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再会の山賊騎士

「ロナルド……なんでここに。ルーダ部族国にいるはずじゃ」

 双子姫の情報によればそのはずだった。

 ルーダ部族国はかなり遠い。

 戻ってくるにしても、そう簡単にはいかない場所だ。

 それだけにヒューベルからの追っ手も届きづらい。その安全さを当て込んで、当分は動かないと思っていたのに。

 だが、ロナルドは鼻を一つ鳴らし。

「ふん。……あの姫君たちに教えておけ。情報収集にせよ、厳しく鍛えたものを使わなければ信用には値せん。それこそ、しくじれば即座に自死するほどの者でなければな」

「え……?」

「おそらく、私を密かに追わせているつもりだったのだろうが……少し脅せば簡単に寝返ったぞ。とっくにこちらのことなど把握もせずに偽情報を流すだけの間者になっている。ルーダなどに私が行くものか」

「……そんな」

(はかりごと)に長けたつもりだろうが、所詮は子供。本当の土壇場で人が何を選ぶかなど、想像もできはしない。王家の威光に下々が命果てるまで従わぬはずがない、と信じ込んでいるのだろうな」

 さして面白そうでもなくそう言いつつ、ロナルドは組んだ腕をほどかない。

 しかし、それでも威圧感は強い。

 下手に動き出せば、次の瞬間には剣を抜いている。そう確信できるくらいに隙が感じられない。

「悠々と過ごさせてもらっているさ。昔の知り合いも少なくない。王家に多少でも不満があれば、私に隠れ家でも路銀でも、なんでも提供してくれる。……まあ、私を売ったところでそう話は変わらん。見つからずに逃れるか、見つかって手を出せずに黙認されるかの差でしかない。あの時からな」

 あくまで、自らの剣でどんな多勢といえども斬り伏せていく、という自信を見せるロナルド。

 それほどの実力が実際にあるのだからとんでもない。

「……さて、アイン・ランダーズ。武装はそれで完全か?」

「は……?」

「前の時よりは、ずいぶん立派な恰好をしている。それだけ揃っていれば、よもや言い訳もあるまい。……それとも、まだ準備がいるか?」

 ロナルドはそう言いながら、僕の頭からつま先までジロジロと見る。

「……へえ。まだだと言ったら待ってくれるのか」

「気分次第だな。……今はそう焦る理由もない。それだけだ」

 余裕。

 油断、慢心……では、ないな。

 この男には、そんなものでマイナスなど発生しない。

 僕の歯ごたえがあればあるほど、彼にとっては嬉しい。ただそれだけのために、今まで僕らは泳がされていたのだから。

 最初から勝利条件が違うのだ。

 気まぐれで僕らを逃し、機会を逸するとしても、別に困ることはないのだろう。

 なら、なんとかして見逃してもらうか……?

 実際万全とは言い難い。この場を凌げばまだなんとかなるが、今やり合うのは……。

 いや、違う。

 今、逃げてはいけない。

 都合よく考えるな。奴は何も、こちらの準備のいい時に出てきてくれるとは言っていない。

 冷静になれ。「奴は双子姫の情報網にはもう掛かっていない」んだ。

 この機を逃して隠れられたら、追うのにどれだけかかるかわからない。

「アイン……」

 ユーカさんもおそらく同じ部分に気が付いている。僕に指示を出そうとはしない。

 ……僕は、ゆっくりとメガネを押しながら。

「まだ多少瑕疵はあるけどね。……いい機会だ。手合わせ願おうかな」

「ほう」

 ロナルドは精悍な顔に、不器用な喜色を作った。

「度胸があるな。それとも私がまた、いいところで剣を引くことを期待しているのか」

「期待がないと言えば嘘になる」

「……フッ。正直なのはいいことだ」

「だけど」

 決意を込めて、彼を睨み返す。


「勘違いしてもらっては困る。……お前が試すんじゃない。今から僕がお前を試すんだ」


 剣を握る。

「お前にあまりにも歯ごたえがなかったら困る」

「フッ。フハハハハハハ」

 ロナルドは笑い、組んだ腕をほどく。

 そして、僕と同様に腰の剣を握る。

「威勢がいい。私が何者か、まさか未だに知らんわけでもないだろう」

「ああ。だからこそだよ」

 だからこそ。

 対人戦において王国最強……どんな騎士団も大損害なしには制圧不可能とされるほどの剣豪、だからこそ。

 人間サイズに“邪神”の力を凝縮した、件の「邪神もどき」との戦いで、充分役立つピースでいてくれなくてはならない。

 つまり。

「簡単に倒れてくれるなよ。僕のために」

「おだてられて増長したか。あるいは……!」

「どっちだろうね。……ここからは、口でなくこいつで問答しよう」

 剣を。

 互いに……抜く。

 握りしめると、即座に電光を放つ僕の愛剣。

 ロナルドもそれに対応するために、剣に魔力を満たして「パワーストライク」状態に。


 さあ、やろう。

 上手くすれば剣戟の音は酒場にも届く。野次馬が出て来れば、耳のいいファーニィを始めとして、パーティのみんなも気づくだろう。

 そして、僕は全力をぶつければいい。

 勝てるとは思えないが、そう簡単に負けるつもりもない。

 ここで本当に手も足も出ないなら、「邪神もどき」には何もできない。

 なに、死にさえしなきゃマード翁が治してくれる。

 何をしてでも生き延びる。それだけでいい。


 ……この戦いがロナルドを動かすと信じて、僕は全身で魔力を活性化させた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最っ高!の引きで次回へ続くですな! 神尾作品の主人公の覚悟の決まり方が大好物です。
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