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進化する殺意

 様子見はいらない。

 防御力皆無の僕に、そんな真似する余裕もない。

“殺意の禁呪”は既に解放している。

 全開だ。最初から一切加減なしで、殺す。


 疾る。


 間合いを一気に詰めて、迫る。

 飛び道具で反応を見るなんて悠長な真似をするつもりはない。

 普通なら「バスタースラッシュ」の到達速度でかわすなんて不可能だが、相手は邪神。反応できないはずはないし、止める手段もおそらくある。振ってから当たるまでタイムラグのある飛び道具なんて使うのは無駄手間だ。

「良い度胸よ!!」

 奴の剣が襲う。

 まともに受ければ一撃で鎧ごと断たれるであろう斬撃。

 僕はユーカさんの高速ステップを使って加速し、追い抜くように背後にすり抜けて回避。

「……!?」

 奴はそれに驚いたようだ。僕の身のこなしよりも、正面から斬るでも受けるでもなく、大仰な「ブラックザッパー」を担ぎながら位置取りに徹する僕の行動そのものが理解できないといった具合。

 正面からの激突で探り合いなんかする気はない。

 相手は僕を知らない。アドバンテージがあるとすればそこだ。

 力を比べるな。背中から最初から100%を叩きつけろ。

 これは喧嘩じゃない。ビビらせる必要なんかない。


 ぶち殺せ。


 全身の魔力を一気に駆動。

 魔力を込めて剣の力を引き出す「パワーストライク」に加え、斬撃を多重化する「ゴーストエッジ」、そして……今こそ出よといつも念じ続けていた無拍子の「ゼロモーション」。

 一瞬に集中して、それらをまとめて放つ。

 奴は、それをまともに受けて……いや。

 手ごたえが弱い。

 当たらなかったわけじゃない。当たっている。だが、まともな当たり方なら当然の抵抗がない。

 自分のスイング直後でまともな回避ができないと判断し、食らいながら「流れる」方向で被害を局限する策に出たか。

 判断が鋭い。奴のスペック次第だが、少なくとも一撃死は免れる。

「なっ……」

 それでも一瞬で叩き込まれた攻撃の密度に驚愕している様子だ。

 本来なら「ブラックザッパー」の歪曲破壊効果をまともに受けて体幹部が消滅するはずだが、あれは発動までに少し時間がかかる。一瞬のやり取りでは発動しきれない。

 初撃で仕留めきれないか。

 なら次で殺す。

 奴が体勢を立て直す前に追撃。

 再び「バスターストライク」と「ゴーストエッジ」、「ゼロモーション」を重ねた漆黒の斬撃を叩き込む。

 ……今度は明確に手応えがない。

 まずい、幻覚か何かで逃げられた。振らされた。

 メガネが万全でなかったのが災いした。見抜けなかった。

 背後から斬撃が来る……いや、ここだ。

 薄紫の呪いが、僕の殺意が、告げる。

 殺すチャンス(・・・・・・)だ、と。


 本来の「ゼロモーション」は、返し技。

 強引に攻め手に応用するのではなく、今のような瞬間こそが本来の在り場所。

 今こそ、剣士であることを超え、剣であることを超え、「斬」たる概念と化す……!


「……バカな……!?」


 背後からの攻撃であることも、姿勢の無理も、無視。

 我が事ながら理解できない斬撃で、奴の一撃に先んじて「ブラックザッパー」が相手を逆袈裟に斬り裂く。

 なるほど。

「ゼロモーション」は、重ねて応用するよりそのままの方が強いな。

 相手の攻撃の瞬間、強制的に必殺必中の一撃を叩き込む。素直に使えばそういう適用になる。

 僕の本来の状態では不可能なほどの集中力が必要になるが、充分な攻撃力が用意できれば一方的に倒せる。

 とはいえ、奴にしてみれば今の段階で充分意味不明だろう。

 僕の攻撃はここまで全部「ゼロモーション」。振っている瞬間が奴には見えていない。

 そしてその中で突いたはずの隙も、また不可視のままに自分への深手だけが入っている。

 奴はアンデッド。まともな生物なら打ち止めの負傷でもまだ我慢できる。

「前」のこいつはドラゴン由来の再生力を発揮することでその生存能力をフル活用したが、今回は組み込まれているか。

 いや。

 組み込まれていたとしても関係ない。

 再生能力はあるとしても無限ではない。その原資は、魔力だ。


「しつこい真似はさせないよ」


 奪え。

 魔力を奪え。

 剣で巻き取れ。引き剥がせ。

 全て自分のものにしてしまえ。

 それは今の僕なら──“殺意の禁呪”に身を委ねた僕なら、できることだ。


「がぁっ……!?」


 薄紫の電光が走る。

 侵食する。

 奴の身体から。その周囲に濃密に漂うオーラから。

 一撃ごとに魔力が失われ、僕のものになっていく。

 一撃ごとというのも、奴の攻撃が成功することはない。

 全て「ゼロモーション」で攻撃の前に迎撃が決まり、奴はまともに振ることも許されない。

 距離を取ろうとしても僕はそれを察知して先回りする。

 それはただの隙であり、ただの僕の手番になる。


「化け物……め……!! こんな理不尽な戦いが……あるか……!!?」

「ああ。目の前にな」


 奴は何もできない。奥の手すら出せない。

 出させる隙など与えない。

 魔力を奪い、攻撃機会を奪い、支配する。

 見た目にはつまらない戦いだろう。僕が剣を振るっているところは誰にも見えない。観測できるのは打ち終わりのモーションだけだ。

 意味不明な勢いでただただ奴が傷つき続け、魔力がみるみる奪われ、死滅していく。


「そいつに聞いていなかったのか? “邪神殺し”って名前を」


 起死回生のチャンスなんて与えない。

 絶対に。

 もう誰も、こんな奴の暇潰しで奪わせてたまるか。


「僕の前に現れた以上、お前は死ぬ。来るべきじゃなかったな」


「……どうやって、戦えたというのだ……この化け物と、前の、我は……!!」


 最後に。

 ありったけの「ブラックザッパー」の歪曲破壊が、奴の肉体に集中する。

 轟くような音を立てて、奴は消滅した。

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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ・・・再生怪人の哀れな定めよ・・・
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