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再戦フルプレート

 ドラゴンミスリルアーマーは、陸飛龍(グランドワイバーン)の攻撃で受けた損傷を修理できておらず、壊れた装甲の上からたすき風に布で覆って仮固定状態。

 これでもそこらで手に入るような半端な鎧よりマシだろうと思ってはいるが、安心して攻撃を受けられない状態であることは否めない。

 そして、相手があのフルプレさん。

 問答無用の大英雄であり、力押しという概念の体現者だ。

「せめて鎧を応急修理してからじゃダメですかね……」

「駄目だな。吾輩にも貴様にも、そう時間の余裕はなかろう。何より、貴様の相手たるラングラフや『彼の者』は、万全を待ってはくれまい。そうであるなら今の貴様の持ち札も、また巡り合わせのひとつと割り切らねばならぬ」

「…………」

 まあ……確かに、前回ロナルドとやりあった時は最低の状態に近かった。

 平服よりはマシ程度のオンボロ革鎧と、予備に持っていたナイフ一本。

 今考えれば、曲がりなりにも命を奪い合おうというのに正気の沙汰ではない。

 今の姿でも、それよりは充分にマシである、とは言える。

 そして。

「まあ、こんなこと言ってるけど自分からはハンデつけようとしねえセコい野郎だ。存分にブチのめしちまえ」

「むっ……そ、それは吾輩の戦法からしてだな」

「天下の王都直衛騎士団長がなっさけねーの。しかも相手は騎士でもねえ、この前ようやく剣術習い始めたばかりの若造だってのに大人げねえったら」

「そ、そんなことは敵は斟酌してくれまい! あくまで吾輩はこれから彼奴らと戦うにあたって」

「はっ、どうせこないだの親玉(ボス)に手こずると思ってたのにそうでもなくて内心面白くねーから、ここらで直接可愛がって(・・・・・)格の差のひとつも見せてやろうってんだろ? これだから騎士って連中はよ」

 ユーカさんの指摘に唸って、しかし反論できないフルプレさん。

 ……えー。そこは建前ぐらいしっかり用意してください。

「こんな器の小っせえ奴に先輩風いつまでも吹かさせてやるもんじゃねえ。アイン、お前もそろそろ見せつけてやれ。ふんぞり返ってた筋肉バカと違って、お前はずっと『冒険』してたってことをよ」

「あんまり煽らないで。実際、フルプレさんに瞬殺されてたらロナルドや『邪神もどき』相手にもおぼつかないし、特訓はありがたい」

「ふん。自信は一丁前につけているようだな」

 フルプレさんは剣を担いで歩み出す。

「……せめて木剣ってわけにはいきませんか」

「マードがいるのだ。一撃で死にさえしなければ何とでもなろう。短い時間で充分に濃い経験をするには真剣が一番に決まっている」

 ……マード翁の存在も良し悪しだなあ。

「つまり首さえすっ飛ばさなきゃいい。遠慮はいらねえってこった。ダルマにしてやれアイン!」

「ユーカ。貴様吾輩に何か恨みでもあるのか」

「いいかフルプレ。昔から何度も言ってるが改めてアタシの優先順位を教えてやる。自分、仲間、他人、そして最後に法だ。今のアタシの仲間はアインの方だ」

「ぐぬっ……」

「ま、せいぜい威厳見せるんだな。アインはこの前とは桁が違うぜ?」

 煽りに煽るユーカさん。

 そして僕も腹を決める。

 愛剣の鍔元の魔導石を雷属性に回して、宿から十分に離れる。

 元々合成魔獣(キメラ)の運動場だ。立ち合いをするくらいなら充分なスペースはある。

 が、フルプレさんはとんでもないパワー戦法の使い手。

 僕も中距離戦が本領だ。充分に周りに注意しないとな。

 ……ユーカさんの言う通り、せっかく相手から「遠慮なし」の特訓にしてくれたんだ。存分に手の内を使って、対ロナルド、対「邪神もどき」の戦いの訓練をさせてもらおう。


「それでは……ゆくぞ」

「ええ」


 フルプレさんはブワッとプレッシャーを増大させる。

 彼の全身を覆う鎧すべてに魔力が通い、戦闘態勢に入ったのだ。

 おそらく夜なら、その姿は薄い魔力光で線を引いたに違いない。

 僕もグッとアテナさん直伝の構えをとり、彼の攻撃を待ち受ける。

「おおおおお!!」

 その巨大な筋肉と、重量感たっぷりの鎧になみなみと湛えられた魔力量が、打撃力の塊となって迫る。

 相変わらずフルプレさんは、とにもかくにも大きく、重く、強い。

 モンスターの持つそれとは別種の、相手をすべてにおいて上回ろうという苛烈なまでの圧力が正面から迫ってくる。

 が、僕も以前よりはだいぶ自信をつけた。

 人より「オーバースラッシュ」が得意、というだけのか細い手がかりしかなかった時とは違う。

 真正面に捉え、引き付けて。

 現在使える最強の攻撃力、つまり「バスターストライク」。

 右下から左上に、螺旋の流れを纏いながら斬りつける魔力斬撃で、迎え撃つ。

 フルプレさんの筋力と重量に、研ぎ澄まして放つ理想角度の魔力で対抗する。

 剣に込めた魔力は、その威力と切れ味を普通の物理とはかけ離れたものへと補強する。

 これなら……!


 ギキィッ!


 と、僕の斬撃がフルプレさんの籠手を叩き斬る。

「ぬぉっ……!? 吾輩の鎧を……!?」

 おそらく魔力満タンの籠手で僕の剣を払いのけ、怯んだ僕に大振りの斬撃を叩き込んで決めようとしたのだろう。

 だが、僕の剣は防いだ彼の腕ごと斬った。

 完全に斬り落とすというわけにはいかなかったが、あの傷ならもう左腕は使えない。

 ……ここから。

「キリングダンス!」

 次の構えに即座に移行し、そして「オーバースラッシュ」を放ちながら隙を消す。

 攻防一体。変幻自在の連続攻撃を仕掛ける。

「バスターストライク」の攻撃力は特定角度でしか出せない。

 最初の一撃だけだ。

 そこから先は手数で防御魔力を剥がしていくしかない。

 フルプレさんもさるもので、すばやく剣を投げ出して左腕を押さえ、出血を留めながらも僕の斬撃を全身の装甲で回るように受け止めて、それ以上の貫通を避ける。

 そうして交戦距離から少し間合いを離して仕切り直そうというのだろう。体格の分、間合いの支配権は大きい。

 が、少しでも下がれば、僕も再び「バスター」を使う隙を得る。

 僅かな間に交錯する視線で、フルプレさんはそれを察したらしい。

 下がるのは愚策。ならば。

 鎧の正面防御が「キリングダンス」の連続攻撃で剥がれているのは承知の上で。


「舐めるな……!!」


 大気が歪む音がした、気がする。

 巨体が、弾かれたように突っ込んでくる。

 至近距離からの「フルプレキャノン」。威力が多少下がることを厭わずに放たれたそれを、僕は。


「……僕の台詞だ」


 地面に大きく溝を作りながら、止めた。

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