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剛剣勝負

 互いに動きの「起こり」を見逃すことはなかった。

 その合図は僕が剣を持つ手をピクリと震わせたことかもしれないし、ロナルドがつま先を地面に噛ませた微動だったかもしれない。

 とにかく、動き出したらそれに立ち遅れることは許されない。

 僕とロナルドは互いに猛烈に踏み込み、魔力を込めた剣を激しく打ち合わせた。

「はぁぁぁっ!!」

「おおおおお!!」

 剣戟音が響き渡る。

 ロナルドはさらに鋭さを増した「パワーストライク」……騎士(かれら)流に言えば「斬岩」の乱撃を放ってくる。

 対する僕は、破格の魔力充填速度を頼りに、全ての斬撃を「オーバースラッシュ」で放つ。

 剣を打ち合うような至近距離では普通そんなことはしない。

 何故なら「オーバースラッシュ」は振り切って飛ばしてナンボの技だ。途中で剣が止まればせっかく「斬撃が飛ぶ」特性が意味を失い、魔力の再充填に時間がかかる。

 それを避けるために必ず使用者は大振りの邪魔をされないだけの距離を取るし、だからこそ「見てから鏡合わせで振り返すだけ」という対処が可能なのだ。

 が、僕は全速で振り回しながらでも魔力充填が充分間に合うし、斬撃が中途半端に止まっても気にしない。

 余波だけでも届けばいい。ロナルドが僕の剣を律儀に止めなければ、確実にダメージが入る。

 ロナルドの攻撃も怖いが、こっちの攻撃は空振りさえ効くのだ。「6割」にとどめないフルチャージ状態なので直接当たれば「パワーストライク」だし、その連撃は膂力の差を補って余りある。

 対するロナルドの斬撃は最初の一撃は魔力充分だが、それに続く攻撃では魔力充填が間に合わず、目に見えて威力が落ちる。

 僕とは違い、さすがに一瞬では魔力を込めきれないのだ。

 そしてこちらの攻撃がまともに入れば、いかに鎧を着こんでいようとも重傷は免れない。

 ロナルドは防がざるを得ない。間合いを取って仕切り直すことも「オーバースラッシュ」の射程で、簡単にはさせない。

 こちらの消費も重いが、我慢比べの乱打戦に入る。

 戦いながら軽口を交換する余裕もない。

 金属同士の澄んだ音が高く低く響き、一瞬も気が抜けない攻防が展開する。

 僕の「パワーストライク」なら並みの剣など叩き折る威力が出ているはずだが、ロナルドの剣は「並み」では全くないようで、折れる気配はない。

 だが雷属性はロナルドに効いているはず。魔力で剣への属性伝導が防げたのは最初の一発のみのはずだ。いくらか我慢が出来ても長くはもつまい。

 ……なんて僕の目算を嘲笑うように、ロナルドの剣は時折巧妙にすり抜け、僕を斬り裂こうとしてくる。

「!」

 まだ割れずに残っていた胸甲が布のように斬られた。

 軽ミスリルではロナルドの剣を防ぐ役には立たないらしい。

 思わず間合いを離せば、ロナルドはその隙にまた剣に魔力を込めてしまう。

 それをまた受けてからのラッシュ勝負は、振り出しに戻ったようでプレッシャーがきつい。

 でも、耐えなければならない。


 技がない分は魔力(パワー)で補え。

 経験がない分は度胸で補え。

 それでも足りない分は……。


「獲った……!」

 ロナルドが僕の首を狙った一撃を滑り込ませてくる。

 何度もやり直していられる魔力はない。虚魔導石に貯めた分は、使うために取り出して馴染ませるひと手間がいるのだ。

 僕はそれを、あえて受ける。


 足りない分は、意外性で補う。


「!!」

 滑り込んできた切っ先を、僕は手で受け止める。

「メタルマッスル」で……いや、少し違うな。

 左回りの螺旋さえ実現できれば、硬度を得られる。

 必殺技、つまり原始魔術は、身体の動きで発動速度・強度を高められる。

 逆に言えば体の動きは補助でしかない(・・・・・・・)

 体内で魔力だけを充分に駆動させられるなら、それは必ずしも全身で使う必要はないのだ。

 ……僕は戦いながら閃いたその説を、身をもって証明した。

 名付けて「メタルアーム」。左手だけ金属並みの硬度にする。

 その試みは……ある程度は、成功。

「……止めただと!?」

 ロナルドの剣は僕の手を突き抜けられない。

 ……が、手に刺さることは刺さっていた。

 さすがにロナルドの剛剣に無傷で済ますというのはキツかったか。

 が、こちらでも一撃を放つ程度の隙にはなった。

「はっ!!」

 突き刺す一撃。「オーバーピアース」。

 魔力を突き放って、ロナルドの腹を刺し貫く。

「!!」

 ロナルドは獣の敏捷性を発揮してまた難を逃れ……きれない。

 ド真ん中こそ逃したが、脇腹に確かな傷が穿たれた。

「かはっ……ふふ、ふはははは。やる。剣に巧さは感じられないが……それでも私に傷を刻むとは。いいぞ、アイン・ランダーズ!」

「そうかい?」

 僕はその寸時の隙に魔力を虚魔導石から回収、補充。

 それが馴染むまでの数秒、そしてこの剣戟音をファーニィたちが聞きつけるのを焦れて待つ。

 ロナルドはまだまだいけそうだ。僕は剣戟の中で何度も綱から足を踏み外しかけている。

 ロナルドにはもっと強くあってほしい。しかしもっと楽に倒れてほしい。

 二つの相反する思いが腹の中に同居する。

 そうしながら、今の「メタルアーム」成功から次のイメージを練る。

 魔力を局所的に螺旋化し、「メタルマッスル」を部分発動することに成功したのなら。

「旋風投げ」……「バスター」シリーズも、あの角度にこだわらなくても発動できるかもしれない。

 いや。

 角度どころか、フォーム的に適用が難しかったものも威力を飛躍的に上げられる……?

「お気に召したようで何よりだよ、ロナルド。……まだ倒れるなよ? 僕は満足していないぞ」

 血の滴る左手でメガネを押す。


 ……視界に、また不思議な色が付き始めている。

 それがメガネへの反射だと、この時やっと気づいた。

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