表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第三章 3編 【夏合宿】
101/114

90『静かな異変』

~流星学園~


辺りはすっかり日が落ち、寮棟の明かりもちらほら消えかかっている頃、

932号室では不思議な草が茂るベランダから空を眺めている人影があった。


『夜、そら。きれい』


「うん。今日は星が良く見えるね……それと、夜空って言ってごらん」


『よぞら?』


「そう、今みたいな空を夜空って言うんだよ」


小学校低学年ほどの身長の少女型植物。プラムと、

穏やかな性格と豊かな肢体を持つ少女。桜は共に夜空を眺めていた。


932号室からは丁度夜闇に包まれた混沌の街が一望できる。

そして今夜は雲も無く、空と街の両方に輝く星が見て取れる


プラムの頭には桃色の小さな果実が淡い光を放っていた。


「何だかキラキラしてるけど、その実は食べれるのかなぁ……?」


『きっと、甘い。よ』


「放っておいたら新しく魔物が生まれたりするのかな? ちょっと楽しみだね」


桜は微笑んでプラムの髪、というより葉を撫でる。



――ガチャ

「桜ちゃん、ちょっといい?」


「あ、蓮華先輩」


扉を開け、ひょっこりと顔を覗かせたのは植物科の三年生。蓮華である

その亜麻色の髪に良く映える花飾りこと彼女の使い魔、アルメリアも一緒だ。


手にはお菓子類と一枚の写真。そしてその表情はどこか緩い。


アルメリアはひらりとプラムの元へ舞い降り、そのまま二匹はじゃれつき始める。

桜と蓮華は長椅子に腰掛け、蓮華の持参したお菓子を口に運ぶ。


「それで、私に何か用ですか? 先輩」


「そうそう、ちょっとこれ見てよ」


蓮華は持っていた写真を桜に手渡す。

それはとある海の写真だった。


白い砂浜、透き通る碧色の海、青い空に輝く太陽。


「わぁ……綺麗」


「これね、海王が治める海の写真なんだ。良ければ明日この海を見に行かない?」


「……見るだけですか? どうせなら泳ぎたいです」


「私も桜ちゃんの水着見たいんだけど、やっぱり神聖な海だからね」


残念そうに肩を落としながらも蓮華はお菓子を口に含む


「近場の海は魔海月たちが大発生してて危ないしねぇ」


「そうなんですか……」


桜もしゅんと俯いて何となく傍に寄ってきたプラムを抱きしめる。

プラムは抵抗することなく自らの蔓で遊び始めた。


「そういや、この海の近くで特殊科は合宿してるんだってね」


「……えっ」

『?』




~夢幻の森~


浩二宅よりほど近い場所にある針葉樹林、夢幻の森。

……その中心部にあたる祠の前に、マシューは立っていた。


自慢(?)の茸帽子は綺麗に引き裂かれ、服と肌、それなりに豊満な肢体もズタズタである。


『天下の毒キノコがなんてザマだい。森の恥さらしが!』


『……ッ』


小さな祠から聞こえる声に、マシューはギリッと歯噛みした。

祠より立ち上る異質な気配は森を騒がせ木々を揺らす。


『お前は茸を生やす魔物。つまりは胞子を操る魔物だろうに』


『……はい』


『だったら胞子の種類だって自由自在だろう? なのにお前は昏睡や睡眠作用ばかり……愚か者め』


ゴォッと怪しい風が吹き荒れ、祠の奥に赤い眼が光る。

木々は絶え間なく騒ぎ、鳥や動物たちもその姿を隠す。


祠は小さな子供がやっと入れるほどの大きさである


その大きさとは逆に、溢れる邪気は計り知れない。


『えぇい帰れ帰れ! お前の顔なんか見たくもないわっ』


『……』


マシューは血が滲む拳を握りしめ、その場に跪いた。



『ッ……お願い、します……貴方の、森の力を貸してください』








『――草野姫(カヤノヒメ)様』



♦♦♦





夢幻の森の一部。夜闇よりも深く重い黒に覆われた場所があった。

その場所には複数の紅眼が光を放っている。


「ごめんね、でぃあぼろ……大丈夫?」


『オォ……』


妖紀は傷ついた相棒の身体に寄り添い、心配そうに見つめていた。

その大口からは黒い液体が溢れ、巨大な腕や体も傷だらけである


ディアボロスが身を挺して守り抜いた妖紀の体は見事に無傷。

むしろ闇色の力を吸収したその瞳は淡く光を放っていた


「この森には凄い土地神が住んでるの。きっと治してもらえるよ」


『……』


ディアボロスは大きな腕で妖紀を優しく掴みあげ、自らの頭上に乗せた。

妖紀はその頭部から突き出す湾曲した角を握り、じっと森の奥を見つめる


「行こう、でぃあぼろ。ここの土地神は私たちの味方だよ」


土を掻き抉り、木々を薙ぎ倒し、黒い煙を吹き出しながら『闇』そのものが森を闊歩する




~藤野宅・客室~


特殊科の生徒が昏々と眠りにつく中、むくりと体を起こす人影が一つ。

差し込む月光に照らされ、柔らかな白い髪が揺れる。


真っ赤な瞳が、暗い部屋で光を放つ。

その視線の先には、月明かりに照らされた縁側。


「……やはり貴方は気づきましたか。ユイさん」


縁側に座り、悠然とお茶を啜る暁は振り返らずにそう呟いた。

その長いスカートの隙間からは長い尾が揺れ、その頭には猫耳がぴくぴくと動いている。


圭一の使っていたタオルを剥ぎ取り、ユイは暁と並んで縁側に立つ。


「屋敷に結界を張ったのは貴女ですか」


「えぇ。皆さんを守る為ですよ」


「……私を欺くことはできませんよ。静かな夜ですが……強い力をいくつも感じます」


ユイはタオルをぎゅっと抱きしめ、じっと暗い空を見上げた






「さて、と……ユイさん。共に静かな騒ぎを鎮めに行きましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ