臨時パーティな雰囲気
翌日。
僕たちはそれぞれのダンジョンを割り当てられ、出発する。
「素材はできる限り無属性か風属性の繊維系。鉱石系もひと手間かければ使えるけどあくまでセカンドチョイス。くれぐれも無理なアタックはしないように」
「はっはっは。まあ、私としては加減がわからん。クロード君にその判断は任せよう」
「デルトールならアテナさんで無理ということはないと思いますけどね」
「私らは安定感重視で行くんで収量にはあんまり期待しないでくださーい」
「ファーニィ、アンタ素材の目利き得意でしょ? ジェニファーの腰袋に持てるだけ持たせればそんなに深入りしなくても量は確保できるじゃない」
「先輩をつけたまえ後輩! ファーニィちゃんでもいいけど呼び捨ては不敬!」
「ワシらは単純に持てる量がちと怪しいが。まあ、それなりで頑張ってくるぞい」
戦闘能力に不安はない。
アテナさんとクロードのペアにも治癒師がついているし、先日の「メタルマッスル」の修業で戦線維持能力は両者ともに格段に上がっている。
ファーニィ・リノ組は、ジェニファーがいざとなれば一人二人運べるので押し引きに融通が利くし、何より前衛にマキシムがいる。クロード相手には直接の剣技で劣るかもしれないが、冒険者としての安定した実力は信頼がおける。
ファーニィの治癒術もいよいよ高性能化していることだし、部隊としての信頼感は一番高いかもしれない。
そしてマード翁とイライザさんを含む三人組は……まあマード翁がいるから何の心配もないな。
彼だけでもあの巨大サーペントやライトゴーレムだらけの遺跡で悠々と野生化していたくらいだし、連れていく女性冒険者二人も「お抱え」として活動していたくらいなので充分に立ち回れる実力があるはず。マード翁と一緒なら、万一深手を負っても死んでなければ何も問題ないし。
そして、僕らと一緒に行くマキシム組のハーディ、イライザ組のルリさん。
ルリさんは治癒師なので、いるだけでも嬉しい。ハーディはマキシムパーティのダメージ源だ。
僕とユーカさんの補完としては必要充分といえるだろう。
「アイン、魔力の貯蔵量は足りてるか?」
「ダンジョン食い尽くそうってんでない限りはまず大丈夫」
鎧の上から虚魔導石を確かめる。
夜ごとにリノに継ぎ足してもらって、貯蔵量は僕本人の魔力の数十倍。これ以上は込めても無駄、というところまで足してある。
そもそも前回のデルトール遠征でも、素の魔力量で困るほど欠乏することはあまりなかったし。深追いを避け、アーバインさんという頼もしすぎる補助要員もいたとはいえ、それほど魔力を乱用する機会はないだろう。
これが活きるとしたら、「ゴーストエッジ」を乱用してでも戦わなければいけない超大物相手の真っ向勝負かな。そんな機会はここではないと思うけど。
僕は二日酔いが心配だったので、昨夜あった「親睦会」と称した酒盛りは、最初の二杯を空けた段階でおいとましてしまった。
が、ユーカさんとハーディ、ルリさんの三人は酔いが残った様子もなく、確実に距離を縮めている。
「そんなに呑まずに済ませたの?」
「いや? しこたま呑んだけど、ルリが悪酔いを抑える術を最後にかけてくれたんだ」
「そういうのあるんだ」
「なんか治癒師的には基本らしいぞ。……まー冒険者ってすぐ暴飲暴食すっからなー」
ゼメカイトでは暴飲暴食の権化であった人が言うと、そうだね、と曖昧に頷かざるを得ない。
今もよく呑みよく食べるけど、ゴリラユーカさんは本当にテーブル占拠する量食べてたもんな。それに比べれば今はかわいいものだ。
……本当、今も結構食べてるけど太った様子ないよなー。やっぱり運動量だろうか。
ジェニファーによく乗ってるイメージだけど、それ以外にも隠れて特訓とかしてるな、これは。
「アイン、俺たちばっかりチラチラ見てないで集中してくれ。マードさんみたいな凄すぎる治癒術はルリちゃんには無茶ぶりだからな」
ハーディに言われて肩をすくめる。一応、索敵の手を抜いているつもりはない。
……ルリちゃん、か。本当に距離縮めてるなあ。
ハーディが作る魔術照明を頼り、ダンジョンを進む。
メガネを改良してもらった甲斐あり、闇での視野が随分よくなったこともあって、最初のラッシュは「オーバースラッシュ」数発で難なく殲滅。
続いて寄ってくるモンスターも、特に問題なく捌く。
「『パワーストライク』での戦い方も板についてきたな、アイン」
「まあ、毎日アテナさんに稽古つけてもらってるからね」
リーチやスピードがあまり際立っていないモンスターにまで、いちいち「オーバースラッシュ」を飛ばすのは無駄が多い。
「パワーストライク」でもクリーンヒットなら一撃なのだ。それでいて魔力消費は格段に低く済む。
侵入最初のラッシュは大振りで薙ぎ払う必要があったが、ポツポツ来る奴相手には風霊騎士団のかっこいい構え+「パワーストライク」で軽快に処理していく。
アテナさんの教え通り、優れた構えからの正しいフォームでの攻撃は、相手の動きをある程度絞り、なおかつ自分の攻撃が100%の力で伝わるので、「オーバースラッシュ」のリーチに頼らずに済み、デタラメな戦いに比べて効率がとてもいい。
何より、立派な構えは気持ちをどっしり安定させる効果がある。
この構えなら決して相手に打ち負けない、という確かな自信が、モンスターの攻撃をよく見る余裕を生む。
よくわかってなかった時は「打つ時はともかく、待ち受ける時のポーズなんてそんなに違うものなのか」と思っていたが、激突時にほんのわずかでも相手より体勢がよく、なおかつ相手の動きが予想の範囲に入る……というのは、一瞬を奪い合う世界では強い意味があるのだ。
傍で見ているとちょっと馬鹿っぽいアテナさんだが、その実力で「戦女神」などと呼ばれるだけのことはある。
「……敵が見えたと思ったら死んでるから、俺がやる暇ほとんどないな」
「楽でいいだろ?」
「そうだけど。……お前、本当にゴブリンに殺されかけてたあのアインだよな?」
「その確認何度もいるかなあ」
「半笑いで準ワイバーン級の敵をそんなザクザク殺してるの見ると、やっぱり疑いたくなるよ」
「いや、そんな強いっけこいつら」
ハイオークやストーンゴーレムを足→頭の順に叩き斬りながら、そもそも半笑いなのはそんなバトルジャンキーみたいな理由じゃなくて談笑してるからだよ、と言おうとして。
まず敵を処理しながら談笑するのがおかしいんだな、と今更気づく。
「……あんまり戦闘中に喋るのやめよう」
「は? 何だ急に。この程度の数で」
ユーカさんがナイフを振るいながら変な顔をした。
「僕が『鬼畜メガネ』とか言われる理由に今やっと思い当たった。普通必死になるとこでお喋りするせいだ。うん、やめよう」
「それ今気にすんの? 今やめたって遅くねえ?」
「努力したいんだよ……」
「あと黙ってやっても鬼畜っぽさはあると思うぞ」
「どうしたらいいんだ」
悩みながらも突進してきた牛型のモンスターを連続で縦真っ二つにする。
「……今回、私いります?」
ルリさんもハーディと顔を見合わせて困惑した顔をしていた。




