両パーティの戦術
リノのステッキ越しに魔力補給を受ける。
「大丈夫? 結構貰っちゃってるけど」
「時間はかかっちゃってるけど消耗自体はそれほどでもない感じ。やっぱりリーダーは魔力容積結構小さいわね」
「…………」
魔力をしっかり減らしてこれを試したことはまだなかったので、随分吸い上げていることにちょっと罪悪感を感じていたのだけど、リノは平然としていた。
攻撃魔術が不得意なことを除けば、彼女はしっかりと「魔術師」のようだ。
「“鬼畜メガネ”、今みたいな大暴れはあと何回できる、と考えればいいんだ?」
「いや、本当その名前で呼ぶのは勘弁してください。……今みたいにまとめてくれたあとに片づけるなら三回か四回、もっとバラけた状態だったり一撃で死なない奴が混ざってるともう少し減りますね」
打ち方に工夫を重ねてある程度は改善しているが、「オーバースプラッシュ」は相変わらず重い。
そして実戦初運用のリノ補給を、あまり何度もアテにすることもできない。とりあえずは回復分を差し引いた普段の限界を申告する。
「ダンジョンアタックはデルトールで何度もやりましたが、魔力に限界が来ないうちにさっさと引いていたので、正直僕のパーティは長期戦向きではないです。……が、攻撃力的にはご覧の通りなんで、敵のラッシュに僕を当てるか、親玉戦に当てるかはそっちにお任せします」
「なるほどね。……うん、切り札には充分過ぎる」
エラシオは頷いた。
一方で、マード翁とファーニィは当初の予定通り、回復要員として働いている。
エラシオはほとんど無傷だったが、その援護をしていたトーレス・マルチナ・ドドンパさんの三人は少なからず負傷がある。向こうの治癒師であるキュリオ嬢は「多重発動」をもちろん習得していなかったので全員診るには時間がかかり、彼女がドドンパさんを診ている間に残り二人をこっちの師弟コンビでちゃちゃっと処理した。
「はい、おしまーい」
「ほほ。ワシらがいるからには死ななきゃセーフじゃぞい」
「一瞬で……なんだよ、治癒師まで化け物なのかそっちは?」
「骨イッたかと思ったのに、こんなに簡単に……」
負傷個所をさすったり眺めたりしているトーレスとマルチナ。
マード翁はまあ当然として、ファーニィの凄いところはその高速治癒術を使いこなしつつ、攻撃面でも複数の手段があるあたりが「化け物」だと思うのだけど……それを語って聞かせるのは本人の役目だろう。
そして僕以外の前衛組も決して不足ではない。アテナさんもクロードもいざとなれば頼りになるし、ジェニファーも今のところ出番はないが立派な戦力だ。
……やっぱり僕たちのパーティ、なかなかだよね?
と、ちょっとだけ内心で得意になる。
まあそれはそれとして、アルベルトとエラシオは僕の運用について真剣に話し合っていた。
「俺は親玉まで温存、そこまでに相当なピンチがあったら……ってことでいいと思う」
「切れるカードはチャンスごとに切っておく方がいいと思うがね。それに肝心のところをよそに任せるつもりってのもどうなんだ?」
「ウチの連中だって治癒師三人体制なら充分働けるだろう。それに親玉も俺たちが斬り合える相手ならともかく、予想外の大物が出たら魔術師任せってのは元々不安がデカい」
「だが、それで今まで何とか回ってきただろう」
「今回は一発勝負だ。作戦試行で何度もアタックを繰り返すってわけにはいかないだろ」
「…………」
「ラストを分厚くしよう。……そこまでの道中は向こうさんの手も借りながら地道に行く」
「それしかないか……」
二人の間で、どうやら僕は親玉対策要員に確定したようだ。
そして。
「……ところで気になるんだが……あの赤い子は一体、あのパーティでなんの役目なんだ?」
「さあ……」
エラシオとアルベルトはユーカさんを横目で気にしている。
彼女の役割だけが見えない……まあ当然だよな。実際滅多な事じゃ動かないし。
本当の切り札は僕でもアテナさんでもなく彼女だ、と今の段階で言っても、納得に時間がかかるだろう。
彼女の正体やこうなった経緯についても、できればあまり言いふらしたくない……というこっちの思惑もあり、曖昧なままで来ている。
……今回は彼女の出番あるだろうか。ないのが一番ではあるけれど。
このダンジョンは完全に未調査。
つまり、順路が全くわからない。
とはいえバラけて踏査して、ピンチになったら元も子もない。
それこそ、アーバインさんくらいの人なら、一人だけ別の分かれ道を調べに行かせてもいいのだけど、今の僕たちはそこまで生存力を信頼できるメンバーはいない。
結果として何度も行き止まりに突き当たりつつ奥を目指している。
そして、そこでエラシオ最大の弱点が露呈していた。
「ここは見覚えがある気がするぞ」
「いや、ここは初見だが」
「そんなことはない。確かに見たことがある……! それも昔から知っている気がする」
「またそれか……お前のその謎の既視感、毎回何の役にも立ってないんだが!?」
「今回こそは間違いない! こっちこそ奥に繋がる道だ!」
方向音痴だ。
しかも「ほぼ無根拠に特定の道を確信して進む」という色々救いようのないタイプだ。
多分、王都からクエントにたどり着くまでの間にも何度もこれが発動しかけては仲間に修正してもらってたんだろうな。
「たまに合ってることもあるだろ!」
「そりゃ分かれ道があったら二回に一回は合ってることもあるだろうがな!?」
「なら行くのが早いはずだ。どうせわからないなら行ってみるしかないだろ」
「その後にちゃんと道を覚えてるなら方向音痴と言わないでおいてやるんだが」
「俺は方向音痴じゃない」
「方向音痴だ! 何でそんなに自信だけはあるんだ!?」
エラシオとアルベルトが大声で言い合いながら歩くもので、遠くからモンスターが感知するのも早い。
が。
「撃ちますよー」
ファーニィが持ち前の鋭敏な聴覚で接近を察知し、先制の矢を叩き込んで鈍らせる。
フラフラと飛んできた巨大コウモリを、ジェニファーが前足で押さえつけて、おもむろに食った。
「……おいリノ。ジェニファー食ってるぞ、こんなの」
「まあ、お腹壊すものは自分で判断できるから大丈夫だと思う」
「生きたままモンスター食うのをその調子でスルーすんの地味にすげぇなお前」
背中に乗ったユーカさんは引いていた。
エラシオパーティも絵面的にうわぁ……という雰囲気になっていた。
……いや、ここまでにも時々野生動物狩っては食わせてたけどね。だから今更ではあるけどね。
できればもうちょっと切り身になってから食べて欲しい。まだ生きてるのにバリバリもぐもぐしないで欲しい。




