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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
112/114

外伝『クラヤミ』

おまけです。相変わらず短いですがよかったらどうぞ

仄暗い空の下。常闇よりも暗い怪しげな洋館に明かりが灯っていた。


黒館の一室、入室厳禁と書かれた扉とそっと取り付けられた可愛らしい小さなリボンが特徴的な部屋の中には、触角のようなアホ毛を揺らすアサギがベッドに横たわっていた。


枕元のランプが柔らかな光を灯し、横たわるアサギの頬を照らしていた。

アサギの手には、汚れた金枠のカードが鈍く輝いている。


絵柄はもう掠れて見えなくなってしまっている、タロットカードだ。

願いを叶えてくれる奇跡のカードだが、アサギは正直持て余していた


「どうしよっかなぁ……これ……」


アサギはカードを指で弄りながら、ため息と共に呟いた。




♦♦♦十数分前♦♦♦



「ねぇパパ、親になるのってどんな気持ち?」


黒館の書斎、空っぽのカップをくるくると回しつつアサギが呟いた。

椅子に堂々と腰掛け、じっと虚空を仰ぐ白銀の鎧、ファルシオがそのヘルムに朱色の光を灯す


「……いきなりどうしたんだ。らしくもない」


「別に……ちょっと気になっただけよ」


大きな椅子に深く腰掛け、細い足を組んで触角を弄るアサギ。

ファルシオは空っぽの腕を動かし、ばちんと指を鳴らす


ランプの光が届かない陰から、すっと柊が現れた


「何かご用でしょうか。旦那様」


「柊。お前にとって子供とは何だい」


「……どのような返答を期待しているのか存じませんが、私としてはどうにも……強いて言うならば深い愛情を注ぐ対象である。とでも」


淡々とどこか遠くを見つめながら答える柊に、ファルシオはやれやれと肩を落とし、本棚から本を取り出し読み漁り始めた


「アサギ。お前は血縁は無くとも僕の娘だ、何があろうとその事実は変わらんさ。何よりも大切な、愛しい娘だよ。僕にはもう滅びゆく肉体もないが……お前は違う。あと千年もすれば立派な女性だろうな。

せめて、立派に成長したお前の姿を見てから昇天したいものだ」


アサギは一瞬で顔を真っ赤にし、カップを落とすのも気にせず俯いてしまった。

飛散した破片を柊がひょいひょいと拾い上げ始める


「な、なななにいってんのよ……ばかじゃないの!」


荒ぶる触角を必死に押さえながらアサギは水色の瞳を光らせる


「親になる気持ちなんてものは、ならないとわからないものさ」


「……パパに聞いた私がバカだったわ!」


アサギはその場の勢いのまま書斎を飛び出し、自室に飛び込んだ。

部屋の扉の内側で、悶々とファルシオの言葉が渦を巻く


アサギは赤く染まった頬を撫でつつ、ベッドに身を投げた



♦♦♦



「……はぁ……」


アサギは溜め息をつきつつカードを光に透かして触角を揺らす。

使い方も分からない、本当に願いを叶えてくれるのかどうかすら不明な奇跡のカード。


持っていても仕方のない、ただのガラクタのようにも思えてくる。


学校は休みである。寮で寝泊まりしていればノワールの部屋に遊びに行くことも出来ただろうが、どうにもそんな気分にはなれなかった。

お気に入りのふわふわしたベッドに横たわり、アサギは天井を見つめた。


「……っ」


ふと、指先に鈍い痛みが走った。

どうやらカードの淵で切ってしまったらしい。アサギは指を舐めた


金色の枠の一部、僅かに真っ赤な血が滲む。


アサギは四肢を投げ出し、大きな枕に頭を埋める。大きく湾曲した触角がへにょりと項垂れた。


「はぁ~あ。願いを叶えてくれるっていうならこの気持ち何とかしてよぉ」


カードをまじまじと眺めながら、アサギは呟く。

柔らかなランプの光がやけに眩しく思えた


力を抜いてぐだぐだと項垂れていると、物陰から人魂が這い出して絡みついてくる。

アサギは人魂の球体部分を掴んで放り投げ、つい持っていたカードを投げつけてしまった


当然のことながらカードは人魂を擦りぬけ、そのまま本棚の下に入り込んでしまった


「あ……」



――がこっ


鈍い音と共に本棚が揺れた。アサギはベッドに座ったまま硬直する。

微かな呻き声のような音と共に、本棚の下でごそごそと何かが蠢く気配がした


ランプが灯っていただけの薄暗い部屋の闇が本棚の下へ引きずり込まれてゆく。

めきめきと本棚に亀裂が入り、寄せ集まった暗闇が噴き出す


闇を吸われたアサギの部屋は不自然なほど明るくなり、アサギは思わず目を覆った


「な、何よ……これ……」


やがて部屋の片隅、本棚があった位置に渦巻く闇に小さな水色の瞳が光った。

むくりと体を起こす……とても、とても小さな人影。


()()の触角が、ぴろんと揺れた

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