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半壊パーティの末路

 打ち上げからさらに数日。

 僕らは馬でサッと行き来してしまったが、大荷物を抱えた後詰冒険隊(サポートパーティ)と共にあの冒険者パーティはメルタに引き上げてきて、そこで解散した。

 死んだ二人の冒険者はこの街の近くにささやかに葬られ、メンバーはそれぞれの道にバラけていく。

 大惨事にもめげず、富と名声への次なるステップを貪欲に求め、賑やかな街に戻って再起を図るものもいれば、仲間を失ったショックで冒険者を引退し、故郷に戻るというものもいた。

 あるいは全員が意気軒高なままなら人数が減ってもパーティを維持できたかもしれないが、なるのも簡単なら辞めるのも簡単なのが冒険者だ。

 強い挫折を経れば、もっと地道に、真っ当に生きよう、と剣を置くのも、決して責められることではない。

 元六人のうち、二人死に、一人が帰郷を決意し、一人は精神を癒すためにしばらく休養。

 そのまま冒険者を続けようとしていたのは二人。それで集団(パーティ)といえるわけもなかった。


「パーティ離散はやるせないですね」

 あまり明るい場面ではない。力ない表情で別れを告げ合う冒険者たちを眺めて僕がそう言えば、アーバインさんは「ま、よくある光景だよ」と肩をすくめた。

「みんながみんな死ぬまで冒険したいわけじゃない。なら当然、脱退も解散もあるもんさ。俺たちみたいに明るくバラけられる終わりばっかりじゃないよ」

「そうですけど」

「むしろ、喧嘩がない分、穏便なもんさ。互いの不手際を罵り合って喧嘩別れとか追放とか……醜いもんだぜ、そういうの。酒がまずくなるね」

「見ないわけじゃないですけどね……」

 ゼメカイトでも幾度か見た。僕自身が当事者になったこともある。「使えねえ奴が混ざるんじゃねえよ」と突き飛ばされ、唾を吐かれたことだって。

 ……まあ、そういう口汚い奴はこっちだって触りたくない。そいつの絡む仕事は避けるようにしていたら、いつのまにか見なくなってそれっきりだけど。

 大抵はそういう自己中心的な奴は、僕ほど無能でなくともことあるごとに仲間を罵り、敵に回しやすい。法の届かない冒険の世界で、周りが敵だらけになってしまえば、やがて辿る運命も推して知るべし、だ。

 まあ、そういう胸糞悪い話は別にしても、人が夢破れて背中を丸める姿は痛々しいものだ。

 マード翁も酒にあまり口をつけず、気の毒そうに解散した彼らを見つめ。

「運が悪い時はどうしたって助からん奴もいる。それはそれで切り分けられりゃええんじゃが……まあ、元々いい職業とは言えんからの。辞める選択は責められん。……命があるうちが華じゃしの」

 それもまた真理。

 冒険者も、僕のように帰る場所のない奴ばかりではない。

 ……そして、僕もその言葉を深く反省に組み込まなくてはいけない。

「とりあえず、もっと技を磨いて……自信をつけていかないと」

 辞める選択肢は僕にはない。だが、命のかかる勝負をみだりにしないように気を付けなくてはいけない。

 そのためには、他に僕の強みといえる部分をもっと伸ばすのが早道。

「おー。そろそろ改めて再特訓の時期かもな」

 ユーカさんがニヤリと笑う。

「前にやった時より、鍛えることの重要さが実感できる頃合いだろ。……何より、お前の技はムダが多すぎる!」

「そ、そうですかね」

「例えば、前にも言ったが『オーバースラッシュ』は本来、ワイバーンとかサーペント程度のモンスターなら一撃で真っ二つにできてもおかしくないんだぞ。お前はイマイチの威力のまま乱発することで補ってるけど、もっと落ち着いて練習すれば威力は上げられるはずなんだ。ようやく急ぎの用も消えたことだし、先延ばしはもうやめようぜ」

「うーん……」

 ユーカさんの言う本当の「オーバースラッシュ」。

 それは、まさにユーカさんの固有の才能だからこそ、できたことなんじゃないか。そういう疑念はずっとある。

 僕はここ止まりで、その分の連射能力なんじゃないのか、と。

 ……が。

「俺もアインはもうちょっときちんと訓練した方がいいと思うよ」

 アーバインさんが僕を指さしてそう言ってきた。

「そんなに変わるものですかね」

「『オーバースラッシュ』ってあれだろ、飛び斬撃。あれがあの威力ってどんだけ雑に撃ってんだよっていうね。俺でももっとうまく撃てると思うぜ」

「……えっ、アーバインさん撃てるんですか」

「なんで撃てないと思うんだよ。ユーカ、あれ誰でもできるって教えてないの?」

「教えたー。コイツ忘れてやんの」

「わ、忘れたわけじゃ……」

 いや、確かに。

 誰でもできる、とは聞いていた。僕もそれを信じて習得したんだ。

 でも、弓手のアーバインさんがアレをやるイメージが全然なかった。

「もしかして頑張れば私にもできます!?」

 ここまでずっとおつまみを食べていたファーニィが、勢い込んでユーカさんに聞く。

 ユーカさんは「もちろん」と頷く。

「ただし普通は『溜め』に何十秒もかかるけどな。アインはそこだけ異常」

「うんうん。だからこそ甘えてるよねえ」

「じゃあせっかくだから特訓私も混ぜてもらっていいですか!? かっこいいしやってみたいんですけど!」

「おー。そんじゃみんなで山籠もりすっか」

「みんなで!?」

 僕は驚いたけど、あんまり乗り気にならなさそうだと思えたマード翁やアーバインさんも「いいねいいね」「せっかくじゃしワシもファーニィちゃんに奥義教えちゃおうかのう」と完全にノリノリだ。

「みんな意外と特訓好き……?」

 呟くと、ユーカさんとアーバインさんは同じような笑顔で。

「アタシ教える側だし、前回途中終了だったしな!」

「人が必死に努力してんの応援するだけって楽しいじゃん!」

 対照的なことを言い出す。

 いやそれは包み隠しましょうよアーバインさん。

「マードさん、今さっきサラッと奥義とか言ってましたけど」

「ほほほ。治癒術にもいろいろとコツがあるんじゃよ。意外とエルフも極めとらんもんじゃよなー」

「ホントに教えてくれるんです!? それなら2秒以内のタッチはカウントしないことにしてあげてもいいですけど!」

「わりと現金じゃのーファーニィちゃん。あとそれはロマンないので結構じゃ。おなごの肘鉄もまた風情よ」

 ファーニィ得意の露骨媚びに乗らない。意外と硬派だなマード翁。……いや、単にそれが彼のエロジジイとしてのスタイルなのか。

「……ちなみにこれは純粋な興味なんじゃが、アイン君は何秒タッチまで許すんじゃ?」

「そこはほら下僕ですからー? ご想像にお任せしますけど♥」

「ぬほっ」

 とても楽しそうですが、それ本当に楽しいんですかマードさん?

 あとファーニィもまた有名無実の下僕認識を強化しようとしないで。

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