攻略方針
とりあえず、もう逃げたであろうディックさんのことは後回しにして。
「遺跡の暴走を止めるには、そのなんかしてた部屋が一番怪しいな」
「操作手順がわかればいいんだけど」
「ンなもんどーでもいいだろ。お前のソイツで叩き壊しちまえばいい」
ユーカさんが僕の持つ「ブラックザッパー」を指さす。
……確かにこれなら歯が立たないってことはなさそうだ。
けど。
『雑な破壊はさらに手が付けられなくなる可能性もあるわよ』
リリエイラさんが指摘する。
……まあそれが一番の心配事で。
壊した結果、さらにモンスターがすごい勢いであふれだしたらと思うと若干怖い。
「いや、よくね? 遺跡がほっとくといずれ『枯れる』ってことはわかってるんだし、モンスター生産がさらに増えるってんなら枯れるのも早くなるはずだろ」
『…………』
リリエイラさん(謎水晶)は黙る。
「そういうもんですか?」
小声でマード翁に確認してみる。
「ほぼ恒久的にモンスターを作って補充し続けるシステムが、この高速生産をしたせいで破綻するってんなら、元になる種銭を過剰に使い込んでる状態って仮説は成り立つかものう。例えば貯蓄100で一日10ずつ使えばずっと尽きないのが本来のバランスだとすれば、11ずつ使うなら100日で破綻する。これが15ずつまで浪費が加速すれば20日、30なら5日でドボンじゃ。ワシらが離脱できるかという問題さえクリアすれば、さらに暴走加速して一気に許容量超えを狙うのは割とアリかもの」
『……無茶苦茶ね』
「一瞬で爆発的に増えるなら、むしろこの遺跡内で過密による自滅が多くなるだろ。ぼんやりしてるよりはやっぱりマシな話だと思うぜ」
『……はぁ。まあ、私が直で調べられるならともかく、現場にいるのがあなたたちな以上、遺跡構造の完全把握による最適処置っていうのは高望みだしね……』
「コイツ自分なら遺跡を完全に解明できるつもりでいるぞ」
『茶化さない! 最善を模索するのは当然でしょ!』
と言いつつも、語気を弱めて。
『まあ無理だけど……そっちに回してる使い魔、本当に見るくらいしかできないし……』
「だろ」
『……任せるわ。本当に不安だけど』
ああ、胃が痛そう。
ロックナートたちにはさっき倒したサーペントの中でも毒がなさそうな色のやつ(適当)を選んで焼き肉を振る舞った。
いや、みんな胴体より後ろ部分の身には毒がない……はずではあるらしいけど。
紫色のサーペントとかそれでも食べたくないよね。
焼いている最中にサーペントや多頭龍が定期的に襲ってきたが、ファーニィの聴覚探知と僕の「バスタースラッシュ」で大体は近づく前に瞬殺した。
「……こんな奴が無名だったなんて信じられねえ。というか、俺たちが最強パーティだなんて吹き上がってたのが恥ずかしくなるぜ……」
「さすがに負けはしないとはいえ、治癒師抜きで多頭龍とやって全員無事に済む気はしねえもんな……」
ロックナートと仲間たちは僕にザクザクと殺されていくモンスターたちを横目にしつつ、食事を続ける。
「しかし、絶食したあとに急に食うとかえってまずいのではないか?」
アテナさんが心配そうに言う(覆面兜だけど)。
「まずいんです?」
「軍隊ではいろいろな極限状況になるからな。たまにそういう状態で飲み食いさせたら死んだという話を聞く。急に重いものを食わせてはいけないらしい」
あー。なんか似たような話、故郷で近所の爺様に聞いたかも。
飢饉のときにそういうことがあったらしい。
が、マード翁は首を振った。
「こいつらはまだそこまで痩せこけてはおらん。まあ、さっきの施術の時に全身ある程度は整えてあるから滅多なことにはならんし、死んでもすぐならワシが治せる」
「最後のは別に言わなくてもよかったんでは……」
マード翁、臨死への態度がすこぶる軽い。
僕が言えたことじゃないけど、普通の人が聞いたらやっぱり引くと思うよ、そういうの。
というわけで結局ロックナートたちはその後、特に体調を崩すこともなく満腹まで食べ、元居た建物に籠城し直してもらう。
僕たちはロックナートたちの情報をもとに、この遺跡の中心施設と思われる建物に向かう。
「あれだ。あの建物の地下のはず」
「地上だったらアインのスラッシュで倒壊させておしまいなんだけどなー」
「そういうので簡単に落ちないように地下にしたんじゃないかな」
さすがに「ブラックザッパー」での「バスタースラッシュ」で、遺跡の建物が破壊できるか……というチャレンジは今のところやっていない。
でも、注意して撃ったものでも地面は破壊できてるので、やったらできるんじゃないかなあ、という感じはする。
使われている建材が石なのか鉄なのか、なんか別のものなのかも素人目にはよく分からないけど、ところどころで瓦礫になっていたりもするし、絶対破壊不能でもなさそうなんだよな。
僕がその気になったら遺跡を更地にするのも今なら不可能じゃないかもしれない。……広いから根気は必要そうだけど。
そんなことを考えながら、無機質でありながらどこか寺院のような雰囲気も感じる建物に入っていくと……中は。
「ギェッ、ギェッ」
「ギャッ! ギャッ!」
ゴブリンくらいの大きさの、しかし全身が昆虫のように金属質の甲殻に覆われたモンスターの大群に迎えられた。
「うわっ」
「アインさん、どいてください!」
思わず「バスタースラッシュ」を振りそうになって、それで建物が倒壊しないかな、と少し不安になって手が止まった僕を押しのけ、クロードが「嵐牙」を振るう。
狭い室内に突如、爆風の如き風圧が生まれ、アーマーゴブリンたちは十匹近くがまとめて吹き飛んで壁に叩きつけられ、動かなくなる。
「体が小さいから『嵐牙』の風がそのまま殺傷力になりますね……!!」
クロードが、直接切り結ばない素振り状態だからこその剣速で、次々に暴風を生みだしてアーマーゴブリンを束で始末していく。
暴風の合間を縫って接近しても、クロードは普通に「嵐牙」で迎撃して斬り捨てる。
……最近大物ばかり相手にしていて、もっぱら防御や応用に使うことが多かったけど、やっぱりこの剣、普通に強いな……。
「耳とか切り取らなくていいんですよね!」
「よっぽどそれ嫌なんだねクロード……」
「好きになれる要素はないです」
まあ、クロードもここまで来れば、もうそんな作業ちまちまやらなくていいランクだとは思うけど。
「あのハルドアのガドフォードみたいに変な趣味拗らせるよりはいいのかな……」
「アレと並べてやるなよ」
ユーカさんの言う通り、クロードはちょっと嫌そうな顔をしていた。
ごめん。




