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速い旅路

 ジェニファー+空飛ぶ絨毯での旅はひたすら快速だった。

 馬車なんかとはスピードも快適さも比べ物にならない。

空飛ぶ絨毯は10センチ程度の高低差程度ならほぼ反発することなく吸収して飛ぶので、ガタガタと体が跳ね上げられることもなく、馬車や騎乗動物みたいな「乗り疲れ」がほとんどないのが嬉しい。

 なんなら寝ててもいいくらいだ。

 いや、僕かファーニィが減速術式(ブレーキ)使わないと多少の方向転換でも振り回されて大惨事になるから、僕は寝るわけにいかないのだけど。

「ジェニファーって本当にあれだけ走って大丈夫なのすごいな……」

「一応私やマード先生が適宜治癒術で足は治してますし」

「馬だってあんなに走らされたら多分嫌がるよ」

「その性格のいいところがジェニファーの素晴らしいところですよね!」

 ファーニィの言う通りだと思う。

 もしかしたら冗談抜きでウチのパーティで一番性格がいいメンバーかもしれない。献身的だし、温厚だし、気配りできるし、わがままも言わないし。

 いや、言ってるかもしれないけど僕らにはわからないし。

「ふん。吾輩の『フルプレキャノン』で飛び続ける方が速い」

「なんだよ。変な対抗意識燃やしてんなよ。てかそんなら王都まで今から飛べ。狭いんだよバカ」

「……できなくはないが着地が派手過ぎて不評なのでやらぬ」

「湖にでも落ちてろ」

 いやホント、なんでそんなアホなこと言い出してるんですかフルプレさん。

 彼の異常な魔力量なら、あの“飛蝗(バッタ)のアンクレット”系のやつ(空中加速してるのも水竜(アクアドラゴン)戦で見た)を力の限り使って飛行移動も確かに出来はするだろうけど、今は一人で別行動しても意味はない。

 彼は強い戦力だけどやっぱり一人でロナルドと戦うには不安があるし、万一にも死ぬわけにはいかないんだし。

「そういやアイン君、確かモノに込められた魔力なら吸収できるんじゃよな? フルプレの鎧から魔力吸って魔導石に貯めとくってどうじゃ?」

「待て。何故吾輩の魔力を勝手に盗ませようとしているのだマード」

「無駄に魔力有り余っとるんじゃからええじゃろ。どうせ底ついても一晩寝れば充分量になるんじゃろ」

「だからといって何故吾輩が付き合う必要がある!」

「金出せと言っとるわけでもなし。困っておる後輩に自慢の魔力を分けてやる余裕も見せられんとは、やはり器量の狭い男じゃのう」

「ぐぬぬ……よ、よかろう!」

 ええー。

 いや、そんな煽りで納得しちゃうのどうなんですか。

 あと、僕も何も言ってないんだけどやっぱり魔力吸収してみないといけない流れ?

減速術式(ブレーキ)代わります?」

「……お願い」

 ファーニィに場所を譲って減速術式(ブレーキ)の操作を任せつつ、僕はちょっと気が乗らないながらフルプレさんの鎧から魔力を吸収してみることにする。

 ……っていうか、できるのかな。

 リノでできたんだし、できなくはないよな。

 と、まずは虚魔導石に自分の魔力を収納して。

「お、光ってる光ってる」

「見ないでよ……」

 ユーカさんが僕の服の裾を無造作に上げて体の点線を確認している。

 胸の中央魔導石に魔力を送り込むと、勝手に分配されて点線状の小粒が光る仕組みだ。僕本人の魔力量を収納するだけでも、多少ではあるが光が強くなる。

 で、フルプレさんの鎧のおそらく一番パーツのでかい胸部分に手を当てて、吸収。

「ぬおっ……!?」

 フルプレさん、驚く。

 一瞬とはいかないまでも、急速に彼の鎧全体から魔力が抜け、不思議な迫力が失われるのがわかる。

「バカな……これほど簡単に抜かれるのか……!?」

「……この鎧って、こんなに魔力籠もってるんですね」

 だいたい3秒くらいで、当座籠もっていた魔力は回収完了。

 僕の全魔力より多少溢れるくらいの量を貰ってしまった。

 空いた手で虚魔導石に随時魔力を送り込みながらでなければ、宙に浮かせて保持することになって無駄になるところだった。体内なり触媒内に置かない魔力は拡散してしまいやすい。

「こんなに魔力使ってる状態を常に維持しながら戦うとか、正気の沙汰じゃないな……」

「そ、そちらの方がよほどおかしい。アンデッドにもそこまでの勢いで魔力を奪われたことはないぞ」

「ウチのアインはすげーんだよ」

 何故か勝ち誇るユーカさん。

「それより、もう三度四度くれてやれフルプレ。どうせ余っとるんじゃろ」

「そんな簡単に一度抜けきった魔力を込めきれるか。少し待て」

 ああ、やっぱりいくらか時間かかるんだな。完全に失うと。

「高度な対人戦を想定した従軍魔術師の中には、こんな風に魔力を奪って制圧する戦術を使う者もいるというが……何の呪文も使わずにこうまで吸い上げるのなら、似たような真似ができるやもしれん」

「僕が吸えるのはそこまで広範囲じゃないんで……アイテムに籠もってるのはともかく、生き物から直接吸うなんて真似もできませんし」

「それでも充分異常だ。全くの無詠唱でこれとは……魔力剣技をほぼ無効化することも夢ではない。化け物め」

 化け物に化け物って言われた……。

「そうか。魔術師のようにいちいち詠唱の隙を見せることがないから、鍔迫り合いにでも持ち込めば、そのまま強引に敵の武器から魔力を奪ってしまうということも可能か」

 アテナさんが得心した顔をする。

 そこにクロードが疑問を呈する。

「でも“斬空”のような飛び道具はどうにもならないのでは?」

「“斬空”を殺すのはそんなに難しいことではないぞ。相手の鏡合わせの動きでこちらも“斬空”を放つだけだ。あれは曲がらないし、相手の距離の取り方で予兆がわかる。最初から使い手だと割れていれば、さほど苦慮する攻撃ではない。……アイン君のように飽和攻撃してくるとなると、それでは間に合わんがな」

「そうか……勉強になります」

 ロナルドはもっと簡単にクルッと絡めとる感じで消したけどね。

 でも、アテナさんの言っている対処法はあくまで安全策であり、ロナルドのあれはもっと上級のテクニックなのだろう。

 あれなら僕が乱射したとしても、普通の魔力充填速度で捌ききれそうだし。

「よし……戻ったぞ」

「じゃあもう一度」

 またフルプレさんの鎧から魔力を貰う。

 ……別にこんなことしなくても、僕が胸を開けてフルプレさんに魔力込めてもらえばいいんじゃないか……と、思わなくもないけど、ちょっと裸の胸を晒して大男に触らせる絵面が嫌なので、提案はしないことにする。

「だんだん点線の光が鮮やかになってくなー。これ夜に見たらおめでたくねー?」

「やらないよ? 夜に半裸になるとか嫌だよ?」

 ユーカさんは相変わらず魔導石の光を見て喜んでいる。

 そしてアテナさんも。

「何を言う。夜の余興といえば肉体美披露だろう」

「やりませんよ? というか僕ヒョロガリなんで」

「最近はそれなりに筋肉もついてきたじゃないか。クロード君ほどではないが」

「でも脱ぎませんよ?」

「脱いでくれるなら私も付き合って脱ぐぞ?」

「いや人前で二人して脱ぎ合うとかただの変態じゃないですか」

 もしかしてこの人脱ぐ口実を探してないか。

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