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展望と覚悟

 ルザークの提案を、ユーカさんは条件を付けて承諾。

 僕たちは夕食をごちそうになってから、“魔獣使いの宿”跡地に戻ってきた。



 男子小屋、女子小屋に分かれて就寝前に、どちらでもない屋外に焚き火を焚いて囲み、話す。

 話さずに寝たら互いにモヤモヤしてしまうからだろう。誰もそれを無視して勝手に寝たりはしなかった。

「損害が軽く済めば、か……」

 条件とは、「『邪神もどき』との戦いでパーティの形が残れば」というもの。

 つまり、僕、ファーニィ、リノ、ジェニファー……が、最低限生き残ったら、まだドラゴンと戦う能力がある。

 そのうちの誰かが欠けたら諦めてくれ、ということだった。

「思うんだけど、このパーティってユーやクロードだって充分に欠かせない要員なんじゃないかな。もちろんアテナさんも」

「ワシは入っとらんの?」

「マードさんも戦力としては大きいですが過剰に過ぎるというか。僕らの身の丈だと、ファーニィの治癒術でまだ足りないような冒険は無茶の類になるかなあ、と」

「うーむ。まあ、それはそうかもしれんのう……」

 マード翁の反則的な治癒能力とマッチョ化による近接戦闘力は非常に頼れる。が、正直に言って、パーティに欠かせないかというと、そうでもない。

 もちろん治癒師がいてくれて損なことはない。

 普通ならパーティの急所になりがちなのが治癒師だが、マード翁は逆に攻撃面でも頼れるほどの存在。

 邪魔になることは全くないのだが、パーティを成立させるのに不可欠かというと、やっぱりファーニィでもいいかな、というのが本音。

 彼が入る前の段階で、パーティは既に完成形といえる。

 彼を連れてきたのはあくまでこの街に「邪神もどき」が残した傷跡に対応するためであり、また「邪神もどき」という規格外の存在に立ち向かうのには、過剰なほどの治癒力が必要になるだろう……という緊急的判断によるもの。

 本来は彼は自分自身を中心とするパーティを組むか、あるいは身軽に一人で活動する、というのが正しい選択だろう。

 それに関してはフルプレさんやロナルドもそうで、今回助っ人としては頼りにさせてもらうけれど、今後も冒険者として連れまわすのが正しいとは思わない。

 あくまで僕たちは6人と1頭。それが冒険者パーティとしては本来の形といえる。

 しかし。

「アタシは自分で言うのもなんだが、今はこうという役割を任せられねー。冒険者としては極論入ってなくてもまあ、そんなに穴にはならねーだろう。アテナとクロードはどっちか欠けてもパーティは機能する。まあ前衛ってそういうもんだしな。消耗するんだから一時的に戦線離脱できねーと治癒もできねーわけだが、まあそういう意味では欠けてもいける。が、残りは替えが利かねー」

 僕、ファーニィ、リノを指差し。

「アインは言わずもがなエースアタッカー。いなきゃドラゴンと戦うのは土台無理だろ。ファーニィは魔術も治癒術もできるし感覚が鋭い。マードには真似できないこともだいぶ多い。パーティの要だ。……で、リノがいなきゃジェニファーも使えないし、アインの魔力を維持できない。これまた替えは利かねえ」

「私じゃなくても魔力は誰でも補充できると思うけど……」

「ファーニィの倍ぐらいあるだろお前の魔力。ファーニィは戦闘でも魔術使うから無駄に消耗させるわけにいかないし」

 ファーニィの魔力が意外と低いのか、リノの魔力が意外と高いのか。

 まあ僕から見ると、どっちも桁が違うのだけど。

「それにまた魔導石壊れたらリノいねーといじれねーよ。そう考えると、アインが全力出すにはリノはもう必須に近い」

 そして「別にいなくなってもなんとかなる」扱いをされたアテナさんが加勢する。

「何より、ジェニファーがいないとこのパーティは回らんだろう。かわいいし、いざという時に迅速に動けない人間を運べるというのは、劣勢の時にこそありがたみがわかるはずだ。人がやろうとすれば想像以上に難易度が高い。そしてかわいい」

「アテナさん。普通に理屈だけでも納得するんでかわいいというのはとりあえず置きましょう」

「いや、かわいさの方が重要だ。アイン君とクロード君はそうでもないかもしれないが、我々女性陣はジェニファーがかわいいからこそ日々の活力が保たれていると言って過言ではない」

 真剣な顔で断言するアテナさんだが、それを聞いているユーカさんとファーニィの「いや……そこまででも……」と言いたげな顔が少し印象的。リノは頷いているがまあリノなので仕方ない。

「でも、全員無事に切り抜けたいね。誰かを犠牲にして勝つというのはゾッとする想像だ」

「邪神ってのは甘くねーぞ。マードのおかげでアタシらは欠けずに済んだが、今回のはあの生き汚いアーバインが殺られる始末なんだ」

「それでも、この中の誰かを死なせてまで倒したい相手ではないよ。……やるなら完全勝利だ」

 僕はメガネを押す。

 あのアーバインさんがなすすべもなく、と思うと、いくら味方が豪勢とはいえ、ちょっと見通しが甘すぎるのかもしれない。


 だけど、まあ。

 ……僕より先に仲間たちを死なせない程度は、やってみせる。

 そう、腹の底では決めている。


「しかし、こうなると……『邪神もどき』をおびき出して倒し、その黒幕をマリスたちやルザーク殿に探らせる間にドラゴンを打ち倒す……そして、黒幕と対峙、という流れになるのでしょうか」

「順調にいけばの話な、あくまで。黒幕なんているのか、まだ影すらつかめてねーんだし」

 クロードの言う通りの順番になるのかな。

 もしそこまで遂げられたら、彼もマリス姫の婿に名乗りを上げられる人物として堂々とふるまえるかもしれない。

「……ドラゴン、か。今から心配するのもあれだけど、勝負になるかな」

「さあな。ドラゴンっつっても種類が違えば攻略法も変わる。弱点に叩き込めば何とかなる奴、正面勝負しなきゃいけない奴、近づくことからしてやべー奴……話の通じる奴も、いる」

「いるんだ。ほとんどのモンスターは話が通じないのに」

「向こうの機嫌次第だがな。人への敵意を基準にするなら『ドラゴンはモンスターじゃねぇ』って言い出す学者もいるんだ。……まあ、アタシにとっちゃどっちでもいいがな。会話ができても相容れるとは限らねー。人間だって、な」

 確かに。

 例えば山賊だって会話ができる相手ではあるが、だからといって躊躇していたら自分が危ない。

「……でも、話せるなら話してみたくはあるわね。そんなモンスターがいるのなら」

 リノが控えめに言う。

 合成魔獣(キメラ)の専門家としての好奇心か、あるいはただ悠久の生命体の叡智への興味か。

「そのつもりでドラゴンに近づいて帰ってこなかった学者はいっぱいいるんだぜ。お互いこの世界で生存競争してんだ。妙な色気は出さない方がいい」

 ユーカさんの言葉に、リノは反論しない。

 リノにとっては魔術師としての好奇心は、冒険者としての食い扶持のありがたさに勝るものではない。パーティの方針に逆らってまで、甘いことを言うつもりはないのだろう。

「まずは『邪神もどき』じゃの。……うまいこといくとええのう」

 マード翁の言葉にみんな頷き、やがてそれぞれ眠くなった順に小屋の寝床に潜り込む。

 フルプレさんの交渉は、うまくまとまるだろうか。ロゼッタさんは、危険な作戦に素直に乗ってくれるだろうか。

 どちらにしろ、勝負は数日以内だろう。

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