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ハーフタイムと東の刀

 リノ&ファーニィを中心とする魔術チームと、僕とユーカさんチーム(ユーカさんには戦わせてないけど)、とりあえずお互い一体ずつ撃破。

 で、次にいこうと思ったらファーニィに止められた。

「ちょっ、ちょーっ!! お待ち! 待ってくださいアイン様!! その調子だと火事の制御ができないです!!」

「あー」

「こんな感じで三体四体燃やしっぱなしでほっとかれると手が付けられないんで!! いくら私が超有能美少女下僕エルフでも限度があるんで!!」

「百歩譲っても超有能だけでよくない?」

「個人的には美少女&下僕のほうをアイン様には意識してもらいたいんですけどね!?」

「まだ諦めてないんだファーニィ……」

「お黙りリノちゃん! 私! アイン様! ユーちゃん! この三人で始まったんだよウチのパーティは! バトル担当アイン様でヒロイン枠が私でマスコット枠ユーちゃん! ほら収まりがいい!」

「どう見てもリーダー的にはマスコットはファーニィのほうだよね……?」

「……」

「見なさいリノちゃん! アイン様のあの沈黙は無言の否定!」

「そのポジティブさは見習いたいと思ってるわ」

 いや、まあ、ファーニィも今までだいぶ頑張ってきたことだし、最初のアレをねちねちとつつき続けるのも終わりにした方がいいとは思う。

 お調子者なのは間違いないけど雑に裏切るタイプでもないんだよな。社交性も高いし情にも厚い。

 ……それなのに冒険者からかうのに夢中になってたのがアレ過ぎるけど。

 でも本当になー。ファーニィが抜けたら代わりはまず見つからないんだよなー。

 治癒師は貴重だ。腕がいいのはさらに貴重。

 マード翁には及ばないものの、常人の数十倍もの速度で治癒が掛けられるようになったファーニィは、もうそれだけでどんなところでも歓迎される人材に違いない。

 下手したら僕やアテナさんよりも価値が高いかもしれない。

 そのうえ、魔術も使えて弓もでき、生存能力が高いのだから、どんなパーティでもやっていけるポテンシャルがある。

 ……こんなマルチタレントをいきなり偶然仲間にしたのは、ユーカさんの気まぐれで選ばれて弟子になったことと同等に凄い話のような気もする。

 本人に言うと絶対調子に乗ってウザくなるから言わないけど。

「まあ、次のは炎上はさせないから」

 僕はチンッと刀を軽く抜いて納める。

 一度目はいろいろと試そうとして、ちょっとひねりが効きすぎた。

 まず、この刀自体が思ったよりとんでもないものである可能性がある。

 色々雑に魔力強化してしまったとはいえ、突き刺さるはずがスコーンと貫通するのはあまりにも予想外だった。

 普通の剣と同じように扱ってしまったのが間違いかもしれない。

 それを検証するために、もう一体くらいは普通に斬ってみようと思う。

「火を使わずに樹霊(トレント)倒すっていうのがもうかなりヤンチャな発想なんですけどねぇ……」

「そう?」

「普通は木を切り倒すのに剣で一閃ってわけにはいかないんですよ! 斧で何十回も何百回もガッスンガッスンやってたーおれーるぞー! なんですよ!!」

「エルフもそういう切り倒し方するんだ……」

 まあ、森で暮らすんだからそういうのも当然必要な時はあるだろうけど。

「私も魔力剣技は使えるが、さすがにアイン君のような調子で大物狩りはできないな……」

 アテナさんが少し悔しそうに言う。

「できそうな気がしますけどね」

「一撃だけなら放てるが、一度出したらしばらく使えない。敵とて大人しく待ちはしないのだし、戦いの軸にはできないだろう、それでは」

 うーん。大技撃って合間はなんとか小技で繋いで……って、そうか、魔力剣技のための魔力は溜まりきらないうちにぶつけたら駄目なのか。

 そう考えると撃つ前後にだいぶ根回しが必要だし、相手を徹底的に凹ませて反撃を封じてから駄目押しの一撃、というのが普通の使い方になるわけだ。

 改めて、隙を窺う必要さえない僕の魔力充填速度のアドバンテージは本当におかしいんだな……。

「仲間にサポートさせればいいんですよ。そのために私がいるんです」

「クロード君を『そのため』の要員と思ったことはない」

「そういう戦い方もアリだって話です。私の『嵐牙』は頑丈なことにかけては筋金入りなのですし、『剛把の腕輪』は長時間の握力の持続にも役立ちますから、防戦には自信がある」

「ふむ……」

「決定力はアテナさんの方があるんですから、いざという時にはその陣形も考えておくべきでしょう」

「……クロード君は若いのに本当にサポート気質だな。年長者としては、若者であればこそ手柄に貪欲になって欲しいが」

「それをやるには、自分には足りないものがまだまだあると理解しているだけです。アインさんを見ていると、多少同輩に勝る程度で天賦の才と浮かれていた自分が恥ずかしくなる。……それでも水霊騎士として、役立たずではないと証明するのが自分の義務と心得ています」

 キリッとした顔で言うクロード。

 リノに次ぐ年少キャラなのにしっかりしすぎている。

「真面目だなー」

「真面目ですよね……」

 適当な年長二人ファーニィとユーカさんが呆れ混じりに感心する。

「じゃあ、ファーニィは今の火事の鎮火に専念するとして、リーダーが次狩る感じ?」

「リノちゃんも火の制御くらいできるはずでしょ! 手伝おうよ! 何後ろで見る感じのテンションになってるのさ!」

「私の魔力操作距離じゃ大した足しにならないわよ……」

「ってゆーかリノちゃん確か杖の材料ポチに貰ってたじゃん! あれ使ってみなよあれ!」

「まだ加工すらしてないし……まともに馴らさずに使うのなんて正気じゃないでしょ」

「やるなら今! ナウ! 私にめんどくさいこと押し付けようとすんな!」

「本音ダダ漏れすぎない!?」

 リノとファーニィが炎上死した長老樹霊(エルダートレント)の残り火の魔術制御にかかる中、僕は次の長老樹霊(エルダートレント)と思われる巨木を探し、近づいてみる。

 あ、根っこ触手が動いてこっちに向いた。確定だ。

「こいつも長老樹霊(エルダートレント)だからちょっと離れてて!」

 みんなにそう言い置いて。僕は刀を抜く。

 前に一度だけ、こういう曲刀を使う冒険者の後詰冒険隊(サポートパーティ)に入ったことがある。

 その彼は抜きざまにシュパッと斬りつけ、目にも止まらぬ速さで鞘に納めるかっこいい斬り方をしていた。

 僕はそういうスキルはないので、まずは抜いて構える。

 改めて、綺麗な刀だ。

 一度は土に突き刺さってしまったが、それはユーカさんが自分のケープで綺麗に拭ってくれていた。

 武器というより、何か祭器のような不思議な存在感のそれを、僕はあえて殺意の道具としてグッと割り切る。

 瞬間、先ほど空中で乱暴に振るった時には全く気付かなかった性質を見つける。

 ……この刀、魔力の通りが良すぎる(・・・・)

「これは……」

 例えるなら、磨き抜かれた床にボールを転がすような。

 土や草むらの上なら数メートルで止まるはずのボールが、際限もなく転がり続けて行ってしまう。そんな感覚。

 魔力を少し込め、少し吸い取り、その異様な滑り(・・)の良さを確認する。

 込められる魔力総量自体はさほど普通の剣と変わりはしない。

 だが、この異様な感覚がどう働くのか。新感覚過ぎて読めない。

 でも、このままモタモタしてたら根っこ触手に捕まる。

 僕はそうならないように走りながら、意を決して「オーバースラッシュ」を幹に向けて放った。


 思った以上に、滑る。

 そう思った次の瞬間、ズズズ、と長老樹霊(エルダートレント)が斜めにずれて倒れ出した。


「うぇえっ!?」

 僕の方がびっくりした。魔力の斬撃ラインが、僕の目でも見えなかった。

 ノーマルの「オーバースラッシュ」だぞ。「バスタースラッシュ」じゃなく。

 伝達の速さはそのまま射出速度の高速化に直結したらしい。

 いや、なんというか……魔力を切断という事象に繋げる事に関して、一切、無駄がない。

 こんなこと有り得るのか、という体験だった。

 それこそリノが手に入れたような「魔法の杖」の刀バージョンという感じ。

 いや、「魔法の杖」使ったことないから想像だけど。

「……これで『バスター』撃ったらどうなるんだ……!?」

 ドゴォン、と音を立てながら倒れる長老樹霊(エルダートレント)。根っこ触手はまさに糸を切ったように動きを止め、倒れた本体の方は腕代わりの枝を暴れさせている。

 だが、倒れた幹を立てることは不可能だろう。

 放っておいてもいつか枯死するんだろうけど……このまま火をつけるのがいいのかな。

 いや、火をつけずに倒すという約束だしな。

「輪切りにするか」

 刀を振るい、長老樹霊(エルダートレント)を雑に細かくしていく。


 ……やがて、もはや動かす部位もなくなり、巨大な魔物はただの木材になった。


 そして、最初の一撃で数百メートル先まで木が倒れていて、ファーニィにすごい顔をされた。

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