでした」
「「……っ!」」
「喧嘩するなって……」
俺は隣で不毛な争いを続ける二人を横目に俺を含めた一年生は2Fに続く階段を進む
「お嬢様にもお友達が出来たようで……喜ばしい事です」
で、何故かナチュラルに混ざってる真っ赤な暁先生。もとい柊さんは
アサギとユイの小競り合いを見てにこやかに微笑んでいる
『Who is the small child?』
アリスが柊さんをぴっと指差して首をかしげている
あの小さい子は何だって聞かれてもなぁ……小さい子って言うか柊さんなのだが。
「おや、私に何か御用ですか?」
「あっいえ、ちょっとうちの人形が変なこと言ってまして」
『Huh!?』
「ふふ、可愛らしいお人形ですね」
「……どうも」
何だろう……無性に恥ずかしいぞこの状況。
別にアリスは俺が趣味で持ってるわけじゃないって言うか貰い物だし?
貰い物を持ち歩こうが仕舞おうが俺の自由っていうかなんていうか。
「……ねぇ、圭一君」
いやまぁ可愛いけどさ。俺の掌で大人しく俺を見つめる仕草は正直萌える。
って言うか俺は何を考えてるんだ
暁先生じゃあるまいし……心を読まれるなんて無いはずなのに。
見た目が似てるだけに心を見透かされているような気がする
いや、まさかな。他人に心読まれてたまるか
「いえ、無理ですよ?」
「……え?」
「貴方は今、『出来ないだろう』と予想したんですね……分かりやすいです」
ふふ、と静かに笑う柊さんの瞳はいつの間にやら琥珀色に染まっていた。
この感じ……やっぱり似てる。
「ちょっと圭一! 柊を誑し込むのはやめなさいよ」
「身体的な年上がお好みですか。悪かったですね!」
「お前ら……」
~
やがて、俺たちは白い迷路の入り口と思わしき場所にたどり着いた。
恐る恐る中に入ってみると
なぜか脱落者と書かれた札を拾い集めて駆け回る人物が居たりとか
どこからか悲鳴が聞こえてきたりとか
白い壁の向こうから黒煙が上がっていたりとか……
「(入りたくねぇ……いやもう入ってるけど)」
「……」
ノワールが黙ったままじっと白い迷路の彼方を見つめている
「何でアンタずっと黙ってんのよ」
「寂しくなんか……」
「……?」
ぽつりと呟いたノワールは白い壁に赤い筆で『穴』と描き
そしてそれを同色の線でぐるっと囲んだ。
「先、行ってるよ」
「一緒に行かないのか?」
「……ばか」
……泣きそうな声でそう言ったノワールは、白い壁に空いた穴の向こうへ駆けて行った。
俺……何かしたか?
「あーぁ、泣かせた」
「最低ですね」
「お前らホントは仲良いだろ」
こういう場合、どうすればいいんだ?
追いかけるべきなんだろうけど……まずは原因を考えてみようか
女の子が沢山いる中に男子俺一人→気まずい
……じゃなくて。
女の子数人が話してる→話に入れない子が出る→「……」
……これか。
「まぁいいわ。折角だし、各自ゴールを目指しましょ」
「名案ですね、なら私はこちらへ行きましょう」
「行くわよ柊!」
「はいお嬢様」
ノワールは正面の壁をくり抜き、ユイは右へ、アサギと柊さんは左へ。
そしてアリスはポケットの中から俺を見つめている。
……ってちょっと待て。俺はどうなる
「何をしているのですか。早く行きますよ」
「ユイ……駆けだした後にその言い方はやめてくれないか」
~
白い通路を進むアサギと柊。
やはりこの二人の表情は余裕に満ちている
「さて柊。働いてもらうわよ」
「お任せください」
アサギはふと高い天井を見上げ、穏やかな光に目を細める
「ねぇ柊。アンタこの光を消すことなんてできないわよね」
「えぇ。できませんよ」
――バチンッ
真っ白な迷路の穏やかな光は消え失せ、通路は暗闇に包まれた
迷路のあちこちから生徒のざわめく声が聞こえ
真っ暗な通路には水色の瞳が淡く光を放っていた。
『……やっぱり、アンタを呼んで正解だったわ』
「恐れ入ります」
~
「……ばかみたい」
魔族の姫君、ノワールは呟く。
その朱色の瞳には僅かに涙が滲んでいた
「寂しいなんて……言っちゃダメ」
自分に言い聞かせてみる。
しかしその手は少し震えながらも『寂』と描いていた
『寂』の文字は具現化することなく、ノワールの心に沈んでいく……
「……私が、しっかりしなくちゃ」




