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大宴会

 さて、やるべきことはだいたい片付いたので、ユーカさんやマード翁が熱望している酒盛り。

「さて無事のワシの修行完了を……」

「アインの後詰冒険隊(サポートパーティ)初指揮の成功を祝して乾杯!」

 マード翁が乾杯の音頭を取ろうとしてユーカさんに横から奪われた。

「いやそこはワシじゃろ!?」

「祝うほどの成果あったのか知らねーし」

「普通は治癒師ひとりであんだけサーペントぶち転がしてたら目ェ剥いてしかるべきじゃと思うんじゃよね!?」

「お前が普通の治癒師なんて誰も思ってねーだろ。今回初めてサーペント倒したわけでもねーだろ」

「……まあ、そりゃ今まで倒せなかったかと言われるとアレなんじゃがの」

 倒せないんだったら、前に無謀パーティの救援に一人で行こうとしたのおかしいよねって話になるよね。

 まあ、あの衝撃波付きの攻撃の練習しに行っていた感じなんだろう。

「で、でもさすがに多頭龍(ヒュドラ)倒したのは初めてじゃよ?」

「あれ7割方アインが潰した奴じゃね? あれを自分の手柄にするか普通?」

「7割はボり過ぎじゃろ? 6割ぐらいじゃろ? トドメ役ってだいぶ重要じゃろ?」

「どっちにしろそれを最初の乾杯のネタにしようとすんの引くわー」

「うわーん! ユーカ相変わらずいじめっ子じゃよ!!」

 仲いいなあ、この老爺と美少女。

 と、ぼんやりしていると、ファーニィがまあまあまあ、と両者をなだめて。

「とにかくもう乾杯ってことでいいですよね。乾杯は景気づけなんですからそこでグダグダするのはナシでしょう。じゃあ乾杯!」

 勝手に乾杯を宣言し直し、戸惑っていた他のメンバー(リノやクロード、それにチューリップ嬢あたりは搾り汁(ジュース))も少しぎこちなく杯を上げて、宴が始まる。

 強いなあファーニィ……と思ったけど、よく考えたら年長者だったね君。マード翁と同じくらいの。


 今回の小遠征は僕たちパーティの6人+1頭、後詰の5人、それにマード翁で12人。

 それだけの人数の宴会となれば、さすがに酒場が広いといってもやはり目立つし、元々マード翁はもとよりウォレンさんやキティさん、ナオさんも、地元屈指の実力者として存在感のある(らしい)人たちだ。

 自然とその晩の酒場の主役といった様相を呈し始め、宴会の規模が広がっていく。

 ……僕が代金全部持ちとか言われたら困るなあ、と思いながらビールに口をつける。

 この前気づいたが、誕生日を過ぎていた。僕ももう二十歳だ。

 ここらは十七歳で呑んでいいらしいし、ハルドアでも二十歳ならさすがに文句は言われない。

 ……飲酒年齢が国によって違うなんて、地元にいたら一生意識しなかっただろうなあ。

 田舎だとそもそもそのへんユルユルなとこあるけどね。子供にも平然と呑ませて反応を笑ったり。

 そんな田舎で何も知らずに生きていくのも、ある意味では不幸だったかもしれない。今があの頃より幸せなのかと言われると、まだ自信はないけれど。

「君は静かに呑む口か」

「アテナさん」

 そしてアテナさんはさすがに鎧は全部宿に脱いできた。そのせいで「誰!?」と後詰の全員に一度言われている。

 直接顔見せたの温泉の時だけだったんだよな。あの兜、脱がなくても飲食できる構造なので結局ずっと脱がなかったし。

 変なところはフルプレさんみたいだが、こうして時と場合によってはきっぱりと見せるあたり、自分の美貌をよくわかっているのだろう。

「王都の騎士の宴会では、そんなしんみりと呑む奴はいなかったのでね。少し物珍しがってしまった。悪いね」

「しんみりしていたわけでもないですけどね。……ちょっと前まで僕、故郷では呑んじゃ駄目な歳だったんで……ちょっと罪悪感持ちながら呑んでたので……もうそういうのないんだよなあ、って」

「しんみりしているじゃないか」

 微笑みながら上品に呑むアテナさん。

「しかし本当に真面目な若者だな君は。品行方正を旨とする騎士見習いたちも、建前はともかく一刻も早く酒を呑みたがるものだというのに」

「そんなものですかね。僕はお酒で楽しい気持ちにはあまりならないみたいなんで……苦いな、としか思わないことの方が多いんですが」

「楽しもうとしなければ、そんなものかもな。まあ剣はともかく酒は私も長じているわけではない。とやかくは言わないが」

「……楽しもうとしなければ、か」

「何事も楽しむから楽しいのだ。冷静でいようとするのも悪くはないが、楽しめぬと決めつけたままでは苦いものは苦いままだ。それは損だぞ?」

 ……まあ、お酒の話でしかないのだけれど。

 冒険も、そうかもしれない。

 ユーカさんがやたらと危険や限界に挑む状況を楽しむ気持ちを、冷ややかに拒絶しすぎているのかもしれないな。

 それが「彼女の仲間」としてはちょうどいいのかもしれないけれど。

「後継者」としては、それではいけないかもしれない、とぼんやり思う。


 僕とアテナさんをよそに、テーブルの反対側ではナオさんとチューリップ嬢が荒ぶり始めている。

「あなたたちエックスさんに対してちょっと酷くない? こんなステキなお爺さんそういないよ?」

「そーですそーです! もっと優しくするべきだと思います! お爺ちゃんですし!」

「むしろ男は毛が白くなってからが本番だと思うの。そこからが男の絶頂期だと思うの。正直ウォレンさんじゃまだ青い」

「……ナオさん?」

「もっとエックスさんの魅力にみんな気づくべきだと思う心と私だけが分かればいいという心がどっちも暴走しそう」

「あの、ナオさん?」

 他のメンバーがマード翁を雑に扱っているのはおかしい、という話だと思っていたらなんかナオさんの様子がおかしい。

「……アンタはただの枯れ専じゃん。しかもなんか感情が変な感じに濃過ぎていつも逃げられるじゃん」

 キティさんが白けた目で言う。

 ……え、そういうタイプの感情だったんだ?

 もっとこう、マード翁の技能とか精神とかそういうのかと……。

「ただのって言うな。というか枯れ専なんて雑な言い方で切って捨てるな。私に言わせればアンタらの方がガキ専なの。私は人間として完成した男をね?」

 酒の勢いに任せて雲行きが怪しくなってきたナオさん周辺から、そーっとマード翁はマッチョな体を後退させる。

「なあユーカ。ワシそろそろ帰って寝ていい?」

「アタシに聞くな。ってか好かれてんだから付き合えばいいだろ」

「男へのこだわりが強すぎるタイプの女はマジで人を不幸にしかしないと思うんじゃよなあ」

「いいじゃんお前死なないんだから」

「死なないことを変な方に活かさせないで欲しいんじゃが!」

 ……え、ええと、僕には振ってこないでくださいね。

 と、僕はそっとアテナさんを盾にした。

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