砲弾王子の敗北
いつもの僕なら、こんな練習試合なんて適当に流して楽を取っていたかもしれない。
だが、今は楽に終わってもらっては困る。
こちらとしても大チャンスに違いはないんだ。
「ナメた戦いをしてもらっては困る。……こんなひねりのない突撃しかしないんじゃ、アテナさんに稽古をつけてもらう方が時間の有効利用になる」
「メタルマッスル」で凌いだ僕は、改めてフルプレさんに本気を要求する。
あのロナルドが、こんなヌルい突撃で済ますはずがない。
「邪神もどき」が、こんなどうにでもなる戦いを演じるはずがない。
僕はそういう想定をしなくてはいけないのに、手癖の手抜き戦術で適当にやられては困るのだ。
「あなたがあの『フルプレート』なら、これでネタ切れのはずはない」
「……小手調べを二、三凌いだ程度で、よくぞそこまで増長してくれたものだ……!!」
ギリ、と歯ぎしりの音を残し、一瞬で負荷が消える。
どこだ、と行き先を探す。
そこに、すかさず再び衝撃が襲う。
「!!」
ドゴン、と。
今度は「メタルマッスル」を使い直す暇もなく、僕は衝撃に耐えられずに弾き飛ばされる。
フルプレさんの姿が一瞬だけ確認できたかと思えば、再び消える。
「くっ」
わかっている。
これは「フルプレキャノン」の連発。
おそらく跳躍力を増強する「飛蝗のアンクレット」に類する魔導具……きっと、バルバスさんのところにあったものよりも高機能で多機能なものをフルプレさんは使用し、空中に跳ね上がっては「フルプレキャノン」を再発動する、というループを形成している。
あの水竜戦で、それらしき魔導具の光を僕も目撃している。
これがフルプレさんの得意戦法。
有無を言わさず、力に力を積み上げて相手を強引に制圧する。
これをやられたら、ワイパーンもなすすべもない。
何が起こっているのか理解する前に意識を刈られ、そのまま脳髄が叩き潰されるまで殴られ続けるしかない。
……が。
「それはっ……!!」
種が分かれば、そう難しい話じゃない。
圧が消えた瞬間、彼とてとんでもない勢いで視点が振れている。
少し離れた空中から僕を視認すると同時、遮二無二追撃する。
それは反射神経一発勝負であり、想定外に弱い。
その瞬間を、外せばいい。
「凌げる!!」
吹っ飛びながら、「ゲイルディバイダー」を発動。
剣が勝手に推進し、僕の位置は不自然に動く。
そこにフルプレさんは無理にブチ当たろうとして、外して地面に斜めに突っ込み、滑っていく。
僕も「ゲイルディバイダー」を解除しながら体勢を立て直し、広がった間合いで再び「バスター」を撃つ構えを取る。
フルプレさんは外れることを考慮していない。体当たりを当てて着地、再び跳ぶ、という動きを想定しているために、外せば大いに隙になる。
案の定、地面に抉り跡をつけながら立ち上がってキョロキョロと僕を探し、その僕が万全の迎撃姿勢を取っていることを見て再突撃を躊躇している。
「ぐぬぅっ……!!」
「……やり直しましょう。こんなの、攻略できても役に立たない」
「貴様!」
「僕は騎士としてのあなたの動きを期待しています。モンスター狩りの冒険者として『フルプレキャノン』での制圧は必勝かもしれないけれど、それを僕が捌いたところでロナルドらとの戦いの準備にはなりません」
「…………」
左腕の傷を押さえているせいで、剣を使う戦いがもうできない。だから体当たり戦法以外に戦闘続行の目がなくなっている。
それは彼にとっても不本意だろうし、僕にとっても続けても無駄。
「バスターストライク」が決まった時点で、フルプレさんはいったん「敗北」したのだ。
それを認めてもらわないと不毛な時間にしかならない。
……というのは、ようやく見ている側にも伝わったらしい。
「はいフルプレそこまで。お前の負け。マードに治してもらえ」
「ユーカ! 吾輩は負けてはおらぬ! この火霊騎士団長たる吾輩が……」
「負けてんだよバカ。これ以上の戦いになったら今度はアインが手加減することになんだぞ。頭から突っ込んでくるバカを頭割らないように捌けって話になるんだからな。そこまで駄々こねて、みっともねえ勝ちを譲ってもらうのがお前の誉れだってのか、火霊騎士団長さんよ?」
「ぐぬぬっ……!」
「アインは強ぇんだよ。殺していいならアテナや水霊の女団長にも勝てちまう。とっくにそういうレベルまで来てるんだ」
ユーカさんの言葉にアテナさんも頷いている。
……そういう認識なのか、アテナさんも。
まあ……本当にルールなしで戦ったら、大挙して襲う「オーバースラッシュ」をどう凌ぐかという話になるからな。
僕としては、それが通用しない近距離から戦闘開始したら、やっぱりアテナさんにはまだまだかなわない。「彼女より上」になった気はまだまだしないんだけど。
……そして、ロナルドや「邪神もどき」も、そんな粗雑な中距離攻撃で決め切れるほど甘くはない気がする。
「もう一度やりましょう。僕は騎士としてのフルプレさん……ローレンス王子との戦いを学びたいんです」
「……チッ。よかろう」
フルプレさんは血まみれの左腕をマード翁に突き出し、つっけんどんに治療を任せる。
やれやれ、と僕も態勢を立て直そうと自分の状態を確認。
……あっ。
「……やばい」
「どうしたアイン」
「……石、割れた」
魔力貯蔵庫である虚魔導石。
それは壊れた鎧の下で今までギリギリ無傷だったが、さすがに「フルプレキャノン」……それも「メタルマッスル」が完全でなかった二回目のそれには耐えられなかったようだ。
「……それ大丈夫なのか? お前、それ割れたら死ぬ時だとか言ってなかった?」
「……た、多分内臓とかにはダメージはない……と、思うけど」
「おいリノ! ファーニィ! ちょっと来い! アインの石が割れた!」
結局、石はその場で除去。
虚魔導石はまた新調することになり……特訓はうやむやになってしまった。
「ふふん。まあ痛み分けというところだな」
「いやテメーの負けだよ。何一矢報いた感出してんだよフルプレ」
確かにフルプレさんの与えたダメージで戦闘不能になったのには違いないんだけど。
この人、本当に勝負ごとに関しては子どもっぽいんだなあ……いやまあ、ユーカさんも似たようなものか。
でも、これがいずれ一国の王様になる人の言動と思うと不安しかない。




