彼らの挑む道
エラシオのパーティは6名。
まずは“燕の騎士”エラシオ。印象通りの長剣使いで、特に乱戦が得意とか。
そして前衛は他に三人。
さっき絡んできたトーレス氏もここに入り、エラシオと同じく剣士だがこちらは長剣というより大剣。メルタのウォレンさんほどの大物ではないが、片手で振るには明らかに大きすぎる剣を豪快に振り回すらしい。
それに短槍使いのマルチナという女性。
彼女の短槍というのは、約1メートルという普通の剣と大差ない長さのもので、そこまで槍を切り詰めるというのは僕は見たことがなかった。
が、アテナさんによると結構武器としては有効らしい。
「まず、剣より軽いから非力でも扱いやすい。格闘戦の距離でもあまり支障がなく使えるし、急所を狙うのもたやすい。もっと使い手が多くてもいい武器だと思うぞ」
「わかる? なんかナメられるのよねえ、長い槍が持てないなら無理せずナイフでも持ってろ、とか言われがちだし。そうじゃないのよ普通に長いのより利点あるからコレなのよ」
マルチナはアテナさんが理解を示したことで、早くもこっちに好感を持ったようだった。
そんな彼女は、トーレス氏がアテナさんやファーニィを揶揄した通り、顔にいくつもの古傷を持つ。
治癒術の使い手がいても、傷は必ず綺麗に治せるとは限らない。それもまた勲章、強さの証、というのは、冒険者なりの強がり方だ。
が。
「おなごの顔に傷は見過ごせんのう。ちと触るぞい」
「え、何……えっ?」
マード翁が酒片手に彼女の顔を数秒ほど撫でると、その傷は跡形もなく消えていた。
「えっ? えっ? 何、どうなったの?」
「傷を消しといたぞい。まあ触ってわからんなら鏡とか見るとええが……酒場に鏡なんて持ってくる奴おらんな普通」
「え、私持ってますよ」
ファーニィが懐から小さめの鏡を取り出す。さすがの女子力だ。
というわけでそれを見せると、マルチナはしばし呆然。
「ええ……こんな、ことって……」
「余計なことじゃったかもしれんが。他にも古傷とかあるなら承っちゃうぞい。傷痕で引かれるのが嫌で気軽に脱げない……って悩む女子冒険者多いからのう」
「ほんと……? い、いや、そこまで気にしてるわけじゃないんだけど」
「おうよ。さすがに公衆の面前でやるわけにもいかんからお宿にお邪魔することになるがのう。ぐひひ」
「うぅ……!」
マード翁、そこでぐひひ笑いしなければ普通に尊敬されるのに。
「大丈夫ですよーこのヒトスケベですけど一線は越えませんから。むしろ相手が越えようとすると引きますから」
「あ、こら、何言っとるのファーニィちゃん」
「人助けしようってのになんですかその偽悪は!」
「別に偽悪じゃねーわい。ワシはもう自分が楽しくない治癒術の安売りはせんことにしとるんじゃ。女の子の柔肌癒すならタダでも楽しいからやるけど、それならこっちも、いやあっちも、なんて関係ねーやつに押しかけられたくねーのよ。じゃからワシがヨダレ垂らしながらやるとしても治して欲しいって子にしかやらん。変に安心されても困るのよ」
……いや、まあ、この前の出奔の経緯聞いてると納得するけど。せざるを得ないけど。
それ聞いてない人にしてみると、やっぱりただの強欲スケベ爺さんだよね。
「……お、お願いします」
「おー。じゃあ後で行くからの。鍵は開けとくんじゃぞ♥」
変な空気になってしまうマード翁とマルチナ。それを見るこっちも微妙な空気。
「あれってほっとくしかねーの?」
トーレス氏が横にいる治癒師のキュリオ嬢を肘でつつく。
エラシオパーティで最も温和そうな雰囲気の彼女は、困った顔で。
「私の手じゃ残っちゃった傷をあんな簡単に消されたんじゃ、何も言えませんよ……むしろ私も診てもらおうか悩んでるくらいなので」
「お前そんな気にしてる怪我あったのか?」
「……トーレスさんには見せませんよ?」
まあ治癒師としては立場ないよね、ああいうの見ると。
そして、その空気を吹き飛ばすように店主から大量のジョッキを受け取ってきてテーブルにガシャンと置いたのは、背の低いドワーフの男性……このパーティの前衛枠最後の一人であるドドンパさん。
「まあとにかく飲もうじゃねえか。せっかくエラシオのオゴリってんだ、大いにやろうぜぇ」
「多少は加減してくれよ、ドドンパ」
「多少はな。多少!」
ギシシシシ、と髭もじゃの顔で笑う陽気なドワーフ。
ドラセナ同様に標準語を流暢に操る彼は、見たところパーティのサブリーダーといった感じか。
見たところ大半が二十代前半のパーティの中で、長命のドワーフの重みはまとめ役に向いているのだろう。
そして、そんな中で一人知的な雰囲気の青年が、エラシオにゆっくりと指を向けた。
「それで『このタイミング』でよその猛者と親睦を深めようってのは、偶然なのかい? ……話なら酔っぱらう前にした方がいいと思うがね」
「アルベルト。……そう急くなよ。それこそ挨拶も済まないうちから」
「悪いね。トーレスやマルチナみたいな無駄騒ぎを一巡するまで待つと、俺も酔ってしまいそうなんだ」
「…………」
エラシオが口をへの字にして、頭を掻く。
「何か……僕らと協力したいようなことでもあるんですか?」
聞いてしまったからには無視もしづらい。
話を振ってみると、エラシオはしばらく逡巡して。
「俺たちの根城にしてるクエントって街があるんだが」
「はい」
「最近とんでもない事実が発覚してな。……王都に来たのは、有り金はたいて万全の態勢を整えるためなんだ」
「……端的に、どういうことが僕たちに絡み得るのか教えて欲しいんですが」
「あー……できれば言いふらさないでくれ。俺たちもすぐに戻るけど、その前に下手に知れ渡るとまずい」
「?」
「……街の中心部の地下にダンジョンが発見されたんだ。昔封印された痕跡があるが、誰がそうしたのかもわからないし、解けかけてる。封印を解いたらファーストアタックで潰さないと、街がひどいことになりかねない」




