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分割パーティ

 デルトールでは酒場に仕事を取りに来ても仕方がない、というのをド忘れしていた。

「……ここでは仕事の手続きは公営の斡旋所だったね」

「なんだよ、景気づけに来たのかと思っちゃったぞ」

 ユーカさんに肘でつつかれて愛想笑い。

 と、その僕たちを見つけてマキシムたちのパーティが声をかけてきた。

「アイン。潜るのか」

「ちょっと素材が入り用になってね」

「素材?」

「ああ。新しい魔導具が必要になったんだ。結構大物になるし、せっかくデルトールだからね。素材から作る方がいいって流れになって」

 それを聞いたハーディが、マキシムを押しのけて。

「なら俺たちにも協力させてくれ」

「えっ……あ、あー」

 申し出はありがたいんだけど、戦力が落ちてる彼らはどうしたものか。

 万全の状態なら安定してダンジョンを回れただろうけど、今の彼らは6人が4人に減っている。単純計算でも戦力は2/3、実情としては半減といったところだろう。

 かろうじて治癒師、魔術師といった基幹要員は失っていないものの、もともと6人で回っていた集団から2人抜けるというのは重く、少しのミスで切羽詰まるのは想像に難くない。

 そんな彼らに下手に頼って、そのせいで犠牲が出た、なんてことになったら申し訳ない。

 返事に少しの間窮し、仲間と視線を交わしていると、さらに近くのテーブルから、クリス君に取り残された元「お抱え」の女性冒険者たちも首を突っ込んできた。

「私らも噛ませてよ。今大きい魔導具作るってことは、アレ絡みなんでしょ」

「イライザさん」

「メルのいない私らじゃガツガツ突っ込むのは辛いけど、荷物持ちならできるわ。手は多い方がいいでしょ?」

 こちらは随分と控えめな提案だ。そういうのも嬉しいと言えば嬉しいけれど。

「ヒヒヒ、せっかくじゃ。臨時編成せんか、アイン君」

 マード翁が提案してくる。


 一回、あるいは数回程度の仕事のために組む「臨時パーティ」。

 固定メンバーのいるパーティでも、仕事の規模によっては追加人員を必要とする場合もあるし、後詰冒険隊(サポートパーティ)も多くの場合はその場で手を集める。

 僕らのパーティはデルトールのダンジョンには少々能力過剰気味だ。僕やアテナさんの攻撃性能が普通より高いのは言うまでもないが、さらにジェニファーの戦闘力&移動力、マード翁の超治癒技術とマッチョモードのパワーは、一つにまとめておくには大きすぎる。

 無論、状況によってはファーニィやクロード、ユーカさんだって頼もしい。

「アイン君やアテナちゃんはワシやファーニィちゃんがつかなくてもそうそう落ちんじゃろ。かといって一人で行っては素材漁りも捗らん。……ワシとファーニィちゃんも、治癒する相手がおる方が腐らん。そこを考えてパーティを組み直すと、まあ四つは班分けできるな。そこにマキシム君やらイライザちゃんやら、人材を当てていくと……」

 僕らのパーティは七人。マキシムパーティとイライザさんたちはそれぞれ四人ずつ。計15人。

 前衛後衛、それぞれ足りないところに再配分すると、四人パーティが三つ、三人パーティひとつ。

 三人のところに前衛と治癒師兼業のマード翁を回せば、不安はまずない、か。

 僕のところにはユーカさん、アテナさんのところにはクロード。ファーニィにはリノ&ジェニファーをつけて、足りない部分を他のパーティから借りて編成。

「悪くねーな。これでも楽勝過ぎって気もするけどよ」

「今回は素材漁りがメインなんだからバトルを楽しみにはしないで」

「楽しみにしてんのはバトルじゃねーよ。お前の成長だ」

 ユーカさんはニヤニヤと僕を見上げ、ドンと裏拳で僕の胸を叩く。

 ドラゴンミスリルアーマーがあるから痛くはないけど、そこは叩くのやめて欲しい。虚魔導石があるから。

「俺は手も足も戻りたてだが……馴らし(・・・)には悪くないな」

 マキシムはファーニィ班。マード翁のところには女性冒険者を二人回したので、マキシム組の前衛はそこしか行き場がない。

 僕のところにはハーディ、それとイライザ組の治癒師のルリさん。

「この組み合わせで斡旋所に登録。仕事は明日からだね」

 ここでは手続きの問題で即日は潜れない。ダンジョン外の冒険依頼ならすぐ出られるのもあるけど、金稼ぎというわけでもないのでそれは除外。

「んじゃ、斡旋所行ったらそれぞれ親睦会だ! 呑もーぜ!」

 ユーカさんが盛り上げ、それぞれのパーティの酒好きの面々がおーっと盛り上がる。

 お酒はほどほどにね。二日酔いで潜るのは危険だから。


「四人か。さっきの連中もそうだったが、そんな人数で大丈夫かね?」

「ここには慣れてますよ」

「そうかね。まあ、君らが無茶したり他の冒険者とトラブル起こしても、助けるのは難しいからね。今は助けに行ける『お抱え』が不足しとるんでね」

 この係官、僕たちがここでやってた時にも何度か顔を合わせたんだけど、もう忘れてるのかなあ。

 ……忘れてそうだな。何年も入れ替わりの激しい冒険者の相手してたらいちいち覚えなくもなるか。

「不足とか言わなきゃいいのにな。俺たちが悪い冒険者だったらどうするんだ?」

 ハーディが肩をすくめる。

 確かに、何か悪いことをしようと企んでたら「今が狙い目」と言っているようなものだ。

「なんも考えてねーんだろ。アタシらはお上の連中にとっちゃいくらでも湧いてくる日雇いの労働力でしかねーんだし」

 ユーカさんの投げた答えに、この中で唯一ほとんど面識のないルリさんは苦笑。

「そうかも。……それにしても、あの“邪神殺し”とご一緒できるなんて思ってなかったです」

「おー、よろしくな、嬢ちゃん」

「……うふふ、嬢ちゃんって」

「なんだよ。アタシこれでも本当はお前よかずっとデケーんだぞ」

「私、もう26ですよ」

「マジで!? 10代じゃねーの!?」

 ……最年長だった。

 いや、僕も年下だと思ってた。17、18くらいかなーと。

 あ、でもさっきの酒場で普通に呑んでたな……うん? この国では17でも呑めたんだっけ?

 こんがらがってきた。

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