瑠璃色教師のFirst Love (1)
めっちゃ間空いた上に突然の番外編。
「だーかーらぁ、この問題は公式に当てはめれば終わりだって言ってるだろ?」
「うー……」
「不安だからもう1問解くか。その後は英語な」
「瑠璃ちゃんの鬼ー!」
「お前の為だぞ谷野! あと瑠璃ちゃん言うな!」
放課後、生徒の多くが部活に勤しんでいる中。教室のあたしの目の前には1人の生徒がいる。谷野瑞穂。ほとんどの教科の先生から彼女の成績がよろしくないとの指摘を受けた。授業自体は真面目に受けているし、谷野自身は一応試験勉強もしていると言っている。集中力が続かないので休憩も摂るけど、と付け加えて。
瑞穂が突然勢いよくシャープペンを動かし、最後の1問を解いた。合ってる。あれだけ苦戦していたのに……。解き終わってから、晴れ晴れとした顔を向けてきた。
「瑠璃ちゃん分かったよ!!」
「お、おう。正解だ。じゃあ英語の教科書を……」
「そうじゃなくて! 悩みを解決すれば勉強くらい出来るんだよ!」
おい……今の今まで苦戦してた勉強を、勉強「くらい」なんて……。
「良かったな。でも今は……」
あたしの声が聞こえていないのか、突然ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。
「だから瑠璃ちゃん瑞穂と付き合ってください! ううん瑠璃ちゃんに拒否権ないの! 瑠璃ちゃんは今日からずぅーっと瑞穂のものなの!!」
「はぁ!? 何言ってんだ?!」
突拍子もない発言に面食らっているとガシッと手を掴まれた。指からチョークが滑り落ち、床に転がっていく。
「いいでしょ!? だって瑞穂の成績グンって上がるもん!ね! 瑞穂ずぅーっと瑠璃ちゃんのこと大好きだったから悩んでたの。これで解決よね! ね!?」
あたしより少し背の高い谷野に迫られ、いきなりの事に驚いて口を挟む余裕も無くオロオロと後ずさる。
「でももし点数が上がっても、瑠璃ちゃんがこうして勉強教えてね! だって2人きりになれる数少ないチャンスなんだもん! だから……!」
背中が黒板が当たり、後ろに逃げ場が無くなる。そこでハッと我に返り、逃げなきゃと頭の中で警鐘が鳴った。
しかし、時すでに遅し。
彼女があたしを挟んで黒板に両腕をついたためこれで前後左右、もう逃げ場はない。
「瑠璃ちゃん……大好き」
「や、めろ……!」
頭に浮かぶのは「恐怖」の2文字。こいつ、狂ってるんじゃないか?!
必死に腕を除けようとするが意味は無く。あたしはギュッと目を閉じた。
すると、しばらくして柔らかいものが唇に触れた。目を開けると、谷野の顔がくっつく程に……てか、これって!!
力を振り絞って、今度は無理やり引き剥がす。
「谷野! お前何やって……!」
そして再び見た彼女は、ほおは紅潮し目はとろんとして、酔ったのかとでも言ってやりたいほどだった。
「瑠璃ちゃん、瑞穂は瑞穂なんだよ……? これからは瑞穂だから」
「先生と生徒だぞ! んっ……!」
慣れない感覚に頭はパニックだった。
体は黒板に押しつけられている。
「瑞穂って呼ぶの。それまでやめない……」
そういえばこいつ、バレーかなんかやってたっけ……。
強い力に成す術もなくされるがまま。差し込まれた舌を絡められ、吸われて、抗う気も失せ、いつの間にかあたしは縋るように彼女の背中に腕を回していた。
「み、みず、ほ……やめ、くるし…………」
やっと離れた。谷野を見上げると、今度はギュッと抱きしめられる。息はすっかり乱れ、肩が上下する。
「ダメだよそんな顔しちゃ。キスじゃ済まなくなっちゃうよ」
息が整ってくると同時に、思考が戻って来てハッとする。耳の先まで顔が赤くなるのを感じた。
あたし何で大人しく抱きしめられてるんだ!?
少し緩くなった谷野の腕から逃れ、その頭を教卓にあった教科書で力いっぱい叩いた。
「お前何やってんだよ馬鹿が!!!」
そう言うので精一杯でした。
「いったぁい! 本気で叩かなくても良いじゃん! 縋ってきたくせに! 」
「縋ってない! お前の馬鹿力に圧死しかけたんだ!」
「うっそだぁー! でも瑞穂、本気だからね」
その笑顔に再びあたしは恐怖を感じた。目が笑ってないぞ。
「諦めたり取り消したりは、絶対しないから。あと我慢もしないから覚悟しといてよね」
鞄を手に取り、今度はさりげなく頰にキスされる。
「そういえば今日夜から用事あるんだ。じゃーね〜」
「きゃ!」
茫然としていたら去り際、隙ありとばかりにお尻をそろりと撫でられ、らしくない声が出る。
「やっぱ瑠璃ちゃん可愛い♡」
「……」
返す言葉も無く、あたしはしばらく谷野の出て行った方向をボーッと見ていた。
生徒相手に何動揺してんだ、あたしは。
っていうか、あたしのファーストキス……!




