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メガネの治し方

 翌日。

 財務担当のカミラ嬢はメガネを持って城に戻ってきた。

 女ドワーフを連れて。

「……説明せよマートン。修理を頼んで来いと言ったはずだ」

「はっ。それは彼女から」

「ドワーフどもは我々の言葉が使えんはずだが」

 ローレンス王子の言葉にその女ドワーフは首を振り。

「アチキはわかるぞ。ジジイどもは駄目だがよ」

「……ぬ。貴様も職人なのか」

「それなりにな。……アンタがカミラの上司ってことは、噂の帰ってきた王子様かい」

「……うむ」

「何本ミスリルの剣を納めてもすぐ駄目にして戻しやがるってジジイどもがボヤいてたぜ。もっと腕を上げてくんな」

「そ、それだけの激戦を潜り抜けたのだ。むしろ名誉と思ってもらいたい」

 女ドワーフ、鼻で笑って肩をすくめる。

 そして、カミラさんの手からメガネを取って僕に差し出す。

「かけな」

「……まだ直ってなくないですか」

 見た感じ、レンズが片方バキバキのままだ。何故かフレームだけは新しくされている。

「こいつは特級品だ。レンズの方は外したまんまじゃどうにもできねえ。かけてから治癒術を受けて直すんだ」

「は?」

 メガネに治癒術……?


「こいつのレンズ部分は、ある種のダンジョン素材をドラゴンの血を主成分にした特殊溶液に浸して亜生命化処置ってのを施したもんなんだけど、まあ要するに、これは寄生生物みたいに持ち主の生命力を微量吸って代謝するんだ。……まあ、その効果で持ち主に合わせて形が変わるわけだな。だからこいつは取り替えるわけにもいかねえし、融かして成形ってわけにもいかねえ」

「……そんなキモいもんつけてたのかよアイン」

「い、いや、僕だって知らなかったよ……」

 ユーカさんはドン引きした。僕もちょっと引いた。

 寄生生物って。そんなもん平然とかけてたの爺ちゃん。

「キモいって言うなよ! あくまで概念として近いのがそれってだけで本当に生きてるわけじゃねえよ! それにこれ頑丈だから随分助かってたんだろ!?」

「そりゃまあ……」

 女ドワーフに怒られて申し訳なくなる。

 まあ確かに何の代償もなく自己変形を繰り返してるなら、それはそれで薄気味が悪いよな……。

「だからあとはこれかけて治癒術。城なんだからどっかに治癒師ぐらいいるだろ」

「あー……私がやります」

 おずおずとファーニィが手を挙げて僕に近寄る。

 それを見て女ドワーフが胡散臭そうな顔。

「エルフの治癒師ぃ? 聞いたことねぇな。インチキじゃねえのか」

「むか。エルフナメてます? そりゃ数は多くないけどいますよ、もちろん」

「今まで聞いたことねーぞ」

「エルフは身内癒すのに忙しいんですぅー。絶対数が少ない上に他種族を村に入れないんで治癒師がわざわざ冒険者とかにならないだけですぅー」

「じゃあお前は何なんだ?」

「このアイン様の下僕にされたのでついてこないわけにいかなかったんですぅー」

「ファーニィ。息をするように嘘つくのやめない?」

「嘘なんか言ってませんよ! 多少言葉足らずなことは認めますけど♥」

(イタズラの代償で殺されかけたので冒険三回限定で)下僕にされたので(その間は)ついてこないわけにいかなかった(けどもう過去の話)。

 こいつはもう。

 ……まあこの女ドワーフが多少誤解していてもどうでもいいか。

 とにかく話を進めよう。メガネを直して視力を取り戻そう。

 まずはそれをしないと何も始まらない。

「……ファーニィ。やって」

「はいはいなっと」

 ファーニィは小技を見せつけるように片手を突き出してメガネに当て、治癒を開始する。

 ……治癒術が眼前で発動しているのは見えるのに、その対象は自分じゃない……という奇妙な感覚に数十秒ほど耐えたのち、パリパリと薄氷が割れるような音がして、メガネのヒビが消えていく。

 やがて、すっかり僕のメガネは元のようにはっきりと見えるようになった。

『おお……』

 その場にいる全員が見た目不可解な「修理」方法に感嘆の声を漏らした。


「こんな顔してたんですね……ローレンス王子にカミラさん」

「うむ。本来ならば平民がそうまで無遠慮に顔を見たなら諫めねばならんところだが、まあユーカに免じてやろう」

「あまりまじまじと見られると恥ずかしいのですが……」

 ローレンス王子は思った通りの男前。歳の頃は20代中盤をやや過ぎた、といったところか。王侯貴族はいい生活してるからか、実年齢より若々しいことがたまにあって断言しづらいけど。

 少しクセのある蜂蜜色の髪をオールバックにしていて、彫りの深い顔立ちと群青色の瞳は、黙っていれば貴婦人たちが放っておかないだろうと思われる。黙っていれば。

 そしてカミラ嬢は思ったより可愛い系だった。僕と同じかそれより下に見える。

 こんな若さで強豪騎士団の財務担当っていうのはちょっと驚きだ。

 それからついでに女ドワーフを見ると……こちらもまた意外と可愛い。黒髪を頭のてっぺん近くで結んでいる。

 いくつなんだろう。エルフもそうだけどドワーフはさらに年齢がわからない。

 頭が他種族に比べてちょっと大きく、背丈は低めなので幼く見えがちだが、男は少年期からすぐひげもじゃになるのでその成長段階が見えず、どこで成人という判断をされるのかも判然としないのだ。

「君は……」

「アチキはドラセナってんだ。アンタすげぇボロ着てんな? それ本当に鎧として使えてんのか?」

「……ちょっと怪しいから新調しようとは思ってるんだ。……近いうちに」

「じゃあウチで作りなよ。王子様のケツ持ちがついてるなら、冒険者相手でも安心して打てるってもんだ」

 勝手にローレンス王子が保証人になると当て込んでいるドラセナ。

「吾輩はそこまで小僧の面倒を見る気は……」

「ねーのかよ。みみっちい奴だな」

「やっぱフルプレはフルプレだな。豪傑ぶっといて器が小せえったら」

 渋ろうとする王子を、すかさずユーカさんとアーバインさんが煽る。

 ぐぬぬ、とムキになってすぐ乗る王子。

「よかろう。多少は便宜を図ってやらなくもない」

「……王子様よう、アンタそんなんで大丈夫かい? アチキが言うのもなんだけどさ」

 早くもドラセナは王子の煽り耐性の低さに呆れた。

 まあ仕方ないよね。この人が将来国王になると思うと戦争とか簡単に起きそうで怖いよね。


 さて、予想外に早く僕の問題が解決してしまった。

 そのため、これまた善は急げとばかりに僕とフルプレさんの練習試合がセッティングされようとしている。

 だけど一つ問題が。

「僕、まだ剣返してもらってないんだけど……」

 すぐに帰ってくる予定だった愛剣が、まだ届かないのだ。

 あれから十日以上。何か問題が起きたんだろうか。

 今まで前が良く見えなかったから戦うという選択肢はなく、腰に帯びるのはナイフ一本でなんの問題もなかったが、練習試合となればやはりちゃんとした剣が欲しい。

 不安な顔をしている僕に、それでもユーカさんは気楽に言う。

「まあ騎士団ならいくらでも剣はあるだろ。お前の剣だと余計に属性とか入ってアレだし、借りとけば?」

「貸してもらえるもんかな。……いや違う、そもそも真剣でやるやつ?」

「フルプレだぞ相手は」

「……もしケガさせたら大変なことになるんじゃ」

「フルプレだぞ相手は」

「……なんで二回言ったの」

「フルプレだぞ?」

「…………」

「むしろケガさせたら大したもんだから本気で殺しに行け」

「えぇー……」

 ユーカさん、僕を天才だとかなんとか持ち上げたよね?

 それに本気で殺しに行かせるの?

「フルプレは相性で言うと最悪だ。だからこそ学ぶものもあるはずだ」

 ユーカさんは重々しく言う。

 そして、王子は。

「うむ。本気で来い。そうでなければ吾輩も張り合いがない」

 自室から、久々のあの甲冑で現れた。

 ……やるしかないの?

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