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“北の英雄”と古代遺跡

 ヒゲのおっさんばかり5人のパーティ。

 まるで王都のドラセナの工房を思い出すが、ドワーフではない。

 彼らの大半は受けた負傷や毒などで酷い状態で、それがずっと室内に閉じこもっていたのだとすれば臭いのも当然だった。

「お前さん方、治癒師の一人も連れずに遺跡に来たんかい」

「ここに来るまでは居たんだがね。守り切れなかった」

 リーダーのロックナートは苦い顔をする。

「ライトゴーレムも大型サーペントも、俺らならそれぞれタイマンで殺れるくらいの腕はある。普通なら治癒師を守り切れないなんてことは有り得ねぇんだ。だが……」

「めちゃくちゃに囲まれた、と」

「遺跡漁りなんざ俺らにしてみれば日常だ。いくらでも経験がある。でも……クソッ、あの野郎……!!」

「?」

 聞き取り役のマード翁が首を軽く傾げる。

 ロックナートは治ったばかりの拳で壁を殴りながら、忌々しげに。

「思えばおかしな依頼だったんだ。遺跡の構造に詳しすぎた……そこまで調べ尽くしてるなら、わざわざ俺らにやらせなくても……と思うぐらいだったんだ」

「なんじゃ依頼って。順を追って話さんか」

「ああ、元々ここに来たのは……って、クソ、敵が……!」

 ロックナートが身構える。ふと見ると少し離れた路地からサーペントが顔をのぞかせていた。

「ユー、剣貸して」

「おー」

 僕の「ブラックザッパー」で迂闊にやると周辺ごと破壊してしまう。遺跡の巨大建築物が倒壊したら大惨事だ。

 大通りで蹂躙するんだったらそれでもいいんだけど、一匹だからね。

 ということでユーカさんからショートソードを受け取り、サーペントに「バスタースラッシュ」を振る。

 ……おっ、致命傷をかわした。生意気な。

「もういっちょ」

 ビュッ、と振る。

 今度こそ首がすっ飛んだ。よし。

「うむ、片付いたな。で、話は最初からじゃ」

「……お、おい、今あのガキ、何したんだ……? ただ剣を振り回しただけでサーペントが……」

「彼がワシらの今のリーダーじゃ。“邪神殺し”のユーカに勝るとも劣らんぞ」

「な、何ィ……? 全く知らんぞ、そんな奴が今までどこに……」

「ウワサになるのはもうちょい時間かかるじゃろうがな」

 しかし、ロックナートほどの冒険者でも魔力剣技って珍しく映るもんなんだな。

 一応騎士団ではそこそこ使い手がいる……みたいな話なんだけど、やっぱり我流が当然の冒険者だと、そうそう魔力を乱用して戦うことは覚えないらしい。

 僕だって、ユーカさんに教えてもらわなきゃ使う発想もなかったんだけど。



 ロックナートからの聞き取りの結果。


 一人の男から、遺跡のとある場所に連れて行って欲しいという依頼があったらしい。

 ロックナートたちは遺跡に慣れている。出てくる敵も、彼らから見ればたかが知れている。最大でも多頭龍(ヒュドラ)、それだって全員でかかればそう手間取る相手ではない。

 簡単な依頼のわりに報酬も高額だ。後詰冒険隊(サポートパーティ)を編成したって充分に元が取れる。

 そして、最初の依頼は大したアクシデントもなく完遂。

 だが妙なのはここからで、現場を変えて同じように「連れて行ってくれ」という依頼が再び来た。

 何か高尚な研究でもしているのかと思ったが、学者先生ならもっと人数を連れて行くものじゃないか。

 依頼者はずっと一人で、机仕事をするような風体にも見えなかったらしい。

 そして、護衛をしながら彼を観察していると……指定した遺跡の奥地で、何やらガチャガチャと操作のようなことをして、諦めたように手を止めて撤収の指示。

 行き帰りに古代文明の遺物を拾っても、それにはさして興味を示すこともなかった。

 そして、同じ依頼の三度目がこのドーレス遺跡。

 流石に何か妙だな、とは思っていたものの、誰も彼のしていることを理解できない。

 まあ、お宝よりも興味深い何かがあるんだろう……と、放っておいて、彼らは彼らで遺物漁りをしていたのだが。

「うまくいった」

 と、彼は言って振り返り。

「あなたがたには世話になった。すまない」

 ……と、何故か謝って、彼らを置いて足早に部屋を出ていった。

 とはいってもロックナートたちもしっかり仕事はして、行き道は敵掃除(クリアリング)もしてきた。依頼者は後詰冒険隊(サポートパーティ)のところにでも戻ったんだろう、と思い、宝漁りをしばらく続けてから外に出ると……そこには今まで一度も見たことがないほどのモンスターの集団……というより、群衆が待ち構えていた。

 それらと乱戦の末、敵の数に押されて建物に逃げ込み、今に至る。



「露骨に怪しいな」

 ユーカさんが唸る。

「なあ、今どうなってんだ? 後詰冒険隊(サポートパーティ)は無事なのか? 俺たちは今言った以上のことは何もわからねえんだ」

「ここから溢れたモンスターがゼメカイトまで押し寄せてる。もうゼメカイトはほとんど落ちた。一応、一部の兵隊や冒険者が残っちゃいるが、このままの状態だと耐えきれねー。……お前らが連れてきた後詰冒険隊(サポートパーティ)は、まあ、絶望的だろうな」

「…………」

「ていうか、よく生きてましたよねあなたがた。食べ物とかどうしてたんです?」

 ファーニィの言葉に、ロックナートの仲間の一人が家畜の膀胱で作った水袋を掲げてみせる。

「給水の魔導具で、この中でも水だけはなんとか用意できたからな。それを回し飲みしてなんとか凌いでたよ。メシは後詰冒険隊(サポートパーティ)に任せっきりだったから、みんなオヤツ程度の非常食しか持ってなくてな……」

 前にゼメカイトで僕が欲しがったのと同じ、魔力を込めて水袋に差しておくだけでそのうち水がたまるという短剣状の魔導具。

 あれはユーカさん曰く「粗悪品」だったけど、ちゃんとした奴を持っていたようだ。

 それがなければ普通に餓死していたんだろうな。

「正直、誰か一番に死ぬ奴がいたら食う約束をしてたところだ……なんか食い物余ってないか。分けてくれ」

「一応あるにはあるけど……」

 リノが差し出した炒り豆の袋にワッと群がるヒゲのおっさんたち。

「う、うめぇ……豆がこんなに美味い食い物だなんて初めて知ったぜ……!」

「お、おい、もっとよこせ、俺の分が少ねえ」

「こら、そんなに取るな、それはこっちの分だ」

 女の子のおやつを筋骨隆々のおっさんたち(痩せこけてるけど)が奪いあう光景はなんというか滑稽だけどちょっと怖い。

「もっとないのか!」

 そして案の定リノに「もっと出せ」とばかりに詰め寄るも、ジェニファーが割って入って牙をむき出す。

 何やってんだか。

「サーペントの白焼き、ここでもやりましょうかね」

「サーペントって嗅覚すげーらしいけど大丈夫か」

「そこはもうアイン様が何とかしてくれると信じて!」

「まあ……いいけどね」

 僕らの本命の野戦食に手を出されるとちょっと困る。まだまだ遺跡に踏み込んだばかりで、どこまで戦わなきゃいけないか未知数だし。

「しかし……聞いてたかリリー。何者だと思う?」

『遺跡の暴走を意図的に引き起こした可能性……ね。前回の暴走が数百年も昔っていうと、そんなノウハウが残ってるとは信じがたいけど……』

「実際にやってるんだ。そこはとりあえず『手がかりはあった』と読んでおくべきだろ。それより誰がやったかだ」

『現時点では雲を掴むような話ね。およそ机仕事をするようには見えない……というだけしかわからないんじゃ。もっと聞き込みを続けてくれないと』

「……だな。おいマード、そういうことらしい」

「ということらしいから何かもっと手がかり喋れ」

 その伝言ゲーム必要?

 と思うけどそれはスルーして、豆を貪っているロックナートは少し悩んだ顔をして。

「そんなに特徴のある奴ではなかったな……あまり若くはねえ。学者にも見えねえ……まあ学者にもいろいろいるんだろうが、学者にしちゃ身のこなしがこっち側(・・・・)だった」

「こっち側? どういうこっちゃ」

「剣振り回したりはしてなかったが、ありゃあおそらく腕が立つぜ。……現役か、昔取った杵柄なのかは知らねぇが、冒険者やってたのは間違いねえ」

「ほう。で、名前は何と」

「ディック。姓か名かも知らねえ。ただそう名乗ってた」

 ユーカさんと顔を見合わせる。

 ……冒険者なんて適当に偽名を名乗るのもまかり通る世界だ。間違いない、とは言えないけれど。

『……ディックさん、ね』

「アイツかな」

 ……僕が参加した、あの後詰冒険隊(サポートパーティ)のリーダーであり、それ以前にもずっと同じポジションで“邪神殺し”パーティを支え続けていた……おそらく観察し続けていた、レリクセンに何らかのつながりを持つ男。

 その男が……遺跡を、意図的に暴走させた……?

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