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剣にかける未来

「魔力を集める剣」というアイディアのことはいったん棚上げとして。

「アイン君の剣に関しては、私も思うところがある」

 アテナさんが口を開いた。

「君の戦闘スタイルだと、剣はもっと短くていいと思うぞ。今の剣は両手持ちを想定している長さだが、現状その意味があまりない」

「……短い剣って色々不安があるんですが」

「とにかく長ければいいというものじゃない。戦法に合った長さというものがある。片手で扱うことを前提にすれば、あと10センチ……12センチは短くしていい。短い方が取り回しはいいし、君はそもそもにして“斬空”で射程を大きく伸ばすのが前提になっているだろう。ほんのわずかな間合いの差や得物の重さは、その戦い方である限りにおいては小さくて何の問題もない。さすがに防御を考えると、ナイフの長さでは問題があるが」

「う、うーん」

 腰に差したままの剣の柄尻を握って、少し考える。

 確かに……片手剣、というのは選択肢としてアリなのかもしれない。「オーバースラッシュ」は両手で振る必要はそんなにないもんな。

 今の剣はロゼッタさんにゼメカイトで渡されたもの。一応、フィルニアでの過剰な研磨で細くはなったが、長さはあまり変わっていない。

 何故この長さであるかといえば「たまたま」としか言いようがない。

 僕がもともと持っていた剣が両手用だったからというのもあるだろうけど、あの時の扱いを見るに、あの場で即座に渡せるのがたまたまこれだった、というだけのことだろうし。

「この剣の寸を詰めるか……新しい軽い剣を買うのを考えてもいいのかな」

「アタシとしてはむしろ、あのウォレンっておっさんが持ってたみたいなデカい剣持ってほしいけどな。軽い剣持つから筋肉つかねーんだよお前は。モリモリになれよ」

「モリモリになろうとはしてるんだよ……でも実戦で戦えないんじゃ意味ないから……」

 ウォレンさんの剣は、地面に立てると柄尻が喉の近くまで来る大物だった。目測だけど150センチくらいあったと思う。

 あれで戦うのは……全力で振るだけなら何回かは可能だろうけど、それで敵数も定かでない冒険に挑むのはちょっと僕には難しい。

 で、マード翁はヒゲをさすりつつ。

「むしろワシが剣持とうかのう。昔からかっけーなーと思っとったんじゃ」

「いや、お前そんなもん常用したらマッチョモードから戻れなくなるだろ」

「そこがネックなんじゃよなあ。悩ましいもんじゃ」

 小兵の老治癒師が一気にマッチョになるだけでも珍奇なのに、大剣まで振り回したらいよいよ何がなんだかわからない。

「その筋肉は一時的なものということですか」

 と、本来のマード翁をよく知らないアテナさんが訊くと、マード翁は肩をさすりながら頷き。

「治癒術の応用で、むちゃくちゃ活力を送り込んで筋肉作っとるんじゃ。しかし、この状態だとやっぱバランス悪くてのう。筋肉がモリモリしすぎて、それだけで背骨折れたり内臓潰れたり腱が千切れたりとかしょっちゅうするんじゃよ。まあワシの治癒術だと一瞬で治るんじゃが、やっぱ痛いし疲れるから平時はノーマルモードにしときたいのう」

「……次元が違いますね」

 治癒術の次元も、起こっていることの次元も、両方非常識過ぎる。

 アテナさんの呟きには、ユーカさん以外全員が頷いた。


 とりあえず、「ステッキを介した魔力受け渡し」は次回からやれる。

 第二案の「『虚魔導石』を使った魔力予備槽(タンク)作成計画」も、短期目標として入れておく。

 一般的に失敗作とされる「虚魔導石」に高品質を求めるという変なオーダーのため、既製品があるとも思えない。

 それっぽい素材を見つけたらリノに作ってもらうなり、趣旨を分かってくれる魔導具職人に頼むなりするのがいいだろう。

 で、ラストの魔力収集剣に関しては。

「……研ぐ前提の剣じゃなければできなくもないよなー」

 と、ユーカさんが呟いた。

「え、研がないでいい剣とかあるの……?」

「アタシが昔使ってた奴はそういうのもあったぞ。前に言わなかったか」

「……あ、あー」

 そういえば……そんなのも、聞いたような聞かなかったような。

 手入れ不要の遺跡発掘品とか稀少素材の武器があって、面倒だからよく使ってた、という話をぼんやり思い出す。

「でもそういうのって貴重だから、僕に都合のいい改造とかできないんじゃないかなあ」

「馬鹿。誰に遠慮してんだよそんなん。技術的に無理ってんならまだしも、貴重だから……なんてのは、やらねえ理由にはなんねーだろ。武器ってのは使ってナンボだ。あとで壁に飾る奴のお気に召すかなんてどーでもいいんだよ」

「……まあ手に入ればだけどね」

「ちょうどいいのがあったら譲るんだけどな。アタシそういうので売らずに手元に置くのって大物ばっかりだったんだよなー……今度ロゼッタに探させてみるか」

 手に入るといいけど。

 もしリノの構想通りに魔力回収できれば、かなり戦闘が自由になる。

 僕自身の攻撃だけじゃなく、他人の魔術の後に残留する魔力なんかも足しにできるかもしれないし。

 ……そのためには、もっと片手で剣を振る練習もしていかないといけないな。


 鍛冶屋に鎧を預けて、ジェニファーに上等なご褒美肉も与えて。

 ……町の鍛冶屋は「ミスリルの鎧なんて何年ぶりだ」とか言ってたのでちょっと不安だけど、まあ直らなくてもまたいずれは王都に行くからドラセナに頼めばいいとして。

 稽古は……アテナさんに頼もうとしたらジェニファーに乗ってリノと一緒に近場の温泉に行ってしまっていた。

 仕方ないので、アテナさん合流以来となるクロードとの二人稽古に臨む。

「本当に、メキメキと……力をつけますね、アインさんは!」

「そんな気、しないけどね……!」

 木剣で激しく稽古。

 クロードは水霊のオーソドックススタイル、僕はクロード・マキシムやアーバインさんの教えに加え、風霊の構えを取り入れた我流変則スタイル。

 アテナさんの懇切丁寧な指導により、構えの意味や使い方にはそれなりに理解が追いつき始めているが、相変わらずクロードには一本入れられる気配もない。

 とはいえ、初期は飛んでくる一撃をまともに受け止める方法すらわからなかったのだから、一応チャンバラの形にはなっているあたりは進歩と言えるかもしれない。

「それにしても、クロードって本当に力、強いよね。僕より四つも下なんて思えない」

「見習いとはいえ騎士ですから……子供のころからヘトヘトになるまで鍛錬した結果ですよ」

「僕もそこそこ毎日ヘトヘトにはなってたんだけどな……」

 農業のための体力は、やはり剣術には単純に応用できないらしい。

 それでいてクロード、体はモリモリマッチョってわけでなく、均整の取れた細マッチョって感じなのがまた。

 顔も美少年なもんだから、本当に隙なくモテ要素の塊なんだよなあ。

 相手が姫じゃなければ、彼女もいくらでもより取り見取りだったんだろうな。

 家柄、環境、容姿、才能。

 それら全て、僕とは比較にならない。

「クロードが羨ましいよ」

「アインさんにそう言われるとは思いませんでした」

 何本も取られ、打撲が酷くなる前にファーニィに治癒してもらい、なんとか稽古をこなし終える。

「私はアインさんが目標です」

「……目標にするような部分あるかな。いや、魔力剣技は君より得意だけど」

「それもありますが……なんというか、覚悟というか。人生への意志の強さというか。……時々私は、アインさんやユーカさんを見ていると無性に恥ずかしくなることがあります。私は小さいな、と」

「……いや、僕はそんなに意志なんてない方だと思うよ。流れるままというか」

 自分ではそう思っている。

 むしろ、お姫様との結婚なんて壮大で明るい目標があるクロードの方が強い意志を持っているだろう。

 ……と、思うのだけど。

「隣の芝生という奴ですね。……私はきっと、あなたみたいには、流れることさえできない」

 クロードはそう言って爽やかに、少し困ったように笑う。

 ……彼には僕がどう見えてるんだろうな、と、少し思った。

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