41『階段の先』
『お疲れ様……貴方は8位よ』
「え……あ、どうも」
階段の先、踊り場にはキラキラ光るハートマークが浮いていた
そして、やけに色っぽい声と共に
ハートの周りをくるくる回るトランプのうちの一枚が俺の手元に飛んできた。
トランプには8位と書いてある。これは……順位か?
『さぁ、中へ入って一息付きなさいな……』
回るトランプが誘う先には、休憩室と言われた扉がある。
無事に突破できた生徒は休めるのか……
「ユイ、休めるってさ。ほら行こう」
「言われなくてもそのつもりです」
『特殊科一名。ご案内……』
~
無数の長机と椅子。立派な厨房。数名の生徒。
扉を開けた先は……食堂だった。
「おう、遅かったな杉原」
藤野先輩が旨そうなチャーシューがどっさり乗ったラーメンを啜りつつ声をかけてきた
「……お疲れ様」
スミレ先輩はフカヒレスープ的なものを食べている
「先輩方……旨そうな物食べてますね」
「遅いわよ圭一!」
「お疲れ様。圭一君」
先輩方の隣にはアサギとノワールもいる
二人は角煮定食とフレンチ料理を食べていた。
「お前も貰えるぞ」
そういった藤野先輩は食堂のカウンターを指差す。
カウンターには佐々木さんが少し暇そうに野菜を切っていた
「いらっしゃい、食堂へようこそ」
「佐々木さん、ちなみにメニューは自由ですか?」
「ふふ、順位によって何を食べられるか決まるのさ。杉原君は8位だからシチューだよ」
佐々木さんは「召し上がれ」と言って美味しそうなシチューを机に置いた。
8位はシチューか。まぁ美味しそうだから良いけど……
「好きな席に座りな。しばらくは自由時間だよ」
「あ、ありがとうございます」
「……私には無いのですか?」
俺が不満げなユイを連れてフロアへ出ると、当然ながら他にも生徒が食事にいそしんでいた
黒猫を連れた生徒会長や、その他にも生徒が何人か……
そんな中、何処かで見たような植物少女が机の間をてこてこ歩いていた。
あれは……
「こらプラム、勝手にあちこち動いちゃだめだってばぁ」
「……桜?」
「あ、杉原君……! お疲れ様」
随分と久しぶりな気がする桜が俺に向かってぺこりとお辞儀し、プラムを抱き上げる
プラムが少し大きくなっているって言うか花咲いてる……
「杉原君も、20位に入れたんだね……良かった」
「桜の方が早かったみたいだな……お疲れ様」
「私の力じゃないよ。プラムが、頑張ってくれたから……」
「何してんのよ圭一!」
「あ……ごめん、じゃあまたな桜」
「うん……またね」
微笑んで手を振ってくれた桜はどこか寂しそうな顔をしていた。
「……」
「何を気にしているのですか。今生の別れじゃあるまいし……」
「そうだな……」
俺はユイと一緒に特殊科の皆がいる傍に座る
どうやら全員俺より先に突破することが出来たらしい。俺は最下位か……悔しいな
「ごちそうさんっと。よし、これで全員揃ったか」
「……順調」
「ふんっ どうして私が6位なのよ!」
「寝てたくせに……」「うるさいっ」
「アサギは6位か……先輩。順位ってどこかで見れます?」
「順位はあそこの掲示板に書いてあるぜ」
藤野先輩は壁に取り付けてある掲示板を指差す。
【一位・特殊二年 灸連寺 スミレ】
【二位・特殊三年 藤野 浩二】
【三位・獣人三年 粟木 ルイ】
【四位・植物一年 山背 桜】
【五位・所属不明 キャロル・フュリュッセルブルーメ】
【六位・特殊一年 アサギ】
【七位・特殊一年 ゼクフェリシア・ローゼン・ノワーリス】
【八位・特殊一年 杉原 圭一】
ちゃんと俺の名前も書いてあるな。いつの間に……
こうして見てみると、特殊科が占める割合がかなり多い。
八位の時点で五人とは……これで人数が多かったらもはや敵なしだな
これから先、どの学科がランキングに食い込んでくるか……
場合によっては特殊科が負けることだってあるかもしれない。油断はできないな
……っていうか、所属不明って何だよ。
「先輩……あの、五位の人って……」
「ん……飛び入りらしいぜ。ほら、あいつだ」
藤野先輩が指差した先には……大きな布で全身をすっぽり覆った怪しい人物が居た。
頭巾の中には黄色く光る眼が二つ。布を継ぎ合わせただけの質素なぶかぶかの袖で
小さなお椀を抱え込み、頭巾の中へ流し込んでいる。
『……♪』
見ている間にもその人物はお椀の中身を平らげ、ひょいひょいと傍に積む。
そしてその周りには塔のごとくお椀が積み上げられていた。
机にはお椀の塔の他にも大鍋が置いてあり、自由に取って食べて良いものらしい
まさか……わんこそばか?
小柄なのにすごい食うなあの人……
~
「玲紀様。お茶をお持ちいたしましたよ」
「……ありがとう」
「それで……少し厄介な『お客様』がいらしたようです」
「いいわ。混ぜてあげなさい」
箱庭の屋上には、優雅に紅茶を啜る校長と暁先生が居た。
「さて……今年は何人辿り着くのかしら」




