25『夕飯』
~流星学園・食堂~
「ユイ……ホントに食わないのか?」
「いらないと何回言ったらわかるのですか」
俺とユイは食堂にいた。ちなみにユイは大きいままである。
辺りの生徒がやけにざわついている……まぁ原因は分かりきっているのだが。
ってか何で大きくなってるんだ?
考え始めるとキリがないのでとりあえずスルーしとこう。
ちなみに今は夕飯を食いに食堂に来ているのだが……
ユイが『いらない』の一点張りで、どうしたものかと考えているところなのだ。
「でもさ……飯くらい食っとけよ。どうせタダなんだし、腹減ってるだろ」
「結構です。私は栄養を摂取せずとも生きていけますから」
「そういう問題じゃないだろ……」
ユイは飲まず食わずでも平気だと言うが、腹が減っていないとは決して言わない。
嘘をつくような性格ではないと思うし……
何より相棒を放置して一人だけ飯を食うってのも後味が悪い。
「まぁ食う食わないは後にして、とりあえず座ろう」
「私は早く部屋に帰りたいです」
「……何で?」
「何故って……部屋なら、貴方と……」
「俺と?」
「……」
ユイは色白な頬を赤く染めて俯いてしまった。何だってんだよ全く……
俺がやれやれと肩をすくめ適当な席に着くと、ユイも隣に座ってきた。
ちなみに佐々木さんにはすでにカツ丼を頼んである。
生徒がざわめく中、俺とユイの間だけしばらくの間気まずい沈黙が流れていた。
ユイは俯いたまま何か言っているが、聞き取ることはできない。
にしても……これまた随分と立派になったもんだな。
だがいくら使い魔といえどまじまじと見るわけにはいかない。
しかし随分と……あちこち『大きく』なっているのは確かだ。
そのしなやかな曲線は流し見でも良くわかるほどである。
すると、いつの間にか見知らぬメスケモ(獣人の女性)がじっと俺を見つめていた。
ふさふさした尻尾と、とがった獣耳が生えている。ユイと同じ狼系か。
灰色の毛並みと紫色の瞳のコントラストがとても綺麗である。
年齢はパッと見20代前半、身長は160前後だろうか。
もっとも、魔物には年齢など存在しないのかもしれないが。
健康的な女性らしい体つきは中々に見事である。
しかも、今のユイと比べても何ら遜色のないレベルの美人だ。
そしてそのしなやかな手には美味そうなカツ丼と小皿が一つ。
もしかして……持ってきてくれたのだろうか。
大きく弧を描くようにテーブルを廻って女性は俺とユイの傍に来た。
「……杉原様、ご注文の品をお持ち致しました」
「え……あ、どうも」
とりあえず俺は席を立ち、軽く一礼してカツ丼と皿を受け取った。
ユイと女性は軽く尻尾を揺らしながらも見つめあったりはせずにいた。
……意外と似てるな……ってかこの人は誰だ。
「申し遅れました。私、牙狼と申します……以後お見知りおきを」
女性は深々と頭を下げ、「少し、失礼します」とユイに軽く擦りつく。
ユイも嫌がる素振りは見せず、牙狼と名乗る女性を軽く抱きしめたりしている。
ダ、ダメだ……メスケモの女性二人が抱き合って百合にしか見えん。
「私はユイです。貴女の匂いは嗅いだことがあるような気がするのですが」
「牙狼って……どこかで聞いたような……」
「杉原様……暁様から入学祝いの品を預かっておりますので、後程お届けに参ります」
「あ、ありがとうございます」
「それではユイ様、名残惜しいですが私はこれにて失礼いたします」
「はい……また会えると嬉しいです」
そういうと二人は離れ、牙狼さんは去って行った。
……何となく聞き覚えがあるんだが、どうも思い出せない。
誰かの使い魔だったような気がしないでもない。
……ってかカツ丼に小皿が付いてきたのはあの人なりの気遣いなんだろうか。
まぁいいや、とりあえず夕飯だ。
「ほらユイ、メシ食うぞ」
「ですから私は――」
「いいから。お前が食う分には誰も困らないし、何より俺だけ食うなんてまっぴらだ」
「……」
「ほら、安心して食え」
俺は湯気の立つカツ丼を小皿に取り分け、ユイの前に置く。
ぶっちゃけもう一つ頼めばいいのかもしれないが、待っている間に冷めてしまう。
どうせなら熱々で食いたいしな……少なくとも俺は。
「そういや、ユイって熱いもの食えるのか? ってかそれ以前に箸使えるのか?」
「問題ありません。熱は体内ですぐに消えます」
そういったユイは、きちんと『いただきます』と手を合わせ、
意外と上手に箸を使ってカツを口に運ぶ。
……普通に食ってるな。しかも美味そうだ。
誰か箸の使い方を教えるような人がいたって言うのか?
ユイは、人型ではあるが魔物だ。自然に覚えたとは考えにくい。
あの箱にずっと封じられていたわけだし……
……相変わらず謎が多い奴だ。




