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単騎突撃

 つまるところダンジョンを攻略し、核を破壊する。

「ダンジョンは攻略しても奥まで視えるってことはないよね、ロゼッタさん」

「ええ、まあ……」

「それなら攻略することで安全地帯になるはず。一度敵掃除(クリアリング)すればもう外部から入ってこない限りモンスターが出ることはないし、冒険者でなくても物資の運び込みができるようになる」

 とはいえ。

「このダンジョンはデルトールの財源と言ってもいい。それをひとつ潰すとなればデルトールの領主からの反発は必至だぞ。何せそうそう生えるものではない」

 フルプレさんが唸る。

 今でも未発見のダンジョンが見つかることもあるにはあるが、それが「ダンジョンは新規に増える」ということなのかは専門家の意見が分かれている。らしい。

 エラシオたちと攻略したクエント地下のダンジョンの時も少し触れたが、ダンジョンは入り口を物理的に埋めるなどしてしまうと周辺地域のどこかに「移動」してしまう特性がある。

 突然未発見のダンジョンが見つかった場合、それが全く新しく出現したのか、あるいは侵入不可能な位置にたまたまあったものが何かの拍子に「移動」してきたのか、見つけた側では判断のしようがない。

 だから、ダンジョンはもう増えない「限りある資源」だという者もいれば、ゆっくりと増え続けているので積極的に減らしていくべきだ、と主張する者もいるのが現状だ。

 そして少なくとも、デルトールの管理下ではここ数十年は増えていないらしいので、ひとつでも失えば痛手だというのはわかる。

 だとしても。

「ロゼッタさんは得難い人材です。それを失い、ユーカさんを敵に回すことになると考えれば、安い話だと思いませんか」

「人材云々はともかく、ユーカはこの女のために都市(デルトール)とさえ戦うのか」

「あ?」

 フルプレさんに見下ろされつつの言葉に、ユーカさんは片眉を上げ。

「逆にお前、アタシがロゼッタ見捨てるのを『しゃーねーな』って言うと思うか?」

「人が自ら死地に向かうというなら、その心意気を立てるのが貴様の流儀と思うが」

「それが冒険心ってんならな。……金ヅルひとつ失って喚くのなんて領主だけだろ。冒険者をコキ使っていいメシ食ってるだけの豚に遠慮して、ダチを見放すのがアタシのやり方だと思ってんなら、テメーは本物のスカタンだな」

「許せ。小を捨て大を取る決断もするのが我々だ。貴様らがその選択をする可能性を無視しなかった。それだけだ」

 溜め息をつき、フルプレさんは兜を被る。

「ユーカを敵に回す気はない。小僧、貴様の提案を呑もう。……だが、我が騎士団はモンスター戦には慣れておらん。我々はここで女商人を守る。それと……」

「ローレンス王子」ではなく、「冒険者フルプレート」の姿と、声で。

「貴様が女商人の言うように、“邪神殺しの後継者”であるというなら……近いうちにそうなり得るというのなら。この程度のダンジョン、独力で殺してみせよ。吾輩ならユーカと組む前でも当然やれたぞ」

「オメーはただ誰にも組んでもらえなかっただけだろーが、不審な覆面脳筋野郎」

 ユーカさんのツッコミに苦笑いしそうになりつつ、僕はメガネを押し。

「いいですよ。用意はしてきましたから」

 虚魔導石の魔力貯蓄、よし。

 視界を確保するための光の魔術も使える。

 その乏しい光でも遠くまで見る……さらにモンスターをピックアップする「最適化された視野」にも、丸一日ここで過ごしたことで慣れてきた。

 今の僕なら、いける。

「さすがに一人じゃポカした時にやべーだろ。マード……は、さすがにズルすぎるにしても、ファーニィぐらい連れてくるか?」

「大丈夫。……一人で戦うのは、慣れてるよ」

 ユーカさんにそう言って、僕は荷物をまとめる。


 たった一人でダンジョン攻略。

 自分でも、まあまあ自信過剰な行動だとは思う。

 いくら低難度とはいえ、ダンジョンには無数の敵がいる。たった一人で数体どころか数十体に囲まれるのも珍しくないのだ。

 だから。

「実戦では初めてだけど……まあ、無茶のしどころだ」

 右手にはゼメカイトからの相棒である三属性ショートソード。

 左手には……普段は足に巻いている予備のナイフ。

 即席二刀流。

「パワーストライク」状態なら、ナイフでもあのロナルドの斬撃さえ受け止めることができる。それは実証済みだ。

 多方向からの敵を捌くにはどうしても手数がいる。右のショートソードは「オーバースラッシュ」で酷使することになるが、急な接近戦にもこれで対応する。

「メタルマッスル」と併用していけば、急に組み付かれても充分に立ち回っていけるはずだ。

 そして、虚魔導石には、僕が満タンから二十回底をつくまで戦い続けられるだけの魔力。

「これ使いきったら、またリノに何日も補充してもらわないとな……」

 まさか使い切ることはないと思いたいが、僕は一人だ。ミスでの浪費は常に有り得る。

 ……いや、「唯一の最善」に反するミスを恐れるのはやめよう。

 何もかも予定外。浪費はするもの。前提だ。

 それより怖いのは、最善を求めるあまりに自分に使えるカードを見失うこと。

 さっきの……いや、推定昨日になるか。

 ハーディの「インフェルノ」での戦いに、照明光の魔術を使い忘れたように。

 僕にできることは増えた。

 だからこそ、攻撃と防御にばかり気を取られ過ぎてはいけない。

 できることはなんでもやって、何がなんでも生き残り、目的を達成する。

 冒険者は、そんなルール無用な戦いぶりこそが強みだ。

 ユーカさんは常々そう言ってたじゃないか。

 ……自戒しながら歩みを進めれば、通路の奥からモンスターたちの影が(メガネの力で)ぼんやり光って見える。

「……来た来た、っと。それじゃあ」

 僕は乾いた唇を舐めつつ、二刀を構える。

 アテナさん直伝、風霊騎士団のかっこいい構え。

 そこから。

「『キリングダンス』!!」

 二刀を使い、構えを次々に繋ぎながら「オーバースラッシュ」と「パワーストライク」の混成連撃で迎え撃つ。

 オークの足がちぎれ、騎乗(ライダー)ゴブリンが乗っていたブレイズバッファローごと二つに割れ、巨大コウモリが雑に斜め斬りにされて血しぶきを上げる。

 そこからは、我ながら酷い虐殺の連続だった。

 人に見られてなくてよかった。……あ、ロゼッタさんは見えるんだっけ?

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