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追加ミッション

「このように冒険しているのですね、皆さんは」

「お前も眼がやられてなければ、いつでも見られただろーよ」

「千里眼はそんなに長時間視るには向かないのです。何より、音や空気感などは視覚(それ)だけではわかりません」

 ロゼッタさんはリノの後ろでジェニファーに横座りしつつ、とても楽しそうだ。

 ちなみにこのルートを見つけた時点で彼女の眼には一度頼っていて、奥に魔導石素材になる鉱石があるのは予見したうえで来ている。

「ロゼッタさん、他のところにはモンスターまだまだいる?」

「いくつか集団がいますが、どこも弱い個体は減ってきていますね。最初は仲間意識があったようですが、ダンジョンの『縛り』が機能しなくなってからは共食いで集団維持を始めていますから」

「最後には一番強い奴だけが残るわけか……」

「まあ、アイン様の力であればその方が楽でしょう。残った個体は、どれもここの主である陸飛龍(グランドワイバーン)には遠く及びません。おとぎ話なら食べた相手の数だけ強くなることもありましょうが、現実は単純に的が減るだけですから」

「はは……すっかり信用されたなあ」

 以前ならユーカさんのオマケ、まだまだ甘い不出来の弟子、という扱いだったのに。

陸飛龍(あれ)をほぼ無傷で討ち果たした手腕を見れば、もはや一流冒険者であることは疑いません。僅かな間によくもそこまで成長されたものです」

「だいぶスカスカの経験ではあるけどね」

 ユーカさんやマード翁、それにアーバインさん。

 超一流である彼らが背後に控えていたからこそ、限界を超える強敵と幾度も渡り合い、生き延び、そして破格の攻撃力を得るに至れた。

 僕だけでは、たとえどこかで魔力の扱いのアドバンテージに気づけたとしても、途中で確実に取り返しのつかないポカをやっていたと思う。

 そして……そういう「成功の約束」に頼っていたからこそ、勝てる相手にぶつかって順当に勝っていただけで、拮抗する相手や読めない相手をあまり倒していない。

 でもまあ、冒険者の人生なんてそれぞれだ。

 実力では決してかなわない奴に、周到な準備のうえでジャイアントキリングをする人だっているし、たまたま格上に勝ってもそれで思い上がることなく、小物の相手で生計を立てる堅実な人もいる。

 命のやり取りなんてものは、トントン上がれる綺麗な階段は用意されていないものだ。僕みたいな極端な流れだって、珍しくはないのだろうけど。

「ほとんどのものは放っておけばそのうち手近で共食いし尽くして、最終的にシルベーヌ様の魔獣に片付けていただくことになるかと思われますが……一区画だけ、そうはいかないものもあります」

「?」

「ゴーストが十数体とレイス一体が陣取る区画があるのです。そこだけは、あえて叩きにいかないのなら、いつまでも残るのでしょうね」

「……えっ、もしかして僕にやってくれって話?」

「アイン様でなくとも、魔術師や銀武器の用意があるならどうにかなる範囲ではあると思いますが」

「……うーん」

 まあ、最終的に居残りを一掃するのはシルベーヌさんとブラ坂の役目になるだろう。

 そしてブラ坂はともかく、シルベーヌさんがその規模のアンデッド集団に慌てるのは想像できない……けど。

 でも、実際シルベーヌさんが冒険魔術師としてどこまでの腕があるか、というのは全然知らないんだよなあ。

 なんとなくの風格で強そうだと思うだけだ。

 まあ、ファーニィ曰く「エルフで魔術が使えないのなんて、お外に出せないレベルのバカ扱い」ということなので、ファーニィが普通に使う程度の魔術は当然使えるのだろうけど。

「じゃあ、そこだけ片付けに行こうかな。今回あんまり僕、役に立ってないし」

「……この最深部の大物集団をズタズタにしただけでも相当な活躍だと思うが」

 アテナさんはそう言うけど、「バスター」は消費的には普通のオーバースラッシュと変わらないので、体感消費は大したことないんです。

 両手の指に満たない回数、剣を振っただけ、というのが今回の僕の運動の全て。

 あとは照明の魔術の練習をしながら歩いただけ。

 多少はできることしないとね。

「そこ、遠いんですか?」

「ジェニファー様なら走ればすぐでしょう。人の足では帰り着くころには夕食の時間になってしまいそうですが」

「……んー、じゃあ……リノ、ちょっとジェニファー貸してね。さすがに三人乗りはジェニファーが可哀想だ」

「いいけど無理させないでよ? リーダーなら大丈夫だと思うけど」

「信頼には応えるよ。ジェニファー、危なそうならすぐここに戻るんだよ」

「ガウ!」

 例の絨毯はさすがに置いてきている。そうでなくてもダンジョンみたいな広くない道では運用しづらいけど。

「大丈夫か、アイン? 前にレイスと戦った時はだいぶ辛そうだったじゃん」

「ユーが口を滑らせなかったら大したことにはならないよ」

「チェッ」

 ユーカさんがあの時の失態を思い出したのか、気まずそうな顔をする。

「何したのユー」

「聞くなよ。レイスはたまに人語がわかる奴がいるんだ」

「あー……」

 なんとなく察しはついた、という顔をするリノ。

 まあ、レイスといえば死霊。それに聞かれてまずい事態……となれば、だいたいは想像もできるか。

「それじゃ行ってくる。リノ、素材はゆっくり選んでいいよ」

「はいはい。油断しないでね」

 ひらひらと手を振るリノ。

 なんだかんだで、仲間たちの中で一番いい距離感かもしれないな、彼女。

 僕を変に盲信してる節のあるクロードや、いまいち距離感そのものに信用のおけないファーニィ、我が道を行きすぎるアテナさんは、どうもこういうやり取りの末尾に不安が残りがちだ。

「それじゃあロゼッタさん。案内お願いします」

「このルートに入る分岐から、さらに二つ戻って下さい」

「ガウ」

 僕とロゼッタさんを乗せたジェニファーが疾駆する。

 ……乗り心地はブラ坂の方がいいかもな、とちょっと思う。


 しばらく走って、時折ロゼッタさんが出す指示に従って進む。

 何度か千里眼を使ったところで、ロゼッタさんの呼吸が少し苦しそうなことに気づく。

「ロゼッタさん? 大丈夫? なんか苦しそうだけど」

「……眼が傷ついている影響で、千里眼を使うたびに痛みがあるのと……その魔力消費が重いおかげで。体内魔力のバランスが崩れてしまいがちなのです。少し休めば大丈夫なのですが」

「そういうのもあるんだ……」

 体内魔力バランス、か。

 僕には想像もできないけど、元々魔力容量が大きい人だと、体の一部だけ魔力が欠乏して、調整が追いつかない……なんてのもあるんだろうな。

「この先は一本道です。……あまり深入りはしないで下さい、ジェニファー様」

「ガウ……」

 ジェニファーの足取りが慎重になる。

 僕は瘴気を感じ取ったあたりでその背を飛び降り、剣を引き抜く。

 ……どちらにも、近づけさせない。

「隠れても無駄だぞ」

 ゴーストたちと、その一番奥にいるであろうレイスにそう宣言し、魔力を剣に流し込んだ。

 メガネに意識を集中する。

 ……瘴気越しにも、その姿を捉えてくれる。


 嫌な経験を振り払うように、僕は極力心を冷やして、踏み出す。

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