素材漁りのひと区切り
素材をそのエリアで採集して、持てるだけ持って。
「無属性と風属性以外は必要ないんだけど……」
判定した結果、他の属性の強いものもいろいろ採取しているハーディにそう言うと、彼は「おいおい」と肩をすくめる。
「買い取るんだったら代金だって必要だろ? 他の属性の素材はそれに当てるんだよ。せっかく質のいい物を放置する手はないじゃないか」
「ああ、そうか……確かに」
今までの蓄財でなんとかするつもりでいたが、そういう魂胆で半々に集めればさらに安く上がるし、目当て以外の品をみすみす放置しないから長距離探す必要も減り、無駄がない。
ちょくちょく高難度の依頼をやったりして稼ぐには稼いでいるけど、その分装備にもお金をかけることが多くなってきているので、完全に細かい出費に無頓着になるにはまだ早い。
「ハーディって本当に気が回るなあ」
「確かに。リリーみてーだ」
「それはお前やユーカさんが大雑把に押し通ってるだけだと思うけどな」
苦笑するハーディ。
ま、まあ確かに適当にやっててもいけてしまうので誰も細かいところに気を回さない、という節もある。
でも、知恵袋役を担うにはファーニィやリノは世間知らずだ。羨ましいと思うのは変わらない。
「実はハーディ君で保ってるのかもね、パーティ」
「か、からかわないでくれよルリちゃんまで。さすがにウチはマキシムが主役ってのは変わらないって」
……なんか、いい感じだな、あの二人。
「おい。……今回の臨時が終わるまでにあの二人デキちまうんじゃね?」
「面白がらないで。……ユーでもそういうの言うのか、って、そっちの方が驚きだよ」
「他人のそういうのが面白ぇってのはアタシだって思うよ」
こそこそと囁きつつ帰路につく。
……まあ、実際のところ、冒険者ってそういうの、進展早いからなー。
自分も相手もいつ死ぬかもしれない、という実感ゆえだろうか。
男も女も脈があるとなると踏み込みが早く、すぐにくっつく傾向がある。
でもこれでくっついたらどうなるんだ?
ハーディが引き抜かれちゃうんだろうか。ルリさんがマキシムパーティに行くんだろうか。
清算を終えてちゃんと報酬を渡す。
好意で手伝ってくれているとはいえ、無給というわけにはいかない。買い取りまで見越したハーディの気遣いに甘えつつも、充分な日当を心がける。
「俺もルリちゃんもほとんど見てただけだからなあ……」
「私なんて実質素材運びしかしてませんし。足手まといと言われても仕方ないかもって」
「とんでもない。ハーディはいいところで手を出してくれたし、ルリさんはいてくれるだけで余裕が違いましたから。素材取りのほうだって僕たちにとっては重要でしたし」
確かに戦わせることはなかったが、誰でもいいというわけではない。本当に冒険初心者の治癒師だと、激戦に怯んで前にも後ろにも歩けなくなることだってザラだ。
充分に慣れている二人だからこその安心感というのは確実にあった。
敵を後方に漏らさず戦い抜くのは前衛の責務で、今回はその責務を完璧に実行できただけだ。結果的に後衛が暇になったのは、何も悪いことはない。
ジャングルでのあわただしい戦いで、ちょっととはいえ負傷もあったから、治癒術そのものは使ってもらったしね。一度で済んだので実感はないかもしれないけど。
ちなみにユーカさんはさすがの体捌きで全然被弾なし。見た目の小ささとは裏腹に、やはり戦闘勘はズバ抜けている。
「まーまー、そういう反省はみんな終わってからにしようぜ。ひと潜り終わったら宴会だろ」
そのユーカさんは相変わらずの調子で、早く酒場に行きたくて仕方ないようなので、他の臨時班の様子も見たいことだし……と、いつもの酒場に行くことにする。
僕たちは三番目。
アテナ班とファーニィ班はとっくに戻っていたらしく、既にいい具合に盛り上がっていた。
「アイン君、無事に戻ったか」
「聞いてくださいよ私大活躍でしたよ! あとジェニファーも!」
冒険初心者とは思えない余裕でジョッキを掲げるアテナさん、そして勢い込んでアピールしてくるファーニィ。
どちらもこれといって負傷の跡はない。まあそれぞれ治癒師をつけているんだからいつまでもボロボロのはずはないけど。
いや、アテナ班の治癒師はマキシム班からついたブリッツのはずだし、治癒の腕は特段凄いわけではなかったから怪我してる可能性はあるといえばあるけど……まあ、肝心の壁役が他ならぬアテナさんとクロードだ。
どちらも元々防御力の高い装備をしているうえ、「メタルマッスル」も体得している。食らったとしても大した被害はないだろう。
「どうだった、クロード?」
「アテナさんが改めて強いということを見せつけられましたよ。スイフト団長と鎬を削るだけのことはあります」
「はっはっは、クロード君とてもはや見習いの風情じゃない。堂々とゴーレム相手に一騎打ち、皆にも見せたかった」
「アテナさんは何が来ても一刀両断でしたけどね……」
……初期のクロードのようなモタつきとは全く無縁。モンスター相手でも持ち前の度胸と剣技は冴え渡っているらしい。
いつもはだいたい僕が先に手を出してしまうので、彼女が目立って活躍することは少ないが、間違いなく騎士団長級の実力があるのは、毎日の稽古で僕も思い知っている。
「こっちの話も聞いてくださいって! 今日の私は魔術に弓に治癒術にと大活躍だったんですから! リノちゃんの後ろに乗せてもらって、ある時はファイヤーボール、ある時はウインドダンス、ある時は必殺ファーニィキック!」
「肉弾戦までしたの……?」
「してないわよ。ジェニファーが空気読んでファーニィの掛け声に合わせて後ろ回し蹴りキメてただけ」
「それはそれですごいな……」
人を二人乗っけたまま後ろ回し蹴りをキメるライオン。さすがサーカスにいただけのことはある。
「マキシムたちも置物ってわけじゃなかっただろ?」
「まあ、ちょっとは頑張ってたと認めなくもないです」
ファーニィはしぶしぶ認める。
しかしファーニィ的にはあまり愛想のないマキシムは好きではなさそうだ。まあマキシムもマキシムで頑固だしな。
「こっちの組み合わせは進展しそうにねえなー」
ユーカさんも最初の一杯に口をつけながら苦笑。
「進展って! そんなわけないでしょ! 私はアイン様一筋!」
「アインも全然そっけないけどなー」
「そっけあっていいんですよ!? 急に高まってもいいんですよ!?」
「…………」
「なんですかその顔は! この美少女の何が不満ですか!」
苦笑いしていると、マッチョモードのマード翁とイライザさんたちも入店。
「おー。ワシらが最後か」
「相変わらずオメー毎回ルーズだなー」
「別に時間決めとったわけでもないじゃろ。この子らにワシのかっちょいいところ存分に堪能させてきたってええじゃろ」
圧倒的筋肉の質量で巨漢となったマード翁と、小さなユーカさんが軽口を叩き合う光景は、いつ見てもちょっと不思議なアンバランス感だ。
でもユーカさんがゴリラだった時にはちょうどよかったんだろうな、見た目。
「……すごい人なのね、マードさんって」
「クリス君から聞いてなかったんです?」
「その本人だとわかったの、昨日だもの。……“邪神殺し”パーティってみんなこんなに人間離れしてたの?」
「みんなというわけでは……あ、いや、みんなかな……?」
イライザさんに問われてちょっと苦悩する。
マード翁は特別ビックリ人間だと思うけど、他のメンバーもまあ……負けない、のかな……?
一人ずつ思い返して、どう語るか悩んだ。




