表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/365

化け物が食らい合う

 想定していた中距離戦は不利だ。

 ロナルドやフルプレさんの攻撃を補うように「オーバースラッシュ」を差し込み、圧倒していく……というのが元々の戦闘プランだったのだが、あの爆風剣の乱用を許せばこっちの方が先に崩れてしまう。

 接近戦。それも味方を背負う形ではなく、出来れば側面から攻めて、こっちの攻撃も向こうの攻撃も後衛側に流れていかない位置関係にしないといけない。

 その上で、双剣スタイルの強みを生かしていく。

「蛇炎疾駆……アインスペシャル!!」

 あの“四本腕”メルビン氏から伝授された連続攻撃を仕掛ける。

 一気呵成の攻撃自体はそのままに、さらに「オーバースラッシュ」も付与して、紙一重の回避を許さない嵐の斬撃を見舞う。

 それに対し、「邪神もどき」は時に回避し、時に反撃の爆風剣を放ち、時に攻撃自体の発生前に剣で弾いて逸らし、技量を見せつけていく。

 一気に押し切れなければ、防御を捨てる“四本腕”スタイルはその脆さを露呈する。

 付け焼き刃の二刀流で決め切れるほど甘くはない。

 僕の攻撃は直撃することなく、「邪神もどき」の斬撃は新しく仕立てた鎧に大きな傷を刻んでいく。

「ちっ……!」

 どこで受けるかは意識しながら身を晒している。

 ドラセナには申し訳ないな、と少し思うが、鎧は攻撃を受けてナンボだ。即死を免れただけでも上等。

 ひとつ前の軽ミスリル装甲だったら戦闘継続は難しかったかもしれない。

 しかし、うまく狙った位置関係を取ることには成功。

 ひとまずのアプローチは成功か。

 ここからが本番。

「まだまだダンスの休憩は先だぞ!!」

「そう来なくてはな」

 僕の言葉に嬉しそうに返す「邪神もどき」。

 やりにくいな。躊躇するわけではないけど。

 僕はメガネを押して、再度襲い掛かる。

 奴に余所見の隙は与えない。

 フルプレさんやロナルド、あるいはアテナさんやマキシムが、これ以上の後衛への被害は抑えてくれるだろうけれど、クロードが復帰するだけの隙は僕が稼ぎ出さないと。

 ……という計算をよそに、もう一人の僕が胸の中で暴れ始めている。

 もっと獰猛に、もっと強烈に。

 さらなる攻撃の創意があふれ出す。


─「ヘイズ」だ。奴の爆風剣を「バスター」で抑えるのは難しい。あえて焦点を外した「ヘイズ」で、爆風剣を封じろ。─

─むしろ力の入る「左回り」で「ヘイズ」を打てば、爆風を遮る斬撃線の太さを兼ね備えつつ、ダメージを期待できるのでは?─

─それより爆風剣をコピーできないか。言うほど難しい術理には見えない。僕ならやれるだろう。─

─奴は詠唱していないし剣にも仕掛けがあるようには見えない。……溜め込みと解放? インパクトの瞬間に指向性を操作している? 僕の無詠唱で代用できるんじゃないか?─

─奴の真似をしても意味はない。魔力勝負や耐久力勝負に持ち込んだらモンスターに勝てる道理はない。もっと上を生み出せ。─

─ユーカさんのダッシュキックのやり方を聞いておくべきだったな。動きで裏をかくためのタネが「ゲイルディバイダー」しかない。あとは正面勝負を「メタルマッスル」で凌いで突き破るか。─

─無詠唱で属性剣の再現ができないか? 腕の中で属性変化を編んで剣にそのまま乗せてやればできるんじゃないか?─


 ……冷静になれ。

 感情を制御しろ。発想を溜め込め。

 僕は勝つためにここにいる。

 仲間を守るため。敵を倒すため。

 ユーカさんを守り、その未来を作るため。

 ……そのために僕は、この命を使うんだろう。


「ククク……滾っているな、人よ……!」

「否定はしない」

 眼前の死を前にクールダウンし、色付く視界は落ち着くかと思いきや、さらに光は強くなり、体に脈打つ昂揚の感触は高まっていくのが感じられる。

 絶望的な強敵を前にしての本能の発露か、あるいはこの力の「本来の持ち主」であるユーカさんとの繋がりゆえの共鳴か。

「それを味わいたかったのだ」

「……何?」

「堪能させてもらうぞ」

 鎧武者は、兜の中から人ならざる眼光を放つ。

 そして、脇構えから剣を爆速で叩きつけてくる。

 なんて踏み込みだ。

 これを「メタルマッスル」で……食らえば、それでも大ダメージは免れないだろう。

 それにどこまで吹き飛ばされるか分かったものじゃない。遠くまで吹き飛ばされれば、戦線復帰までの間に仲間たちが皆殺しだ。

 貰うわけにはいかない。

「ふっ……!」

 低くバックステップしながら、両剣を揃えて「バスターストライク」で叩きつける。

 ガァンッ、と激しい音が響く。

 互いの剣に込められた魔力により、無責任に増幅された衝撃力同士が炸裂し、衝撃波を生んで双方ともに数メートルも弾かれる。

 僕も、奴も、それでは飽き足らない。

 殺る。

 殺られる前に殺れば勝ちだ。これ以上は奪わせない。

 もうアーバインさんやクリス君も、メルウェンさんも、奪われている。

 奪われないために、強くなるために、僕は冒険者になったんだろう。

 その想いの遥か先にユーカさんがいて、ユーカさんのようになりたいと願ったんだろう。


 (シーナ)の笑顔が、脈絡なくチラつく。


 今の僕なら、あの日の妹を救えるだろうか。

「お兄ちゃんは強いから一緒に行ってやる」と、妹に言って、悲劇を止められただろうか。

 ……そんな仮定は意味がないと思いながらも、僕はさらに内圧を上げて、勝利への執念を燃え上がらせ。

「おおおおお!!」

「はっはっはぁっ! 良いぞ、良い! 無尽の安穏を捨て、あんなモノを取り込み、さすらった甲斐があった!!」

 僕は「バスターストライク」を次々に「邪神もどき」に叩きつける。

 左回りの螺旋回転は、全身でやる必要はない。「メタルアーム」の要領だ。体内で魔力の流れを制御できれば、ポーズにとらわれずに「バスター」にできる。

 それに「もう一人の僕」の発想で気が付いて、黒赤の双剣でそれを連打していく。

 奴はそれをいなし、時に打ち返し、時に直撃して黒い血を振り撒きながら、それでも笑う。

 言葉の内容なんてもう僕は聞いていない。

 わかりあうべき相手ではないなら、もうそれは屠畜の断末魔と変わらない。耳が理解を拒絶する。

「残りの命は貴様にくれてやる! 味わえ! 人にありて人を捨てた化け物よ!」

 奴の攻撃も加速する。

 乱撃に爆風が混じる。押さえ込み切れず、間合いが離れる。

 中距離戦は駄目だ。魔力を取り出して補充するにはタイムラグがある。消費量の多い飛び道具の撃ち合いになったら押し負ける。


─ならば、取り出さずに補充してしまえ。─


「はぁあっ!!」

 爆風剣を、延伸でなく拡幅の方向に概念強化した“破天”と、それに施した「バスターストライク」で、ねじ伏せて散らす。

 そして散らした魔力を認識。

 充分な量だ。さすがは「邪神」。贅沢に使うもんだ。

 それを双剣を振るって巻き取り、取り込む。

 ここまで使った分の魔力なんか、余裕で回収した。

「まだまだぁ!!」

「はははははは!! 楽しいぞ、化け物め!!」

 爆風剣と「バスタースラッシュ・ヘイズ」の乱射で撃ち合い、拮抗する。

 魔力が光る霧になり、互いの姿が隠れる。

 が、その奥の「邪神もどき」の姿は、僕のメガネが色の違う光として捉えてくれる。

 バルバスさんの改造に感謝だ。

 その光に向かって、ダブルの「ゲイルディバイダー」で急進し、襲い掛かる。

「もらう!!」

「やらせんわ!!」

 再びの「蛇炎疾駆」。

 だが、さすがに一度見せた連続技なせいか、完全に払われてしまう。

 くそ。決め切れないか。

 打ち合いにはなっているが、このままだと基礎体力の差が勝負に響いてくるな。

 もっと強い、もっと激しい技を……!


「混ぜてくれ」


 忽然と。

 僕と「邪神もどき」の対峙の横合いに、ロナルドが出現する。

 完全に意識の外だった。

 それは僕だけでなく、「邪神もどき」にとってもそうだったらしい。

「私も飢えていてな……!」

 騎士らしからぬ、低くワイルドに脚を広げた変則的な構えから、ロナルドの剣が疾る。

「ぐぅっ!?」

 邪神もどきが、初めて余裕のない悲鳴を上げ、その片腕が飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アインも笑ってるんだろうな
[一言] 主人公がゾーンに入ったときの戦闘描写が迫力あって興奮しました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ