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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
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92『土地神』

夢幻の森の一角。

ユイと暁はじっと森の奥を見つめていた


「その結滞な刃物……鋏では無いのですか?」


「いえ、これは私が昔使っていた鋏ですよ。壊れてしまって以来仕舞っていたのですが……」


「壊れたガラクタを武器として使うつもりですか。意味が分かりません」


「これは少し『良い素材』を使っておりまして。剣としてなら十分すぎる切れ味ですよ」


暁はふっと微笑んで、自らの傍に聳える巨木をまるで鋏で棒を切断するかの如く切り裂いた。

巨木に横一文字の切れ目が入り、暁の上に倒れ掛かるように傾く。


それを暁は右手一本で易々と支え、ゆるやかに微笑んだ


「この大きさならば、丁度『彼ら』の元に届くかもしれませんね」


「まさか倒すつもりですか? それを……向こうに」


ユイは戸惑い不安げな瞳で暁を見つめた。

その尻尾は軽く項垂れ、小太刀を両手でぎゅっと握るその様子はどこか弱々しい。


「……大丈夫ですよ。いざとなれば私が貴女を守りますから」


真っ赤な瞳を光らせ、緩やかに微笑む暁は燃え上がる様な妖気を放っていた。

普段の優しげな雰囲気とは違う。どこか鋭い魔の気配に、ユイは怯える様な目線を向ける


「あなたの力がどれほどの物なのか私は知りません。けど……」


「……けど?」





「……本当は分かっているのでしょう? もう、彼らは……」









夢幻の森の奥、小さな祠のその奥に、小さな瞳が光を放つ。

辺りの草木が腕のような形を成し、ぼろぼろのマシューを高く掴みあげていた。


『……お前らのようなものに貸す力があると思うか。恥を知れッ!』


草木の腕はマシューを森の巨木に叩きつけ、光る小さな瞳は正面を睨みつけた。

その木々の間には、妖紀が無数の蔓で縛りあげられていた。


俯く妖紀はぴくりとも動かない。その下には黒い残骸が散らばっている


『どいつもこいつも……わたしはもう誰の味方にもならん。よく覚えておくがいい』


祠の中に光る瞳は菌糸の塊と化したマシューを睨みつけ、草木の腕で傍の大岩を持ち上げ

マシューが沈む巨木の根元へと、豪快に叩きつけた。


轟音と共に山は揺らぎ、巨木は抉れ地面は陥没した




一瞬の沈黙。




大岩にバッと菌糸が絡み、凄まじい勢いで紅色の茸が生い茂る。

ベキンと岩に亀裂が入り、その僅かな隙間からも茸が次々と顔を覗かせる


やがて地面から菌糸と土で模った腕が突き出し、小さな祠を叩き潰さんとばかりに膨れ上がった


『……ふん』


祠の陰から突き出した木の根が土腕を貫き、その内部を易々と蝕んだ。

土腕はぎこちない動きを止め、ざらざらと崩れ落ちてゆく……


『魔物といえど菌類か。しぶとい奴め』


草野姫(カヤノヒメ)は祠のなかでぱちんと指を鳴らし、虚空に炎を生み出す。

次の瞬間、炎は爆発的に膨れ上がり……紅い茸が生い茂る大岩に襲い掛かった


辺りの木々に燃え移らない、絶妙な大きさの炎は茸をメラメラと焼き尽くす。


さらに草野姫は何本もの細い御柱を造りだし、燃え上がる大岩の周りに突き立てた。


『……さて、このガキはどうしてくれようか』


光る瞳が、正面に縛り上げられた妖紀を見つめる。

見ると、切断された漆黒の腕が草野姫を引き裂こうと這いずってきていた。


『む、この怪物も生命力に溢れておるな』


細い御柱に貫かれ、黒い腕はさらさらと虚空に消えてゆく。


『バラバラにしてやったくらいじゃ完全に息の根を止めることはできんか』


祠がカタカタと揺れ動き、中から一人の少女がゆっくりと這い出してきた。

金色の瞳と白い髪、不思議な装束を身に纏う少女の腰には赤い帯と短刀が数本。


『――やはり、わたしが直接手を下すしかないようだな』


淡く小金色に輝く覇気が、辺りの空気を一変させる


紅い鼻緒の下駄を履いた足が、ゆっくりとその歩を進める。

草野姫の周りに渦巻く何かが黒い残骸を浄化し、虚空へと葬り去ってゆく


そして、剥き出しとなったディアボロスの核を草野姫はぐっと踏みつけ、短刀を取り出した。


金色の瞳が、禍々しい邪気を宿し深血のような紅色に染まる。



縛りあげられ、固定された妖紀の瞳から一筋の涙が零れた





―――グシャッ『!』


突然、何かが潰れるような音と共に草野姫の動きが止まる。

そして、一瞬にして輝きを失った体を動かし、ゆっくりと振り返ると……


……草野姫の祠が、巨木の下敷きとなっていた。


『……ッ!』


気が付くと、首元には銀色の双刃が添えられていた。




「……ダメですよ、『彼女』に手を出しちゃあ……」




♦♦♦♦




三日月に照らされた夜の道。

妖紀を抱きかかえる暁とユイはゆっくりと歩を進めていた


「これで良かったのですか?」


「えぇ。土地神を失ったからとて、山の力が失われるわけではありませんから」


暁に抱きかかえられた妖紀は紅色の球体をしっかりと抱きしめ、意識を失っていた。

しかし、その表情はどこか安らかで……純真無垢な子供のようであった


「ところで……どうしてその娘を連れてきたのですか。森に捨て置くべきです」


「ダメですよ。この子は連れて帰ります」


「とても強力な邪気を感じます。今すぐにでも……っ」


「ダメです。どうしてそんなに怯えているのですか」


警戒心を露わにし、傍らで騒ぎ立てるユイを横目に、暁はやれやれと肩を落とす




『……』


そして、そんな二人を遠くから見つめる人影。

何枚にも折り重ねられた甲殻と毒針付きの鋭い尻尾が月明かりを反射し怪しく光る



『ユグドラシル、異常無し。アスタロット、消息不明。フェリックス、異常無し。

……リヴァイアサン、消滅確認。アクアマーズ、異常無し』






『――カムイ。発見也』

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