魔導石の所持法
おさらい。
・魔力の回復法は限られている。寝る以外は基本的には難しい。
・でも僕は魔力がすぐ切れる。それを改善したい。
・改善法は主に三つ。僕の魔力容量自体を底上げするか、使用効率を上げる(使ったそばから回収する)か、あるいは他の物に魔力を貯めておいて、随時吸い上げて使うか。
・魔力を意識的に上げるのはかなり厳しい。基本的には持って生まれたものがすべて。
・「フォースアブソーブ」効果を持つ回収用魔導具は有望だが、魔力剣技を妨げる恐れがあるため、運用に注意が必要。
・外部貯蓄には僕の「物に込めた魔力は簡単に吸い上げられる」という謎特技を活用し、通常はただ魔力を無駄に吸うだけの失敗魔導具である「虚魔導石」を保管庫にすることができそう。
・いい材料が揃ったのでリノが作ってみた。
……。
「まあ正直、そんな上手くいくもんかなーと思ってたけど」
ユーカさんは現在の進捗を聞いて唸る。
マード翁も頷く。
「似たようなことをしておる魔術師は昔見たことあるが、魔力吸うのにいちいちあれでもないこれでもないと忙しそうじゃったのう」
「あー、普通は魔力の回収にいちいち魔術使わないといけないから……」
「それは魔導具で簡略化しとったんじゃが、いくつも魔導石持っとるとどれが使用済みなのか混乱しがちなようでな。魔術乱発したい場面はたいてい鉄火場じゃし、やっぱりそのひと手間がネックじゃったのう」
「うーん……まあアインの決定力はその手間かけるだけのもんはあるけどなあ」
そういえばユーカさんもだいぶ魔力技使う方だったっぽいけど、現役時代はどうしてたんだろう……って、そうか、もともとゴリラマッスルだから、雑魚相手には「オーバースラッシュ」使う必要すらないんだった。
まさに鎧袖一触でほとんどのモンスターは薙ぎ払えてしまう。ここぞの時以外で魔力を消費する理由がない。
今は魔力の扱い自体がだいぶ遅くなってるっぽいからよくわからないけど、魔力切れ起こした様子もないし、元々魔力は高い方なのかもしれないな。魔術師の家系だし。
そして、アテナさんとクロードはその話を聞いて。
「アイン君も吸収の魔術を使う必要はないとはいえ、いちいち魔導石を取り出す手間は省きたいところか」
「落とす可能性もありますよね。悪用や危険は考えづらいですが」
……うん。まあ、とりあえずは貯蓄して使える量が劇的に増えるというだけでも僕的にはすごい進歩なのだけど、一歩先にある問題ではある。
虚魔導石。ひとつだけでも頼れるが、ひとつでなければいけないということもない。
かといってあまり嵩張るのは困るし、いくつも分散するのも使い辛い。
「まずはペンダントか何かにしてもらう、っていうのが僕のイメージだったんだけど」
「取り出すのに手間かかる奴じゃな」
「あるいは肝心な時に紐が切れる奴」
マード翁とユーカさんが意地悪なことを言う。
いや、まあ、それでピンチになる自分は容易に想像できるのだけど。
「でも、腕輪とかにしちゃうのはちょっと……他の魔導具も使える枠にしておきたいし」
魔導具を同一部位にいくつも着けるのはご法度だ。魔力を込め間違える恐れがある。
特に虚魔導石は僕本来の魔力を容易に吸い尽くす容量を持っているので、慌てて魔力を込めたら意識を失う間抜けなオチになる可能性がある。
じゃあどうするのか、というと……うーん。
「鎧に直付け……も、転んだ拍子に破損なんてことになりそうですよねぇ」
ファーニィの想像もすごくありそうに思える。
売ったら家が建つ魔導石を、そんな形で簡単に失うのはちょっと困る。
それに緊急補充が必要になるシーンはやはり鉄火場。無傷でいられる前提も難しいよな。
となるとやっぱり鎧の内側……でも、鎧の上から手を当てて、そこにアクセスするのは難しいし。
手を当てずに身体からモヤモヤッと直接操作して……っていうのも、まあクリス君みたいな手練れならできるんだろうけど、僕にはちょっと難しい。
意外と難題になってきたぞ。
と、みんなで唸っていると、リノがぼそっと。
「……体に埋め込んじゃったらよくない?」
と、怖いことを言い出した。
で、それを聞いたマード翁。
「その手があったのう……」
「えっ、それ採用しちゃうんです?」
「ワシとしてはオススメじゃぞい。ロゼッタちゃんのデコの目みたいに、自分の肉体として馴染ませれば、手を使わずに起動するのも少しの練習でできるからの」
「あー……」
そうか、マード翁としてはその実績があるか。
「昔は魔導具埋め込み手術しとる冒険者多かったんじゃがのう。最近はあんま見んよなー」
「下手な奴が埋め込むと周囲から腐るんで怖いし、冒険者としてグレード上がると無用の長物になる可能性もあるしなー」
「ワシなら腐る心配はないじゃろ」
「マードがいれば除去すんのも自由自在ではあるけどな」
うーん……そうか……。
そう言われると、確かに埋め込みって手は悪くないか……。
体の一部にしてしまえば、落とす心配も迷う心配もない。手に取らなくていいのなら、吸ってみて吸えない奴は諦めればいいのだから。指を動かしてみる手間と変わらないはずだ。
「じゃあ、それにしますか。マードさんお願いします」
「いやアイン様、決断早くないですか!?」
「マードさんがいればいつでも外せるっていうなら、躊躇う理由はないし」
「体に石埋めるんですよ!?」
「頭に他人の目玉埋めてる人と面識あるしな……」
さすがにファーニィは強く制止してくる。というかそれが普通の反応かもしれない。
アテナさんとクロードもどちらかというと引き気味。
一方でユーカさんとマード翁、それにリノはそんなに抵抗なさげ。まあユーカさんはしょっちゅうマード翁に肉体再生してもらってたし、リノは元からスプラッタに抵抗ないわけだしな。
「どこに入れるかのう。まあ後から取ることもできるし、手始めは手の甲かそのへんにでも」
「胸で」
「……そこに石埋めるのはちと怖くないんかの?」
「鎧で守れる場所じゃないと。それに腕はさっき言った通り空けておきたいですし」
胸にそんなの入れたら、一撃受けた時にだいぶ酷いことになりそうではあるが、まあ死ぬときは死ぬ。
胸に石が割れるほどの攻撃が刺さったらどっちにしろ手遅れだろう。
それにドラゴンミスリルアーマーの強度は信用に値する。差し引きで言えば確実にプラスの位置だ。
というわけで。
それから数分後、まるで皮膚病治療みたいなノリで、マード翁は僕にその場で虚魔導石を埋め込んだ。
本当に数秒で、皮膚からニュッと板状の虚魔導石が顔をのぞかせる状態になった。
「左胸とは度胸があるのうマジで」
「死ぬときは死にますから」
……これが僕の命を文字通り繋ぐことになると思えば、悪いものでもない。
「アイン様、さすがに今回はドン引きですよ……」
ファーニィはすごい顔をしていた。
そこまでビビらなくても。




