プロローグ2『二匹の魔物』
とある皇族の元に、一人の少女が生まれた。
姫として大切に育てられた彼女は幼いころから知能が高く、
物事をあっという間に覚え、いつしか天才と呼ばれるようになった。
自由奔放な部下と、王である父親に愛され、
彼女はすくすくと成長し、幸せな日々を送っていた。
幼いころから奔放な部下に囲まれ育った彼女は、せめて自分だけでもしっかりしなくてはという意思と、皆をまとめる姫としての自覚が芽生え、真面目で素直な性格になっていった。
争いごとを嫌い、優しく父親思いであった彼女はより一層愛され、親しまれた。
そんな彼女はある日、大きな城を探検するうちに、大量の本が収められた部屋を見つけた。
その部屋に積まれていた本は全て文字について書かれた書物であり、
彼女は悪戦苦闘しながらもその全てを読破し……文字の形、書き方、そして意味を学んだ。
……そして彼女は、いつしか文字を具現化する魔物になったという。
―――――
とある街の一角、薄暗い路地裏に、一人の少女が住んでいた。
貧しい家に生まれた彼女は幼いころ親に捨てられ、それでも彼女は必死に生きていた。
八百屋の隅に置いてある葱を盗み出し、路地裏に持ち帰って齧ったり、
ときには肉屋にねだって切れ端を分けてもらったりもした。
道行く人を呼び止め靴を磨き、雑用を引き受け、わずかな収入を得て
大きな屋敷に出向き、働かせてくれと頼みこんだ。
しかし薄汚れた子供が屋敷に入れてもらえるはずもなく、当然のことながら門前払いを食らってしまう。それでも彼女はめげずに少しずつ資金をかき集め、少しでも身なりを小綺麗にして、また別の屋敷に出向く。
それでも、彼女の面倒を見てくれる者など居なかった。
そんな日々が何年も続き、身も心も疲れ切った彼女は暗闇に助けを求めた。
誰に言ったわけでもない。ただ、誰かの傍に居たかったのである。
暗い路地裏にたった一人……彼女は、家族と呼べる存在が欲しかった。
……そんな彼女の声を聴く者がいた。
――『苦しいか? 私が楽にしてやるぞ』
その時彼女が何を見たのか。それは、誰にもわからない。
……その後、毎日のように街を駆け回っていた少女は姿を消し、
代わりに、黒館という屋敷から暗闇を纏う魔物が現れるようになったという。
―――
生まれも育ちも違う二匹の魔物
彼女たちは今、同じ場所に立っている。




