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弱そうなパーティ

 宿屋に戻ると、アテナさんとユーカさんは帰ってきていた。

 まずはアテナさんの報告を聞く。

「新情報はなかったが、ジェニファーに関しては港の近くの倉庫を使わせてもらえることになった。ひとまず今夜は、だが」

「……港って」

「ああ、この前の水竜騒動の被害で少し壊れたところだ。倒壊はしていないが防犯上、そのまま倉庫として使うことはできないというので空けたところらしい」

「そんなボロ家にジェニファーを寝かせる気なの?」

 リノが口を尖らせるが、今夜となると急なことだから仕方ない。

 今、馬がいる馬小屋をすぐに空けろというわけにはいかないし、人間と同じ部屋に寝かせるわけにも、人目のある場所で座らせておくわけにもいかないのだ。

「それなら今日は私、宿屋じゃなくてジェニファーと一緒に寝るからね」

「……まあ、それでもいいけど。明日になったら双子姫から手が回って、ちゃんと馬小屋借りられると思うよ?」

「それまでが心配だもん。そこらの馬鹿につつき回されてジェニファーがやり返したら、どうせ全部ジェニファーが悪いことにされちゃうだろうし」

「……まあ、ね」

 さすがに大型ライオンをつつき回すバカはいないと思いたいけど、みんながみんな利口ではない。勝手に度胸試しの種にされないとも限らない。

 リノが一緒なら警告もできるだろうし、面倒を避けて逃げ出すにしてもジェニファー単独では大騒ぎになる。リノ付きなら収めようもあるだろう。

「ファーニィとマードさんは……あ、いた」

「今からお酒呑みに行くところだったんですけど」

「なんぞ新しい話でもあるかの」

「いや、お酒ならちょっと待って。さっきオゴリの話があったからさ」


 …………。


「“燕の騎士”? 強いんですかその人?」

「見た感じは僕より全然強そうだったよ」

「アインより弱そうな奴そうそういねーだろ」

「まあ実力との乖離という意味では、確かにアイン君は……な」

「別にタダ酒に固執するほど貧乏でもないんじゃが」

「まあまあ。ここは僕の顔を立ててもらえないですかね。向こうはパーティで集まってるみたいですし、一人で行くと圧倒されちゃいますから」

 酒の誘いだし、リノは無理に連れて行くこともないか。

 クロードは……まあ、宿の受付に言付けておけばいいかな。クロードは水霊騎士団と王城の両方に挨拶回りだし、双子姫相手に顔だけ見せてすぐ帰る……というのも難しいだろうから、それなりに遅くなるだろう。

 というわけで、お酒呑める全員で待ち合わせ場所に向かうことにする。


「桜の木の休息亭」は、わりと手ごろな料金と雰囲気の大衆酒場だった。

 ゼメカイトの「竜酔亭」のような上級酒場かとも思ったが、冒険者をあまり歓迎しない王都でそんなところに集まるというのも、まあ、ないか。

「こんばんは」

「ああ、君か。……みんな、紹介する。彼が……」

 エラシオが僕たちを仲間に紹介しようとするも、その仲間の一人が机にドンと足を乗せて声を上げる。

「おいおいおいおい! いくらなんでもこりゃねーだろ!」

「なんだトーレス。邪魔しないでくれよ」

「さっきの話じゃ相当な冒険者だって話だったろうよ! なんだよ、小役人みたいなヒョロメガネにチビガキに腰の曲がったジジイ、顔に傷もロクにない女二人! 冒険者ってツラか!?」

「だがドラセナが言ったことだぞ。多少の誇張はあったとしても、まるきり嘘なわけがない」

「エラシオ、お前は人が良すぎるんだよ! 騙されてるとか少しは思わねえのか、その連中見て!」

 あー。

 ……まあ、そう思えても仕方ないところは確かにある。

 特に今、アテナさんさえ武装してないからな……。

 僕やユーカさんが強そうに見えないのはまあ仕方ない。マード翁もメルタでしてたような面白仮装はやめてるし、もちろんマッチョモードはとっくに解けている。ファーニィやアテナさんは……武装してない時には確かに荒事をやるようには見えないんだよな……。

「なあアイン君。ワシちょっと本気出してみる?」

「やめてください。目立つでしょ。しばらく遊べなくなりますよ」

「むう」

 マード翁をとりあえず止めて。こうしてナメられることに耐性の低いユーカさんをどうにか抑えて。

「特にメガネ! お前、本当に冒険者か!? ちょっと小突いたら死にそうじゃねーか!」

 赤ら顔で僕に絡んでくるトーレス氏。

 指を突き付けてくる彼に、僕はひきつり気味の愛想笑いをして……そこにアテナさんが割って入る。

「彼はモンスター相手には滅法強い。私が保証しよう」

「誰だテメエは」

「そう、そういう話はまず私に向けてくれ。……と言っても、そうだな。ここらを根城にしているわけではないなら名乗っても話が進まんか」

「あ? なんだ、有名人気取りか?」

「それなりにな。……そうだ、腕相撲でもしようか。一番話が早い」

「そんな細腕で男と腕相撲する気かよ」

「それなりに自信はあるぞ。……騎士団の若い連中相手なら30人抜きしたことがある」

 微笑むアテナさん。……いや待って。本当になんでその貴婦人プロポーションでゴリラエピソードが簡単に出てくるの。

 パワーを追求して本当にゴリラだったユーカさんの立場がないじゃないか。

「私に勝ったらなんでもひとつ言うことを聞いてやろう。裸になれというならなってもいいぞ」

「ほ、本当かよ」

「勝てればな」

 不敵に微笑むアテナさん。


 結果は、アテナさんが気軽に勝負を吹っ掛けるくらいなのでまあお察し。

「な、なんだこの女……ゴリラか……!?」

「はっはっは。当たらずとも遠からずだ」

「いやアテナさん、それは正解に近い場合に使う台詞ですからね!?」

 軽く勝利したアテナさんに、エラシオの仲間たちだけでなく僕たちもちょっと引く。

「今のを自己紹介としよう。私はアテナ・ストライグ。彼のパーティメンバーで剣を手ほどきする者だ。少し前までここの風霊騎士団に所属していた」

「……ほ、本物の騎士かよ」

「再戦がしたいなら受け付けるぞ。団の飲み会では定番だったからな」

 頼もしい。

 こういう対人荒事対策はもう彼女で安定かもしれない。

「ちなみに君が腰の曲がったジジイと称したのは“治癒術の大家”マード殿だ。彼に比べれば、私などまだまだ子供の細腕だ」

「ワシにマッチョモード出させる流れ作ろうとせんでくれんかのう。せっかく思いとどまったんじゃし」

「マードって……あの“邪神殺し”パーティのマードか……!?」

「何でこんなところにいるの!?」

 ザワつくエラシオの仲間たち。

 その辺で再びエラシオが仕切りにかかる。

「はいはい、もういいだろ! とにかく彼らがさっき言った“鬼畜メガネ”のパーティだ。仲良くしておこうってんで呼んだのに、それ以上変な空気にしないでくれるか」

「あの、“鬼畜メガネ”って本決まりの雰囲気ですか? 僕あんまり納得してないんですが」

「まあ二つ名ってそういうもんだろ」

「異議をすごく申し立てたい……!!」

 アーバインさんの“女ったらし”が定着しているくらいなので、あんまり希望通りにいかないというのはわかるけど。

「一応、変える努力のしようはあるぜ」

 ユーカさんが重々しく教えてくれる。

「それこそ邪神殺すような大仕事を成し遂げるか、自分で推しの二つ名をめちゃくちゃ宣伝するかだ。……最近よく聞く“火炎王”シルヴァーも二つ名推しがすげぇマメだって噂だぞ」

「えー……」

 まあ、あんまり他人が素直に付けなさそうな二つ名だとは思う。それは。

「逆にどんな二つ名なら納得するんです?」

 早速酒を注文しながらファーニィに尋ねられる。

 ……ちょっと考えて。

「え、えーと……ラッキーボーイ?」

「無理ですねそれは」

「そんな即答するほど!?」

「むしろ幸薄そうな顔してますもん」

「メガネだしな」

 ユーカさんまでおっかぶせてくる。

 いや待って。メガネってそんな薄幸な感じある?

「あとお前、人に名乗れる勇気あるかそれ。僕が“ラッキーボーイ”のアインです、とか胸叩いて言えるか」

「……すみませんでした」

 うう。

 合ってると思うんだけどなあ。今までの経緯的に。

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― 新着の感想 ―
[一言] ラッキーボーイって小馬鹿にしてるかあるいは他人に幸運をもたらす人ってイメージですよね なんか得意な剣を使った魔力技からとりたいところ
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