凱旋
帰り道はだいぶ楽だった。
もちろん過剰生産されたサーペントやライトゴーレムはまだまだいて、僕たちが行き道に掃除した地域にも進出を始めていたが、それでも無限と思えた増殖圧がなくなっただけでもかなり気分が違う。
それに、やることはほとんど同じ。
空飛ぶ絨毯をジェニファーに引かせて爆走し、アテナさんとクロードで切り開いて集団牽引して集め、「バスタースラッシュ」で叩き潰す。
射出媒体はユーカさんから借りた地属性ショートソードになってしまったが、元々“破天”で伸ばして使っていたわけだし、そんなに元の長さは関係ない。トドメの空間歪曲破壊がなくなったので多少決定力が落ちるが、斬撃軌道をいくらかバラけさせて三、四回振ることで駄目押しする。
それを行き道と同様にぐるぐるどかーんと繰り返していけばいい。
さすがにロックナートたちを絨毯に載せてそれをやると多分カーブでこぼれ落ちるので、新たな地域に踏み入るたびに彼らを下ろし(ついでに三個の巨大属性結晶も彼らに下ろさせて)敵掃除は見学させながらゼメカイトを目指すのだが、数回それを繰り返したところで彼らは完全に無言になってしまった。
最初は「こんな群れをどうするんだよ見渡す限りじゃねーか! 地面が三で敵が七じゃねーか!」とか「俺らはもう装備も人員も万全じゃねーんだぞ! アテにすんなよな!?」とか色々騒いでいたのだけど、僕たちが彼らを、特に戦力としても熟練者としてもアテにしていない、ということが伝わってしまったようで。
「……ずっとこの調子でここらを平定するつもりっすか」
「ゼメカイトまでの道は空けるよ。いずれにせよ最終的には街の住人も呼び戻せるように、ある程度は周辺地域のモンスター密度下げないといけないし」
「……軍が本腰で当たる規模の話に思えるんですがね」
「もののついでだから。もちろん全部が全部片づけられるとは思ってないけどね」
遺跡で生産されたモンスターはそこらの野生体と違ってあまり個体差がないので、欲張りさえしなければあとは回数の問題だ。
基本的に広い場所を空けるので不意打ちの危険も少ない。もちろん、遺跡暴走とは無関係の空中型モンスター(ワイバーンとかグリフォンとか)が急に飛んでくる可能性は決してゼロではないんだけど。
「一網打尽が仕事の魔術師だってこんな数をやっちまおうなんて思わないだろうに……」
ロックナートたちはすっかり下っ端みたいに委縮しつつついてくる。
『私やクリス君くらいの魔力があるなら殲滅も選択肢ではあるわ。……気が遠すぎる仕事ではあるけれど』
巨大結晶に埋もれたようになっている謎水晶からリリエイラさんの声が響く。
「アタマ数が多いゴーレムを確殺するのは範囲型魔術じゃ難しいんだよなー。こいつら生意気に魔術耐性あるから炎や雷じゃ簡単に止まらねーし。かといって五体バラすほどの衝撃力は一般的な攻撃魔術じゃ出せねえ」
『一般的な奴じゃなければいいのよ。アースガイザーとかショックボムとか……まあ、大味な魔術だから遠距離で直撃させづらいし、大量の相手を仕留めるのも難しいんだけど』
「結局、魔力剣技……アインのやり口が最適ってわけだ」
ぺし、と僕の背中をはたくユーカさん。
そんな僕たちをロックナートの一味は恐ろしいもののように眺めつつ。
「俺たちも冒険者をやって長いが、魔力技をそうまで軽く撒き散らす戦士は見たことがねえっす。ほとんどの戦士にとっちゃ、魔力を使う技はとっておきの大砲……頭の血管ブチブチいうほどの気合で放つ技ですぜ」
「さすがにそれは少し非効率だと思うが」
「いえ、筋道立てて会得できる環境にない市井の戦士にとっては、感覚的にはそれほど念じて放つ技でしょう。魔術ごと教える王都の騎士団は特殊な環境です」
アテナさんのツッコミをクロードが抑える。
……そういやユーカさんも当初は「モヤモヤを集めるイメージ」とか言ってたよな。
魔力の存在を感覚的に察知できない普通の人にとっては、あくまでそういうおまじないのような魔力誘導しかできないのか。
「ウチのアインは超天才だからな。さっきの多頭龍なんざ序の口よ序の口。敵が強ければ強いほどカッケェんだぜ?」
何故か僕の肩に肘を置き、強さではなくかっこよさの話にするユーカさん。
そしてファーニィが乗る。
「ホントすごいんですよアイン様は! 傍目に見て絶体絶命の時ほどカッコつけたセリフがキレキレっていうか!」
「それ褒めてる?」
「褒めてるに決まってるじゃないですか! 余裕がなくなると崩れるカッコつけムーブなんてダサの極みですよ!」
「いや、普通カッコつけてるように見える時点でイタいんでは……」
僕そんなにカッコつけてるかな。
もちろん、ある程度ナメられないように意識して振る舞っているところはあるけど。……いや、戦っている時のはそういうことじゃないな。
冷静でいよう、攻撃的であろうとするあまりに、若干アレな人になってしまっているかもしれない。
いや。
いやいやいや。
そうじゃなくて。
「そこは戦闘力方面の話であって、僕がカッコいいとか悪いとかの話にいく流れじゃないと思うよ!」
「いや、ンなこと言ったって強さはもう十分見せつけただろ。もう語るトコねーっていうか」
「ここからは売り込みの時間ですよアイン様。いよっ、いま西大陸で一番クール&セクシーな邪神殺し!」
「邪神殺しはまだやってないからね!? あくまでまだ“後継者”だからね!?」
あの“邪神もどき”シリーズは邪神と呼ばれ得る個体だ、とロゼッタさんやユーカさんは言っていたが、その出自が正確にはわからない以上、あくまで「推定では邪神級」でしかない。
あと、それだと僕よりクール&セクシーじゃない“邪神殺し”がいないと話にならない。
「セクシーじゃなくて悪かったな」
ユーカさんがふて腐れる。
「逆に今のユーカにセクシー感じちゃまずいじゃろ。人として」
「ゴリラの時なら感じてたってのか!?」
「いや……まあ、なかったがの?」
残酷なマード翁。
フォローしなければ。
「僕は今のユーで充分セクシーだと思うから」
「…………」
ユーカさんは照れた顔をするかと思ったら逆にドン引き顔。
「お前……シスコンこじらせすぎだろ……男としての守備範囲は高めに持っとかないと絶対苦労するぞ?」
「そういう線で僕の人間性繋がないでくれる? 特に妹に変な感情持ってたわけじゃないからね?」
「えー……」
めちゃくちゃ疑わしい目をされた。
あのですね。忘れてるかもしれないけど僕は一度ユーカさんに告白もしててですね。
「可愛いという感情はともかく、セクシーという目で見るのはワシもちょっとどうかと思うぞい」
「その割にはお前、パンツ見て喜んでたよなマード」
「美少女のパンツというのにはそれだけで男を喜ばす価値があるんじゃ。必ずしも性的対象であるかは関係ないんじゃ。この繊細な差は当事者である女にはわかるまいて」
「お前もお前でめんどくせーな!?」
僕たちの掛け合いを前に困惑するロックナートたち。
一応、ユーカさんが縮んだ経緯は話しているけど……それでもユーカさんの姿には慣れきれない、というのもあるのだろう。
「と、とにかく。進みやしょう。俺らもきちんと武具を整えれば、ライトゴーレムに後れを取る奴は誰もいねぇんです。ゼメカイトに帰れさえすればきっと役に立ちますぜ」
「あ、ああ」
仮にも超一流パーティと呼ばれながら、僕たちの掃討をただ見ているだけのお荷物状態……というのが、よほど堪えるらしい。
体の方はマード翁とファーニィの手で完全に回復している。が、やはり武具が揃わない状態でアテナさんやクロードに並んで突っ込んでいく度胸はないようだ。
いやまあ、突っ込まれても困るんだけどね。二人が実行しているのはあくまで僕の「バスタースラッシュ」に最後を任せる戦術なので、呼吸の読めない奴が二、三体余計にやっつけるために参戦しても、タイミングが合わなくなって手間が増えるだけだし。
日が昇り、その日が沈みかける頃にようやくゼメカイトに辿り着く。
お土産の多頭龍産結晶が巨大なため、全員絨毯に乗るわけにいかなかったので、途中で休憩を幾度も取りながらの帰還になった。
「……一応、使い魔で見てはいたけど……改めて見るととんでもないわね、これ。売ったら冗談でなく城どころか街ごと買えるわよ、きっと」
「それってコインにしたら何万枚になるのかな……」
「お金になんてしようがないから爵位や領地換算にするしかないのよ」
リリエイラさんは結晶を眺めて喜ぶどころか慄いている。
「このサイズの魔導具を作るとなったら戦略兵器よ、もう。クオリティによっては地平線まで戦場丸ごと蹂躙できるわ」
「……とんでもないものを持ってきてしまったのか」
「本当にそうよ。国に見つからないようにどこかに封印したいくらい」
う、うわあ。
……とまあ、微妙に困る案件になってしまったお土産から、リリエイラさんは目を離して。
「……それはともかく、お疲れ様、アイン君、ユーカ。……正直、失敗する可能性もそれなりに考えていたわ。いえ、あのポチに認めさせたくらいだし、もしかしたらできるかも、と思っていた……というのが正しいかしら」
「“邪神もどき2”以外はそんなには苦労もしませんでしたけどね」
「……あれも頭が痛い話だけれど。……アイン君のここまでの成長は、あまりにも危険よ」
「危険……?」
リリエイラさんは頷く。
「一都市を滅ぼす災害を、独力で押し返す武力。一個人が持っていることを、政府はどう思うのかしらね」




