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みんながおびき出しては僕が斬る。
その繰り返しで、200かそこらは斬っただろうか。
「さすがにちょっとダラけてきたなあ」
「あのサーペント以来、違う敵もおらんことじゃしの」
ちょっと張ってきたので腕に軽く治癒術をかけてもらいつつ、僕とマード翁はのんびり次の集団牽引を待つ。
カイは護衛のつもりで立っているのだが結局それらしい出番はない。出てきたら即座に全部僕が「オーバースラッシュ」で叩き斬って終わりだし。
「な、なあ……お前ずっとこんな調子なのか? 強いというか、これじゃ何が相手でも勝ち確定じゃないか」
「まー、結果だけ言えばアイン君に土をつけそうになったの、山みたいなクソデカドラゴンとかロナルドぐらいじゃしのう」
「一応、フルプレさんにもボロ負けしてますよ。剣習い始めの頃ですけど」
「今やったら勝てるじゃろさすがに」
「どうかなあ……あ、ちょっと待って」
一体、スラムに繋がる路地からのっそり出てきた。破壊音が気になって近寄って来たものの、遠くて辿り着くのに時間がかかった個体か。
路地から離れてこっちに来て欲しいので、まるで遠来の客人に手を振るように「ブラックザッパー」をぶんぶんと振ってアピールし、こっちを見つけさせる。
果たして、僕に気が付いたライトゴーレムは軽く前傾した突進姿勢となり、例によって足を使わず、軽く浮き上がるような挙動でスーッとこっちに突進してきた。
「よしよし。えい」
ちょうどいい距離になったところで「オーバースラッシュ」。
……あっ、しまった。ちょっと外した。腕だけ落ちた。
「ごめん、ちょっと離れてて」
カイとマード翁を下がらせて、片腕のまま突進してきたライトゴーレムに「ゲイルディバイダー」で直接突進。
胸の中央に、真っ向から「ブラックザッパー」を叩き込んで……なんとなく癖で、魔力をさらに追加注入。
「砕けろっ!」
この技は最近はもっぱら移動技として使ってばかりだけど、本来は敵の魔力攻撃を裂いて突っ込み、刺し貫く技だ。
今はユーカさん用になっている当時の愛剣は火属性を帯びていたので、この駄目押しの魔力注入は確実に倒すために重要なルーチンだった。
が、「ブラックザッパー」でやったことはなかったな、と思った直後、剣から溢れた黒い魔力が瞬間的に収縮し、一度膨れ上がったライトゴーレムの体が一瞬で消失。
ガシャガシャッ、と腕と足がバラバラに落ちて散らばる。
「……なにこの効果」
怖。
火とも地とも風ともつかぬ、なんか複雑なオンリーワンの属性効果が発生してるんだろうけど、未だにその正体がよく分からない。
ただ、加減が利きにくく、確実に周りごと破壊していい状況じゃないと安心して振るえない……というのは間違いなくて、普段使いには向かないよなーとは思う。
王都に戻れば黒赤二刀が直ってるんだろうけど。ここでの作戦はさすがに一日二日では終わりそうにないから、なんとか別の剣も用意するべきか悩む。
「……ごめんごめん。で、何の話だったっけ」
「……いや、あの細ゴーレムを虫でも叩くみたいにバラバラにして、そのまま雑談の続きしようとするお前がやっぱりちょっと怖いよ……俺たちじゃ毎回命懸けなのに……」
「……まあ、いい武器といい師匠に恵まれたんだよ」
「いい武器っていうか、お前それじゃなくて俺の剣でも普通に細ゴーレム倒せるんじゃないか? 下手したらナイフとかでも勝てそうに見えるぞ」
「ナイフだと魔力容量的にちょっと不安だなあ……やれなくもないけど」
一応「バスタースラッシュ」を振ることはできるが、やっぱりある程度は魔力を込められないと破壊力も出ない。
小さいナイフでも素材によっては長剣みたいに魔力を込めることはできるのだろうけど、少なくとも普通の鋼のナイフだと「バスター」でもライトゴーレムを一撃で叩き斬れるかは怪しいなあ……三発ぐらい振ればなんとか。
と、冷静に可能かどうかの話をしてしまったのだが、カイはなおさら変な顔をして。
「マードさん。これ素で言ってますよね」
「うむ。実際ちょっと手間が変わるかなって程度の話じゃぞ、アイン君的には」
「……まるでユーカさんじゃないか」
ああ……まあ、うん。
カイとしては、やっぱりまだ「無能のアイン」の印象が先に立つ、か。
僕も逆の立場なら、夢でも見ている気分だろう。
金も後ろ盾も特技もなく、いつ死ぬか時間の問題だったようなミソッカスの壁貼り冒険者が、たった一年かそこら見ないうちに、指名冒険者でも手こずるような奴を流れ作業で殺すような化け物になって帰ってくる、なんて。
「ユーカもこんな状況じゃと手こずるじゃろうな。あいつテンション上げると超強いが、こういう微妙な奴らの波状攻撃じゃとそこまで行かんから」
「そうですか? あの筋肉だったらそれでも一方的にやっちゃいそうな……」
「素でもパワーでなんとかするんじゃが、その分わりとザクザク怪我するんじゃよあいつ。ワシあいつと一緒に冒険しとった数年で、首と心臓以外だいたいのモン再生したからの。安定感じゃと今のアイン君の方が全然上じゃ」
「……首と心臓以外……って、えーと、アソコとかもですか?」
「ひょひょ。カイ君とやら、そこが気になるとはなかなか見込みがあるのう。そうじゃ、だいたい全部じゃ。まあゴリラじゃ乳もケツもありがたみなんてないんじゃが」
そのユーカさん含めてみんなが戦ってる時に一体なんの話をしてるんだ。
「……最低ね」
そして、僕の代わりに、血も凍るような声でツッコミを入れる声があり。
びっくりしてマード翁もカイも飛び上がり、慌てて振り向くと、そこにはリリエイラさんがいた。
「ひぇっ」
「リリーちゃん!?」
「ユーカは全然気にしてなんかいないでしょうけど、その分私が怒ってあげないといけないかしら」
「い、いやっ、これは治癒師って女性の治療する時どんな風に……っていうただのふとした好奇心で」
「ワシもなんか悪いこと言ったかのう!?」
「品が!! ない!! でしょうが!!」
「男三人しかおらんのじゃから品もへったくれもねえじゃろ!? てかリリーちゃんいつからそこにおったんじゃ!?」
いやまあ、僕はその方向性の話題やめてくれないかなあと思ってたのでありがたいんですが、突然どうして。
「はぁ。……一応偵察として、遠見の魔術は定期的に使ってるわよ。こんな状況じゃ見極めを誤るわけにいかないもの。……おかえりなさい、でいいのかしら、アイン君?」
「ゼメカイトを取り返さなきゃ帰ってくるも何もないですけどね。……魔術学院に立てこもった理由を聞いても?」
「ゼメカイト魔術学院の書庫と魔導具庫は人類の大いなる資産よ。未研究の魔術資産の量では西大陸でも有数……これを破壊されたら取り返しがつかない。それにどう考えても魔術師一人で駆逐できる量じゃないでしょう、このゴーレムたちは。状況改善までは籠城以外の選択肢はないわ」
「……ユーカさんの言った通りか」
これは彼女という一人の魔術師が現実として可能な対処。それでしかない。
「出てきたっていう事は、何かしら籠城以外の選択肢が見つかったってことですか」
はぁ、と彼女はメガネの側面から軽く位置を直して。
「……現状のモンスターの位置情報と、本丸の場所。魔術学院に来れば教えてあげられるわ。……これが遺跡暴走だとすれば、無尽蔵にゴーレムを生産する大本を叩けば、そこで止まる。私が直接行くことも考えたけど、どう考えても戦力が足りない。……ただ、これはただの情報提供であって、どうしろという作戦提案ではないわ。それは忘れないで」




