正しい角度
ジャングルを切り裂いて素材を漁る。
本来なら斧や鋸、あるいは鎌でも欲しいところだが、そんなもの持ってきてなどいないので全部「オーバースラッシュ」頼り。
戦闘時には邪魔な障害物群でしかなかった木々やあるいはそれに匹敵する巨大植物、ついでに邪魔な岩なども、手当たり次第に切り倒し、根っこだけの痕跡にしてしまう。
「オーバースラッシュ」の攻撃力は高いが、さすがに巨木を二本三本とまとめて倒せるほどではない。それでも数を打つことで開拓範囲を広げ、見通しをよくし、危険因子を減らしていく。
こういう異界植物は時々、モンスターではないにしろ、厄介な動きをするものがある。まるでトラップのように冒険者を縛り上げたり、触れたものに突然思わぬ一撃を返してきたり、痺れる花粉をバラまいてきたり。
先に切り倒せばそういうものも無力化できる。いや、痺れ花粉なんかは本当にあったら危険だけど、直撃せず軽症ならば、治癒師であるルリさんが治療できるし。
「剣一本でどんどん更地になっていくな……本当にアインお前、ヤバいな」
ハーディがそのお手軽伐採風景に戦慄している。
「これが一芸だからね」
「さっきの戦いも先にこうして均しちまったらよかったんじゃないか?」
「ちょっとした平地を作るのに何発もかかる。安心して戦えるフィールドを作るには時間がかかるよ」
モンスターたちは悪い足場もホームグラウンドだ。僕たちがモタつく間に軽快に踏み越えて突進してきた。
見通しをよくするのと並行して攻撃していたら、それこそ討ち漏らしていただろうし、焦ってユーカさんまで斬っていたかもしれない。
「お前、もっと威力上げられんじゃねーの? このぐらいの樹なんてズバババーンとまとめてさ」
ユーカさんはそう言うが、「オーバースラッシュ」の攻撃力は今のところ、これで頭打ちだ。
武器へのチャージ6割で撃つのが最適解であり、それで殺傷力としては十二分。ソフトターゲットなら大型モンスターでも真っ二つ、ハードターゲットでも全く通じないということはない。
しかし。
「体のキレをもっと追求すれば、理屈の上では一発の威力は上がる……のかなあ」
魔力の加速と集中を素の魔力操作で行うのではなく、体の動きで補助するのが戦士の魔力剣技……魔術師風に言えば原始魔術の極意だ。
肉体強度が高ければ威力はさらに高まるはず。もちろん今の威力も小手先で連射ができることを考えれば充分なものではあるが、今後ハードターゲットに決めきれないという場面はありえなくもない。
……と、あの水竜を念頭にして考える。
あれには僕の「オーバースラッシュ」は、表面的にしか効いていなかった。
ユーカさんの“邪神殺し”の理不尽攻撃力で沈めたが、僕があそこでもっと高い攻撃力を出せれば、ユーカさんは死にかけるほどに自らを酷使しなくて済んだはずだ。
「ちょっと練習してみようかな」
いつもは追求しようにも、ターゲットが先になくなってしまう。
が、ここはダンジョンだ。
いくら破壊の限りを尽くしても、核がある限りは一定期間で元通りになってしまう。つまり何でも壊し放題、練習台には最適だ。
構えて、力を込めて……斬る!
もっと速く! もっと鋭く!
と、ちょっと気合を入れてみたが……思うほど劇的に威力が変わっている様子はない。
「あれー……?」
「構えは様になってはいるんだがなー」
「ユーはもっと強いの撃てたの?」
「ゴリラの頃はもうちょいゴツいの出せたと思うんだけどなー。まあ測る基準もないから感覚でしかねーんだが」
「でもユーの感覚って馬鹿にはならないからね」
実際、彼女は「なんかできそう」というセンスに任せて数々の必殺技を即興で編み出し、使いこなしてきたのだ。
もっといけるはずだというなら、それは全くの当てずっぽうではないはず。
「んー……」
何度か構えを変えて試してみて……ある瞬間に、ふと気づく。
これ、右手で振る……つまり、左脇から溜めて振り抜く動作は、右回り。
ユーカさんの理論で言うと体を締める、防御型の魔力回転方向だ。
うん。待てよ。
それが正しいなら、より攻撃的に……パワフルに剣を振り抜くのであれば、逆回しの方が強いはず。
となると左手で……右に溜めた構えから振るうのがいいのか?
いや、さすがに利き腕じゃない方で撃つのは魔力の回転特性を足しても悪影響が強い気がする。
じゃあどうする? 右手で、こう、左回りの打ち方……?
無理というほどじゃないんだけど、鋭さを追求するにはちょっと窮屈なような。
いや、ショートソードだからって片手にこだわらず。両手で持って、こう……うん。
「こう? いや、こう……?」
「何にこだわってんだお前」
「いや、振り方向をこっちにしたいんだけどうまく力の入る振り方にならなくて」
「あー……あー、なるほどなるほど。旋風投げの回転か」
「そうそう」
「確かに螺旋回転としては右上から袈裟斬りってのはちょっとロスだよなー。でも左利きじゃねーなら右下から切り上げもやりづらい……いっそ逆手で持つってのは?」
「なんかそれも力入れづらそうだし」
僕とユーカさんが技の検討をしているのを不思議そうに見つつ、ハーディとルリさんはバラバラとその辺に散らばった植物から繊維素材採取に勤しむ。
「ハーディ君、あれ、わかる?」
「うーん……なんか独自理論、なのかなあ……?」
肉体回転と魔力の関係に関しては魔術師も熟知していないらしい。
やっぱりユーカさんが不勉強というより、行使に肉体を使う原始魔術はあまり普通の魔術師としては研究対象ではないせいか。
おかげで正解がわからなくて試行錯誤が楽しくはあるんだけど。
が。
「……とぁっ!!」
構え方を工夫し、踏み込みにもアドバイスを貰い。
極めて限定的な角度から撃つ「オーバースラッシュ」は、確かに威力が上がることを確認。
巨木も巨岩も、いくつもまとめて叩き斬れる威力になる。
「……新しい技だな。また名前つけるか?」
「……えーと……『バスタースラッシュ』で」
「いいねえ。強そうだな!」
とはいえ、「虚魔導石」の貯蔵魔力を3割近く使ってしまった。
何日もかけて貯めたのに練習でこんな調子は、ちょっと使いすぎかもしれない。
いや、無駄ではない。有意義な使い方だと思おう。




