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 僕らが素人ながらに作った小屋は二つ。

 女子とジェニファーはひとつ屋根でいいとして、僕たち男子組まで一緒というのは厚かましいと思ったのだ。

 いや、ユーカさんは「どうせ野営の補強なんだから別にいいだろそんなん」と、いつものように雑に流す気満々だったし、アテナさんもファーニィもそのつもりだったみたいだが、ベッドを買い付ける算段の段階でクロードが「そういうのはよくないです」と言い張ったのだった。

「パーティなんて家族みたいなもんじゃろ? あんまり細かく線を引くのもどうかと思うんじゃ」

「私の家は家族同士でも互いのプライベートは尊重していましたよ」

「……お貴族様ってそうじゃったのう」

 クロードの家はそういう距離感だったらしい。庶民と違って家に場所も人手もたっぷりあるおかげか。

 誰か、と呼びかければその辺から使用人が出てくるような家なのだろう。感覚も違って当然か。

「でももう一棟かあ」

「大丈夫です。私にはコレがありますから」

 クロードは「剛把の腕輪」をパチンと平手で叩いてみせる。

 握力だけ上がっても大工仕事にそんなに関わるのかな? ……と思うが、実際クロードは意外なほど適性が高かったので何も言えない。

 まあ実際、重たい建材の取り回しにはリノの「重量物浮遊」を併用すれば、何トンもある物だって持ち上がる。普通に大工がやるよりもかなり楽に仕事ができているのは間違いない。

 出来上がるのは納屋みたいな必要最低限の小屋だけど。

「どうせお宿の本体ができたらこっちはバラすんじゃろうし、そんなに頑張らんでもええと思うんじゃがのう」

「マード先生は単に女の子の無防備な姿見たいだけでしょーが」

「そんなに必死こいて隠すような間柄でもないと思うんじゃよね! だいたいユーカもアテナちゃんも全く気にしとらんじゃろ!」

「今さらマードに隠すもんなんてなぁ」

「はっはっはっ。私には見られて困るようなものはない」

 一応美少女&美女なのだけど、それぞれ感性が変な方に擦り切れている二人。

 でも、そうでないファーニィやリノがそれに付き合わされるのは、確かにちょっと不憫。

「頑張りましょう、アインさん、マードさん」

「ガウ」

 張り切るクロード。手伝う気を見せるジェニファーも相変わらずかしこい。

 ……まあ既に一棟作ったことだし、と諦めて、僕とマードさんも頑張り、二棟目もすぐに完成したのだった。


 あんまり細かく間取りを作るほど広い小屋にもできなかったし、床なんて最低限泥にぬかるまないようにすのこ(・・・)を置いただけ。真ん中には火を焚けるスペース。

 そこにデルトールの街で作られた出来合いの寝台を運び込んで、一応は地べたで寝るよりだいぶマシにはなった。

 壁も立てたが隙間だらけ。まあ火を焚くと空気が悪くなるからそれでいいのだけど、いかにもオンボロ小屋という感じでやっぱりちょっと物悲しくはある。

 しかし、とにもかくにも体裁は整った……と喜んだ矢先。

「例のアイツの目撃情報よぉ」

 シルベーヌさんが新しい情報を持ってきてしまう。

「あー……どこです?」

 せっかく拠点が出来上がったのに、と文句を言うのも筋違い。

 とはいえ、残念さが滲む口調になってしまうのは仕方ないだろう。

 シルベーヌさんはどこかから届いた手紙を開いてみせる。

「思った通り、国内のイスヘレス派の拠点がいくつか襲撃されてるわねぇ。とはいえ、合成師を抹殺することにはあまり固執してないらしくて……おかげでこうして情報が来るのだけど」

ヒューベル王国内(このくにのなか)だけなんですか?」

「もしかしたら他の国も荒らしてるのかもしれないけれど、よその話は回ってきづらいのよねぇ、どうしても。あと合成師の拠点なんて大抵ひっそりしたところにあるし、壊滅しても近隣に知れ渡ることはほとんどないから……人知れず潰れてるパターンもあると思うわぁ」

「な、なるほど……」

 まあ、隣の家でおぞましい魔獣が作られている……という状況で、平然と生活できる庶民はあまりいないだろう。

 理解を得るのも難しいし、そういう研究活動はあまり人目につかない場所でやっていると思う。

 となれば、仮にやられても周りに伝わらない……というのも多いと見るべきか。しかも没交渉な他国となれば情報もなおさら回りづらい。

「奴の目的はなんだ?」

 ユーカさんは鋭い目でシルベーヌさんに問う。

 シルベーヌさんは首を振り。

「確かなことは言えないわぁ。ただ……トップダウンのサンデルコーナーと違って、私たちはゆるく繋がってるだけの互助会みたいなものだから……互いにキモになる技術を隠している部分も、当然あるのよねぇ。それを推測したり探り合ったりしていたのを『アイツ』が何かの形で掴んだんじゃないかと思うのよねぇ」

「……狙いはイスヘレスの秘法、ってわけか」

「さあ、どうかしらねぇ。その可能性もあるし、ただ同病相憐れむ仲間探し……かもしれないわぁ」

「……合成魔獣(キメラ)だもんな。同族もいないし、一党組むなら合成魔獣(キメラ)同士しかないのか」

 デタラメな戦闘力と、不可解な行動原理。

 喋れるほどの知能の持ち主なら、もしかしたらもっと高度な理由があるかもしれない。

「肝心の居場所だけれど、一番最近と思われるのは北部のシャムリアかしらねぇ。……その辺を縄張りにしている騎士団がひとつ全滅したって噂が別口で流れてきてるから、それもおそらくアイツだと思うわぁ」

「……クリスたちがいるとすれば、そっちか」

「できれば僕らも素早く移動したいね」

 アーバインさんは単独ならパーティ行動の三倍の速度で山野を移動する、らしい。

 リリエイラさんと空を飛んだというクリス君も、それについていけないということはないだろう。

 僕らは彼らに追いつけるだろうか。

 ……シルベーヌさんは僕らを目を細めて見つめ、溜め息をつき。

「ひとつ、高速移動できる案があるわぁ」

「?」

「『空飛ぶ絨毯』」

 そう言って、僕らがきょとんとするのを眺めて、妖艶に微笑み。

「ただの重量物浮遊の魔導具……だけど、推進力を別途に用意すれば、早馬以上の速度で動ける。……私の持っていたのは宿と一緒に燃えちゃったけど、いい素材さえあれば、全員載せてもリノちゃんの魔力で余裕で丸一日動く奴も作れるわぁ」

「肝心の推進力は?」

「ジェニファーちゃんが牽引すれば、徒歩よりはだいぶ早く動けると思うわよぉ」

 ……な、なるほど。

 それならアーバインさん同様、普通の三倍の移動速度は出せるかもしれない。

「そして、魔導具素材なら事欠かないのがこのデルトール。でしょう♥」

「確かに。とはいえ、胴元(おかみ)から全部買うってのは現実的じゃねーな」

 当たり前の話だが、冒険者が掘り出してきた素材は一度買い上げられた後、もっと高額がつけられて売られていく。

 僕らがいくら前回調子よく稼いだとはいえ、思いのままにそれを買い集めるというのは厳しい。

 ユーカさんの資産に頼る……というのは、ロゼッタさんと連絡が取れない以上、ちょっと難しいし。

 となれば。

「……手分けしてダンジョンアタック、かな」

 今の僕らが全員まとまっては非効率だ。

 二つか三つにパーティを分けて、素材集め。

 しかるのちに有望素材を査定の段で原価で引き取る(一度は提出しないと法に触れるし)。

 ……というのがプランになるか。

 期間はできるだけ早く。現状の最新情報である北部シャムリアを目指すなら、三日か四日以上はかけられないだろう。

「へへっ。面白くなってきたな!」

 ユーカさんはパシッと拳を掌にぶつけて意気込む。

 みんなも頷いた。

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