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騎士たちがんばる

 水は低きに流れる、ってどういう意味だったか。

 少なくともモンスターも低いところには惹かれるらしい。

 降りれば降りるほどモンスターの密度が上がっていく。

「ちょっと量が多いなー」

「二人とも大丈夫? しばらくマードさんに前面代わってもらう?」

 少し進むたびに敵が二人の前に十体前後も飛び出してきて、アテナさんとクロードがだいぶ忙殺されている。

 ファーニィの魔術と弓による援護も続いているが、乱戦になり過ぎて狙いどころが難しく、迷った末に敵にも味方にも関係ない場所に着弾することがしばしば。

「まだいけます!」

「ファーニィ君、私は当たっても平気だから巻き込んでも構わんぞ! この鎧は特別製だ!」

「無茶言わんでくださいよ! いくら(エルフ)でもさすがにそう言って直撃させられるほどアレじゃないですよ!」

 前の二人に対して、後ろには僕、ユーカさん、ファーニィ、マード翁、ジェニファー(リノとロゼッタさん騎乗)。

 人員の半分以上が稼働していない。

 改めて前衛を多くとるパーティ構成って大事だな、と思う。

 自分が前にいる時には、分厚い後衛の存在は頼もしいけれど、こうしてピンチ気味の時に浮いた人員が多いとやっぱり無駄が多く感じるよね。

「アタシも突っ込むか。マード、やばそうならケツ持ち頼むわ」

「いやいや、それなら僕が行く方がまだしも」

「オメーはもうちょっと我慢を覚えろ。まだ誰も大ケガしてねーんだから」

 ユーカさんはそう言ってナイフをくるくるしながらクロードに襲い掛かるモンスターの集団に走っていく。

 大丈夫かな。防具らしい防具つけてないんだから集中攻撃されるとやばいんじゃ。

 ……と、思ったが、さすがにそれはユーカさんを侮っていた。

「おっしゃ混ぜろや雑魚どもー!!」

「ギャエッ!?」

 ユーカさんも何も考えていない突撃と見せかけて、モンスターの死角を巧みに狙って飛びつき、急所に一撃してはすぐに距離を取る動き。

 クロードも意図をすぐに察し、剣技で捌くのを諦めて体当たりでモンスターの追撃を押し留める戦い方にシフト。

 クロードの長所はそうして仲間の意図を察し、自分の役目をすぐに定められる戦術眼かもしれない。

 フルプレさんのような目立った巨体というわけではないが、それでも僕とそんなに変わらない身長で、格段に鍛え込まれた肉体に上等の装甲を纏うクロードは、そのフィジカルだけでも侮り難い存在だ。

 そのクロードの背後から変幻自在に飛び出し、モンスターの目や耳、喉、足の腱など、深手じゃなくとも的確に戦闘力を削ぐ一撃を見舞っていくユーカさんのコンビネーションは絶妙。

 敵の数に攻めあぐねていたクロードも、ユーカさんが個々の戦闘力を削いでいくにつれて優勢を取り戻す。

「ありがとうございます!」

「お前も悪くねーぜ! 何もみんなアインみたいにやる必要はねえ、お前みたいに役割(ロール)を確実に守る奴も必要だかんな!」

「はいっ!」

「敵を他人の方にこぼさない前衛」という意味では、確かにクロードみたいな立ち回りができる戦士こそが頼もしい。

 しっかり仕事をしてくれるからこそ、味方が安心して戦える……というのも、いい冒険者の条件だ。

 そういう意味では僕はあんまり立派じゃないかもしれない。

 殲滅力はだいぶ上がったけど、クロードみたいに敵を引き受けて防衛ラインを引くという戦い方は苦手だしな。

「アタシはアテナの方行く! 残りはお前が片づけろ!」

「お任せを!」

 敵のほとんどを手負いにして戦闘力が落ちたのを見計らい、ユーカさんはアテナさん側に飛び込んでいく。

 クロードは剣を振るってモンスター二体を切り捨て、改めて構えを取り、敵を挑発する。

「さあかかってこい! 私とて“鬼畜メガネ”の右腕たる者!」

「えっ、待ってクロード?」

 その名乗りはやめようよ。

 っていうか『鬼畜メガネ』、むしろ仲間たちが広めてる疑惑。


 アテナさんの方はちょっとだけ緊急事態。

 というか、今しがた剣が折れた。

「さすがに酷使が過ぎたな!」

 とはいえ、アテナさんはそれで慌てる人でもない。

 向かってくるモンスターに対し、格闘術で対応を始める。

 喉笛を狙うバケウサギを殴り飛ばし、敏捷かつ力強いホブゴブリンを回し蹴りで叩き伏せ、オークの棍棒を「メタルマッスル」で弾き返す。

「とはいえ決め手が足らんのも事実……“破天”も安易には使えん」

「僕の剣でよければ使いますか!?」

「いや、私の扱いではその剣も長くはもつまい! 少々頼りない細さだからな!」

 うっ。

 まあ、そうなんだけど。

 ダンジョン初挑戦時のヘルハウンドに焼かれて真っ黒にされ、フィルニアでそれを削り落とした最初の改造で、結構刀身が痩せたからな……。

 僕があまりガチンガチンとやらないから今まで保ってるけど、「パワーストライク」ですらない状態で普通の剣戟を繰り返したら折れてしまう可能性は結構ある。

「ならば奥義を以て補うしかあるまい」

「奥義!?」

“破天”以外にもあるの!?

 と、驚いていると、アテナさんはビッと両手を前に突き出し、何かを包むように上下に広げて構える。

 モンスターたちも何事かと身構える。

 ……数秒して、アテナさんの手の間に赤い光が生まれ、大きくなり始める。

「いや、あれただのファイヤーボールでしょ」

 ファーニィが呟いた。

 が、アテナさんはそれをグッと挟んで掴み……ダッと敵に突進。


「ゆくぞ! 名付けて“灼砕”!!」


 えっ、今「名付けて」って言った?

 と真顔になるが、アテナさんは実に華麗な動きでその赤い光球をオークの腹に押し付け、閃くような大振りの回し蹴りで「蹴り込む」。

 え、ファイヤーボールってそういう硬さあるんだ?

 そして、オークの腹にめり込んだ光球の熱が、アテナさんが至近距離にいるまま、解放される。

 ゴォウッ!

 オークの腹に穴が開き、その口と目と鼻、耳、そして腹の穴から炎が噴出して、アテナさんにも真正面からかかる。

 が。

「ふっ、決まった」

 アテナさんは平気そうにポーズを決めていた。

「熱くないんですか!?」

「多少な。だが私の鎧はこの程度ならあらかた防げるのだ」

 胸を張るアテナさん。

 ……ファーニィに巻き込めって言うわけだ。

「オメー魔術使えたのかよ!」

「これだけだがな。ずっとこういう技がやりたくて学んだのだが、人間に使うとあまりにもアレなので封印していた」

「そりゃそうだろ!」

 ユーカさんが動揺する他のモンスターに仕掛けながら呆れる。

 本来、大きいモンスターやそこそこの集団相手に使ってちょうどいいファイヤーボールを、強引に至近距離から「叩き込んで」使う。

 この人みたいなフィジカルと対魔術防御がなければ、発想すらしないだろう。

「さあ、次に体の中から熱くなりたい奴はどいつだ!」

「まだやんの!? いやアタシのナイフ使えよ!」

「……もう一回ぐらいやらせてくれないか」

「趣味優先で戦ってんじゃねーよ!?」

 溜め息をついて、マード翁が残りのモンスターをぶん殴りに行った。

 ……それが早いですよね。



 地下ルートの終端には光源がなくとも煌びやかに光る鉱脈があった。

 そこに至る前にはちょっとしたモンスターのラッシュがあったが、鈍重で硬そうなやつばかりだったのでアテナさんとクロードにはどいてもらい、「バスタースラッシュ」で順番に斜め切りにして突破。

「リノ、これっていい素材になるかな」

「うん、なるなる。……魔力込めると結構光りそうだけど、いいよねリーダー?」

「……ちょっと考えさせて」

 前の虚魔導石もうっすら光ったけど、今回のはかなり目立ちそうだ。

 ……ま、まあ服着れば大丈夫だよね?

「そんなに光るなら暗いところで役に立つんじゃね?」

 そういう発想はやめてくださいユーカさん。


 ……でも、結局諦めて発光マンになることになった。

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