30『それぞれの思い』
~流星学園・特殊科教室~
今、俺たちは暁先生による授業を受けていた。
魔物の種類と学園の生徒数の比率がどうとか……そんな感じの授業だ
結局アサギとノワールは、俺とは離れた場所に二人並んで座らされている
「(将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。古い考えだけど理に適ってるわ
弱体化しているとはいえ……神威に真っ向から挑んでも勝ち目が薄いのは明白。
だったらまずあの杉原とかいう契約者をなんとかしなきゃ……)」
「(神威はスギハラ君に助けられて、多少なりとも借りがあるはず。
だったら、あの人と仲良くなって少しでも有利な立ち位置を確保できれば……)」
「……?」
何だろう……変な視線を感じるのは気のせいか?
まぁいいや。それより授業だ
「――魔獣・人獣・巨獣などの獣類学科の他、妖精などの精霊学科、
悪魔や魔人といった魔族学科などに分類される魔物は発見が容易なため
必然的に生徒数も多くなるのです。ここまでで何か質問はありますか?」
「Zzz……」
「……ありません」
「生徒数が多くなるということはつまり、ライバルが多くなるということでもあり
同時に対抗テストなどの学科対抗の行事では、点数が稼ぎやすかったりするのです」
……ということは特殊科は不利ってことか。
魔物の力は大きいが、やはり生徒数は大事ということなんだろう
「というわけで、少し対抗テストについて説明をしておきましょうか
まず、対抗テストは学科対抗・個人対抗・教師対抗の順で行われ
総合得点の高い学科が優勝となります。
優勝した学科には学園一の名誉と特別ボーナスが支給されるんですよ~」
「……今年の特別ボーナスは何ですか? センセー」
藤野先輩が食いついた。
先輩は三年生だから何度か対抗テストの経験があるんだろうな……
今年の。と言うあたり毎年違うのだろうか
「今年は……えぇと、確か夏休みの課題免除です」
「……え?」
思わず声をあげてしまった。夏休みの課題免除だと!?
学生にとっては何より嬉しいご褒美とも言えるじゃないか……
「クク……奴らの悔しがる姿が目に浮かぶぜ」
「……今年も一番は譲らない」
先輩二人が張り切っている……ように見える。
あれ? 今年もってことは、先輩方は去年も優勝したのか?
「藤野先輩、ちなみに去年のボーナスとやらは……?」
「ん? あぁ去年の冬は確か生徒分の温泉宿泊券だったかな」
冬には温泉か……最高じゃないか
ってか、もしかして対抗テストは年に二回やるのだろうか?
「それじゃあ次に得点配分について説明しましょうか
まず、学科ごとに―――
~降魔城・地下迷宮~
「はぁ……どうしてこんなことに」
網目状に張り巡らされた通路。
一定間隔で並ぶ松明。
どこまで行っても同じ景色が続いているように思える地下迷宮に、橘はいた。
橘は託された鍵を手に、炎に照らされた通路を歩き続ける
「えぇと……どちらへ向かえばいいのでしょうか……」
時折姿を見せる十字路に出くわすたび、橘は前後左右の感覚を失いかける
自分は今、どの道から来たのか。それすらも分からなくなってしまう
右を見ても、左を見ても、振り返っても、正面を向いても、
その先には同じ道が伸びているように錯覚してしまう
それでも彼女は自分の感覚を信じ、歩き続けていた。
「ふぇぇ……ん」
……泣きながら。
~数時間後~
「……」
橘は大きな扉の前に居た。
とても古びた、巨大な鉄製の扉である。
錆びてボロボロになっているその扉には幾重にも鎖が取り付けられており
その中心に小さなカギ穴があった。
橘が鍵を差し込むと、カチャリと何かが開く音がした
「んしょ……っと」
力いっぱい扉を押すと、少しずらした程度であったが何とか中に入る為の隙間が出来た
橘はそっと中を覗き込んでみるが……
「……暗くて何も見えないですね」
灯り、灯り……と傍にあった松明を手に再び覗き込んでみる。
―――部屋の奥には、白い紐で縛り上げられた齢6~7歳ほどの少女が居た。
幼い少女の体は何本もの紐で固定され、空中に力なく浮いている
紐が吊り下げられた天井には意味不明な文字と不思議な機械。
少女の足元には深血のような液体で『封』という文字が書かれ
その周りの床には魔法陣のような紋様が描かれていた
常人ならすぐさま逃げ出してしまいそうなほど、その部屋は不気味だった
「モノ様……お許し下さいっ」
橘は深々と頭を下げ、紋様に足を踏み入れた。
そして少女の体を縛る紐を一つ一つ切断し、丁寧に解き……
幼い少女を、そっと抱き抱えた。
「キャロル様……」
『……』
キャロルと呼ばれた少女は、黒目がちな瞳を潤ませ橘を見つめる
「お目覚めになられましたか? ご主人様……いえ、龍皇陛下がお呼びですよ」
『……』
「あぁキャロル様、こんなに愛らしいお姿になってしまわれて……
以前はもっと凛々しきお方でしたのに……」
キャロルは橘の手から飛び降り、どこからか大きな布を翻し、その身に纏う
そして橘の方を振り返り……一言。
――『反転』
「……えっ?」
~
降魔城・地下迷宮の奥深く。
黄色いメイド服を引きずり、果てしない通路をとてとて歩く少女が居た
琥珀色の髪にはベージュ色の猫耳。
そしてブカブカのメイド服の隙間からは細長い尻尾が生えている
少女は嗚咽を零しながら大粒の涙を流し、時折服につまずいて転び、
それでも彼女は歩き続けていた。
「ぐす……ごしゅじんさまぁ……」
与えられた任務を果たし……主のもとへ帰るために。
その後、邪龍の二人組に保護され
しばらくの間可愛がられたことは言うまでもない。




