戦果確認と誇大広告(誇大でもない)
とんでもない伝導効率を誇る名刀。
これなら正直、ユーカさんが使えば無敵だったんじゃないだろうか。
なんで死蔵状態になってたんだろう。
と、思ったのだが。
「これなー。アタシには使いづらかったんだよなー」
「……なんで?」
「なんか魔力がうまく加減できねーんだ。お前の話を聞くに、多分一瞬で込めすぎちまうせいだと思うんだが」
「あーー……」
ユーカさんは生粋の経験感覚派。
しかし僕と違って魔力の入り具合を感知する能力がない。
普通の武器と極端に反応が違う武器は、かえって使い道が狭くなってしまうのか。
「それに軽いしな。頼りねーことこの上ねえ」
「ゴリラの時はそうだったんだろうね……」
当時は女だてらに男を圧倒するような筋肉に相応しく、重い武器こそ至上としていたユーカさん。
普通なら持ち歩くだけでヘトヘトになってしまうような武器も、彼女にとっては「頼もしい」の一言になってしまう。むしろ重い方が鍛練になって戦力の底上げになるからお得、と思っている節まである。
……まあ、こんなに凄い武器なのに重要な扱いされてなかった理由についてはわかった。
「こいつにも名前が欲しいな。何か曰くとかないの?」
「ねぇなあ……なんかの褒美でどこぞの領主から寄越されたやつだったと思う」
「どこぞって」
「あの頃いろんなダンジョン平定だとか大型モンスター討伐とか立て続けにやってたから、ゴチャゴチャになって正確に覚えてねーんだわ。確かヒューベルの東のほうだったような気がするんだが……もしかしたらラウガンだったかもしれねー。商人だと金だけ積むんだけど貴族は何かと記念とか証っつって色々つけてくるからめんどくせーんだ。それで管理のためにアタシも御用商人必要だなーってなって。ゴタゴタした後に結局ロゼッタに任せることになって」
「……さすがというかなんというか」
いかにも大英雄らしい話だと思う。褒美の貰い先が多すぎて覚えきれない、なんて。
「じゃあフィーリング重視で。『雷迅』っていうんでどうかな」
「それじゃ無属性なのに雷属性っぽくねー?」
「それ言うと『刻炎』も別に赤いだけで火属性ないし……」
「まあ、ある種のブラフにはなるか」
自分たちしか呼ばない名前にブラフもなにもないとは思うけど。
そして、リノが無加工ポチ角を使って魔術を使ってみたところ。
「うわ……キモッ……」
自分で魔力を動かしながらなぜか気持ち悪がっている。
「どういうこと?」
「あのさ。魔力ってこう……普通に放出するとさ、なんか泡の塊掴んでるようなイメージない?」
「……なんとなくわかる」
リノの言葉は甚だ感覚的だが、実体のないエネルギーを手のひらに集めて操る感覚は、確かに泡のように不確かで、脆く感じる。
「コレで使うといきなりすっごいソリッドな感じになる。急に針みたいに収束する」
「全然わからない……」
「多分リーダーでもそんなに変わらないと思うから使ってみて」
「う、うん?」
リノにポチ角を渡される。
「筆ぐらいの長さでいい」とあの時は言っていたものの、ポチに許可をもらって削ったユーカさんは、ちょっと景気よくバトンくらいの大きさで切り出していた。
それを使って魔力を操ろうとしてみる。
……うわ。
ほんとだ。
スルスルと放出する感じじゃなく、いきなりガッと吸い出されてギュッと収束させられる感じが気持ち悪い。
「……なんとなく言ってることは分かった」
「ただ、収束率がすごいから魔術の精度はすっごい上がりそうなのよね……フルで杖使うとなると、魔導書をめくるのにもう一本手が必要になるけど……」
「もともと覚えてる魔術なら効果がめちゃくちゃ上がるってこと?」
「そうね。でも私の覚えてる魔術って地味な奴ばっかりだし……」
悩ましい顔をするリノ。
そこでジェニファーがガウッと吠える。
「ん?」
見ていると、リノが片手に持っていた魔導書をジェニファーが代わりにゴリラハンドで持つ。
そうすることでリノは片手を杖に、もう片手をページめくりと魔術文章をなぞる動きに集中できる……という、まさに「もう一本の手」の役目ができる。
「おお。さすがジェニファー」
「ガウ」
「でもコレやるよりジェニファーも魔術使う方がよくない……?」
「ガウ。ガウウッ」
「ジェニファー的にはリノが使える時はリノがやる方がいいってことみたい」
「だからなんでリーダーそれでわかるの……!?」
なんとなく雰囲気で……。
というか最近確信している。ジェニファーは僕たちの会話全部わかってる。
突然変な回答はしない。そういう前提で反応を見ればほぼ正解だ。
「そ・れ・は、ともかく!」
ファーニィが割り込んだ。
「火の始末! それに関しては別に魔導書要らないでしょ! ほぼ感覚でしょ! リノちゃんカムヒア! 鎮火! 終わったら次の奴焼くよ!」
「もうちょっと練習させてよう……」
「実戦こそが最高の練習だ! ほらほら早く! 日暮れまでに片付けて宿で寝たいんだから!」
リノは不満そうにしつつ、見違えるように魔術の射程と効果が伸びたことには嬉しそうではあった。
結局、その日に見つけた長老樹霊は6体。
それで全部かは夕方になって暗くなってしまったので、翌日に持ち越すことになる。
で、翌日。
「何が暴れてこんなことになったんだ……? ドラゴンでも出たのか?」
僕たちの戦果確認のために、「冒険者の酒場」の店主からの信頼厚いベテラン冒険者が一緒に来た。
ジェニファーと絨毯のおかげで日帰りの通いで戦っているというのを店主が知り、差し向けたのだ。
僕らとしても長老樹霊の討伐証明部位は探すのが難しかったのでちょうどよかった。
……のだが、昨日倒した六本の巨木の骸は、それだけでもちょっとした迫力だった。
リノ&ファーニィがやったのはまあ炭化しているだけだからいいとして、僕がやったのは派手に飛び散り過ぎているうえ、うっかりで遠くまで見通し良くしてしまった斬撃痕が、まるで巨大怪獣が進撃した跡に見えなくもない。
「そこの鬼畜がやりすぎただけでーす」
「ファーニィが反抗期だ……」
「鬼畜メガネなのにメガネないんだから他かに言いようがないですしー。というかこんなに罪のない木をどっさり切り倒すって鬼畜と言ってよくないですか!?」
「その価値観はちょっとわからない」
罪のない木って。
いやまあ不必要な犠牲だったとは思うけど。
「お前さんが……? こうして見ても、そんなに大それた戦闘力持ってるようには見えないが……」
「ド節穴!」
ファーニィがベテラン冒険者にストレートに失礼なことを言う。
ちょっとムッとしたベテラン冒険者をなだめつつ、長老樹霊の残りがいないか、と森をジェニファー&絨毯で並足巡航。
……と。
急に近くから蔓草が伸びて、ちょうど絨毯上の位置が端っこだったベテラン冒険者に巻き付く。
「なに……!?」
「長老樹霊……じゃない、普通の樹霊か!?」
ベテラン冒険者の首に巻き付いた蔓草触手を素早くユーカさんが斬り、僕は飛び降りて目に魔力を少し多めに注入。
モンスターなら普通の木より魔力が強いはずだ。それを頼りに本体を……そこか!
「長老じゃないなら……これで、充分のはずだなっ!!」
抜き放った「雷迅」に「バスターストライク」をかけて、一閃。
直径1メートル半ほどの木を叩き斬り、倒す。
……叩き斬ったのにほとんど衝撃を感じなかったな。やっぱり勝手が随分違う。
チャンバラしたら次々に他の剣を折ってしまいそうだ。
「……ふう。よし」
「よしじゃないですよ!?」
「えっ」
ファーニィに言われてもう一度樹霊の方を見ると、斬った衝撃が貫通し、やや離れた木が三本ほど倒れるところだった。
……「ストライク」だぞ!? 魔力飛ばさない奴だぞ!?
「な? なんか勝手が違うだろ?」
ユーカさんがあぐらに頬杖ついて同意を求めてきた。
……そうかも。
「……確かに、強い……ようだな」
「アイン様あれでめちゃくちゃ手加減してますからね。本気出したらここら一面一瞬で更地になりますよ、冗談じゃなく」
「……本気で?」
「本気で。ね、皆さん」
疑うベテラン冒険者に、パーティのみんながファーニィの味方をして頷く。
「得意は剣だけど、あいつ昨日は素手で遊んで普通に長老樹霊叩き殺したしな」
「ナメないほうがいいですよー。しかもあれで結構根に持つヒトですからねー。知り合いでもあんまり優しくなかった人とか普通に見殺しにしますよー」
「それどころか殺していい相手なら、まるで躊躇なく首を飛ばせる男だ」
「しかも全くテンション変わらずに、です」
「みんなしてリーダーのこと悪魔化しすぎじゃない……?」
「ガウ」
かろうじてリノとジェニファーだけはみんなの若干誇大な物言いに異議を唱えてくれた。
ありがとう。ありがとう。
「僕はそんなにひどい奴じゃないので話半分で聞いてやってください」
「お、おう……?」
ベテランの人、かなり引いた顔をしていた。
みんな知らない人に向かってふざけすぎだよ。




