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新たな鎧と、新たな時代と

 ドラセナの工房で鎧が修理……いや、ほぼ新造された。

水竜(アクアドラゴン)の鱗はあらかた無事だったからね。それを軸にして作り直したよ。……んでジジイどもが変な気を利かせちまったんだけど」

「妙なところに穴があるような……」

「いや、穴に見えてそこはちゃんと幻晶石はめ込んである。ガラスより透き通ってて、磨いた状態ではほぼ見えないけど硬度は金剛石(ダイヤモンド)にも匹敵する……っていう、アチキらドワーフ秘蔵の人工素材だよ」

「え、なにそれ……すごいやつじゃない?」

「作るのにとんでもない手間がいるから、普通は頼まれたって使わないんだけどね……ジジイどもがアンタの胸のやつ見て『ドワーフ流の洒落っ気がわかる奴じゃねえか!』って喜んで、勝手に使っちゃった」

「……いや、そういう洒落っ気というわけじゃないんだけど」

 鎧の胸甲の真ん中に空いている穴……のような、窓。

 そこに指を突っ込んでみようとするも、カツンと爪が当たって奥に行かない。

 ガラスと違って固体と気体の境界が見えないので、すごく不思議な感じだ。

「鎧下のほうにもちゃんと穴つけておけば、その鎧着ても光が見えるって寸法だよ。……まあ、その、アタシが言うのもなんだけど『だからどうした』って感じの仕掛けだね」

「……いや、まあ、厚意だと思うし、防御力が下がってるわけじゃないなら……あと値段がとんでもないことになってないなら、ありがたく」

「あぁ、ジジイどもが勝手にやったことだし値段に上乗せはしないよ。ったく、余計なことばっかりノリノリなんだからあいつらはもう」

 ドラセナの背後で、ドワーフの老人たちがこっちに向かっていいスマイルで親指を立ててきた。

 僕が愛想笑いを返すと、それでドラセナは察して振り向き、何事かをドワーフ語でわめいて散らしにかかる。

 なんか、このやりとりも段々慣れて微笑ましくなってきたな。実績上がるにつれてドワーフ爺さんたちの視線も好意的になってきたし。

「この鎧にはドラゴンミスリルみたいな名前はあるの?」

「んー……今回いろいろ調整用にごちゃまぜで使ってるからねぇ……こうと言い切るのもアレなんだよね」

 ドラセナはしばらく悩んで、ビッと指を立てて。

「この際だ。『ドラセナの鎧』とストレートに言っちまおうか」

「ホントに全くひねらないんだ」

「ドラセナ印の、と枕詞をいちいち言わせるのもね。せっかく目立つだけの仕掛けもつけたことだし、もうその名前で宣伝効果はバッチリでしょ。ドラセナって何? って聞かれたらこの工房のことを教える……と、話の導線も見やすいしね」

「なるほどね……」

 商魂逞しさは相変わらずだ。

「で、アンタの剣は打ち直しに入ってるけど、ホントに急がせなくていいのかい?」

「ああ、どのみち量産ベースの剣じゃそろそろ危なくなってきてたからね。ここまで使ってきた思い入れはあるから、ちゃんと手入れはしてやりたいけど、この先あれで戦うことはなくなるかも」

「ふーん……まあ、そういうことならジジイどもにはしっかりやらせるよ。なに、数打ちの剣っつったって素性はいいやつだ。やりようによっちゃまだまだモノになるはずだよ。ただの鋼ったってドワーフが手がけるんだ。ウチのジジイどもは腕は誰にも負けない」

「頼むよ」

 新しい鎧を身にまとって……一応、鎧下にまだ穴は開いてないからピカッと光ってるわけではないけど、うすらぼんやりと透けた光が外に漏れる。

 ……実際、この胸の光って夜に小便しに行くときとかに便利なんだよね。

 一度小さい虚魔導石に散らした魔力を中央石に集中させれば、光量も結構自在に上げられて、手元の明かりには充分だ。

 その魔力移動も、結構いざって時の訓練になるし。

 まあ最終的には革とかで隠せばいいんだし……ドワーフたちが目論む通り、鎧下に穴、開けちゃおうかな。

 いちいち光の魔術を使わなくても夜道やダンジョンで視界が確保できるのってありがたい。あれも結構集中力は使うしね。


 宿に戻ると、裏庭でクロードが実家から持ってきた大剣を素振りし、それをユーカさんが監督していた。

「腕で振るな! 実戦でそんな振り方してたらすぐバテんぞ! デカい剣は全身を使え!」

「は、はい!」

「イメージは今まで腕でやってたことを全身でやる感じ! 腹筋、背筋、大胸筋、大腿筋! 体中のデカい筋肉の全てを剣の加速に寄与させるんだ! それだけの重量なら細かい加減は要らねー、受けに回らせたらもうこっちのもんだ! 防御もいなし(・・・)も丸ごとぶっ潰せ!」

「うぅっ……指導が野蛮だ……!」

 と、言いつつも、クロードの剣速は一振りごとに速くなり、思い切りがよくなっていく。

 そしてユーカさんの言う意味が、傍で見ていても実感としてわかる。

 長さとしては倍も変わるわけではないが、「切り裂く」という怖さの普通の剣と「叩き斬る」という迫力を醸し出す大剣の実感的な恐怖は、桁が違う。

 いくら「パワーストライク」でこっちのパワーも実質的に底上げができるとはいえ、これを受ける側には回りたくない。

「もっと速く! もっと踏み込みも深く! お前の力なら一撃でワイバーンの首だって叩き落とせる! それに比べりゃ人間の防御なんて竹串みたいなもんだ! 大剣を使うとなったら防御と攻撃の思考は明確に切り替えろ!」

「本当にそれでいいんですか……!?」

「知らん! 少なくとも今はマードやファーニィがいる! 自分より先に敵が死ねば、あとは片腕が落ちようが臓物が出ようが実質丸儲けだ!」

「その思考でホントよく死にませんでしたね」

 クロードは汗を腕で拭きながら呟く。僕もそう思う。

「それだけバックアップも豪勢じゃったからの」

 いつの間にかマード翁も見物に加わっていた。

「ユーカが突っ込む時には、露払いはフルプレにアーバイン、クリス坊やがやる。搦め手が必要ならばリリーちゃんがなんでもできる。ワシのところまで戻ってこれりゃ、どんな傷だって元通り。ユーカの心が折れん限りは、どんな相手にだって負ける気がせんかった」

 マード翁は目を細め。

「山のようなドラゴンも、麦畑のようなモンスターの大群も……そしてダンジョンの彼方の“邪神”すらも。……あんなに心の滾る日々は、もう訪れんのじゃなぁ」

「……ええ」

 アーバインさんもクリス君も散り。

 ユーカさん自身もその無敵の強さを捨てて、それを再現することは叶わない。

 僕は、それ以上なんと言っていいのかわからずに、黙る。

 マード翁は寂しげに笑った。

「なに、人生というのはそういうものじゃ。どんなに良い日も二度はなく、すべては変わりゆく。……やがて時代におけるワシらの番は終わり、いずれ君や、クロード君やファーニィちゃん……次の誰かに、主役が移る。その繰り返しじゃ」

「……マードさん」

「それを君らが気に病む必要はない。ユーカに冒険者としての暴力の日々しかないのでは、あまりにもひどい……それと同じように、モンスターをただ殺し続ける日々が、フルプレやリリーちゃんにとって最上の人生とはとても言えまいよ。君らは彼らの去った後に立っている。それだけじゃ」

「マードさんは?」

「ワシ? ワシは趣味じゃよ。冒険の最前線、一瞬を争う時こそワシの治癒術が光る。他んところでは他の奴らで足りるじゃろ。あとほら、ワシ油断するとすぐ偉くなっちまいがちじゃし? 立場があると女の子のケツになかなかかぶりつけんでな」

「……まあ、それはそうでしょうね」

 気楽そうに誤魔化す彼に付き合う。

 ……ユーカさんが、僕にするより楽しそうにクロードに指導する姿に、ちょっとだけ嫉妬しながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかアイアンマンみたいになってるwww
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