魔力を補う
「つまり、武器ないし何かの魔導具にこもった魔力なら吸い取れる、ってことなら、例えばほら」
僕の握っているステッキの逆端をリノが握る。
……補充されてる。それを僕はそのまま流れるように吸収。
「こうすれば、ちょっと休む暇があったら魔力の補給はできるでしょ」
「……でもこれリノに凄い負担かからない?」
「私、一応魔術師の名家に拾われる程度には基礎魔力高いわよ?」
「……僕の魔力量ぐらいなら屁でもないってこと?」
「そこまでは言わないけど、多分冒険中に二回や三回魔力渡すくらいなら全然いけると思うの。もし気絶してもジェニファーが運んでくれるし」
「……なるほど。それだけでも継戦能力が三倍か四倍ってことか……」
戦闘の合間にチャージさせてくれるなら、実質的に常に万全の状態にできる。
難点としてはやはり戦闘中には難しそうなところだが……いや、ジェニファーという足場があるわけだから、僕とリノが無防備になることはないのか。
ジェニファーに乗せてもらいながら魔力を補充し、また降りて戦線復帰すれば、よほどの状況でない限りは大丈夫だろう。
「私自身は戦闘中にやることないから、私の魔力なら遠慮なく使えるでしょ?」
「まあ……ね。できれば少しくらい何か援護とか覚えて欲しいけど」
「今のところ、って話!」
ジェニファーがいろいろと役立つおかげで今も充分な働きではあるものの、今後も冒険者として何年もやるつもりならそれで割り切るのはよくない。
僕たちも今のところはパーティとしてまとまっているが、いつまでも続く保証はないので、力をつける努力はしてほしい。
もしもファイヤーボールのひとつも使えれば、それこそジェニファーの機動力、攻撃力にそれが加わるのだから相当に厄介になるはず。
それはリノもわかっているはずだから、あまりしつこく言う気はないけれど。
「まあこれは第一案として。……あとふたつ」
「まだ二つもあるんだ?」
「うん。まあひとつは簡単。虚魔導石をいくつか作って持てばいいでしょっていう」
「何それ」
「魔導石の中でも魔力を溜め込む以外の機能がないやつ。……よく魔導具製作の初心者が失敗して作っちゃうの」
「え、何? 何で?」
すごく有用そうなのにそんな扱いなの?
と思ってユーカさんを見る。一応そういう知識あったよね。
ユーカさんは溜め息をついた。
「魔導石って言うから何かそれっぽく聞こえちまうんだよなー。……魔導石とか魔導具ってのが『本の形をしてない魔導書』っていう代物なのはわかるよな?」
「え? ……あ、あー、うん」
僕からすると「魔法の道具」というぼんやりした概念なのだけど、きっちりと定義するとそうなるのか。
「で、魔導書ってのは何かっつーと、魔術文字で魔術を記述したものだ。魔術文字はそれぞれ特別な魔術変性効果を持つ文字で、順番に魔力を込めていくことで魔術を発動できる。呪文詠唱の代わりに使うものって認識でおおむね間違いない。……本の形だとカサに対して情報量が多いし、ページ飛ばして呪文の特定部分の効果を省いて発動するとか、色々応用が利きやすいんで、直接持ち歩く魔術師もいる。が、仮にも魔術師なら呪文ぐらい頭で覚えろっていう職業意識もあるんで、冒険魔術師はあんまりそういうのはいねえな。応用が利く分、慌ててると暴発しやすいし、うっかり魔導書汚したり破かれたりすると何もできなくなるしな」
「へえ……」
改めて聞くと、あんまり意識していなかったことがはっきりして面白い。
一般人、特に下層労働者は魔術に縁がないから、知ろうとしないと本当にどういうものかすらわからないんだよな。
「そして魔導具はそれを一般人向けに作り直した代物だ。特に魔術がわからなくても、魔力を込めることさえできれば勝手に魔術文字に魔力が走って魔術が発動する。その性質上、一種類しか呪文を書けないから微調整は全くできないが、材質や呪文の精度、組み合わせによってはとんでもないモノが出来上がることもある。本より頑丈だから冒険者向きでもあるな。魔導石はその中でも宝石を媒体にしたモンのことで、単純な値の高さはもちろん、それに見合う効果が期待できるから上等な扱いを受けてる」
愛剣の鍔元にある魔導石を見る。……そういうものだったんだな、と改めて思う。
なんとなく魔術的効果がある石、とは認識してた。大筋間違ってないけど、そういうことなのか。
「……で、リノの言ってるやつは魔術的に言えば『魔力をいくら使っても何も起きない呪文』ってのに相当する。機能的にそれしかない道具だ」
「……あ」
言われてようやくわかる。
確かにそれ、使いどころ全然ないや。
……リノは頷いた。
「リーダーって、モノに込められた魔力は直接吸収できちゃうわけでしょ? 虚魔導石をあえて作って、私が魔力を込めるとか、自分でも寝る前に込めておくとかすれば、いざって時にはそこから使えるじゃない」
「それって貯めたらそのままずっと置いておけるの?」
「普通失敗作だし、そんな魔力貯めておく実験なんてしたことないから、そこはやってみないとわからないけど……」
リノはちょっと自信なさそうにする。
ユーカさんは腕組みをして。
「ま、それこそ素材と呪文を突き詰めれば、容量も保存期間も上げられるだろ。今はそういう手がある、ってだけでいいよ」
「う、うん。……それと最後のひとつ」
実はこれが本命、とリノは胸を張る。
「リーダー、二刀流って興味ない?」
「……藪から棒だね。二刀流だと何か魔力的にいいことあるの……?」
「正確には、今の剣にもう一本持って戦うことがカナメ!」
つまり……と溜めを作って。
「攻撃する剣と、魔力を集める剣で二本持ち。……魔力剣技を使った後に魔力が散ってる空間で、振るだけで魔力を集められる魔導具を作ればいいのよ!」
「そんな便利な剣なんて有り得る?」
「実際『フォースアブソーブ』っていう呪文があるんだから、それを剣に刻めばいいだけでしょ? いけるいける!」
……確かに、それができるなら夢のような話だ。
が。
アテナさんが、ふぅむ、と唸り。
「……剣は研ぐからなぁ。生半可なものでは魔術文字が消えてしまうのではないか?」
……リノが何か反論してくれるかと思ってしばらく待ったが、リノは凍ったままだった。
慌ててフォローする。
「べ、別に剣じゃなくても……もっと小さい腕輪とかでなんとかならない?」
「……空間から魔力を回収するってなると、それなりの大きさが必要だし……周囲から無差別に吸う形式にすると、今度はそれ持ってる間、たぶん魔力剣技も使えなくなっちゃうから……」
……じゃあ剣以外で、と思って代案を少し考えてみたが、それで「大きいもの」だと単純に戦う邪魔になりそうだ。
困った。




