マードの帰還
客観的に見た僕の能力傾向と問題点。
〇魔力の取り回しがとにかく速い。一瞬で魔力剣技が使えるので急襲に強い。
〇攻撃力、特に瞬間的な爆発力が高い。
〇大技が複数あり、リーチもそこそこ長いため苦手な敵が比較的少ない。大型モンスターに特に有利。
〇殺すことに躊躇がない。
〇ちょっとだけ魔術が使える。
×剣がないと何もできない。
×戦士としては身体ができていない。地力で勝負になると後衛並み。
×魔力も体力も低め。長期戦になると急に駄目になりがち。
×メガネを壊したり落としたりしたら味方を斬りかねない。
×剣術初心者なので、一年以上剣をやっている人にはまずかなわない。
×女に弱い。特に身体の小さい子には妙に甘い。
「最後のは関係なくない?」
「土壇場でそういうのが出る奴もいる。アーバインとか。アーバインとか」
数え上げたのはユーカさんだ。
そして、それを改めて確認したのは今までちょっとしかパーティを組んでいないマード翁、いつも自分がほとんど戦闘参加しないので僕の特性をよく知らなかったリノ、それと日の浅いアテナさん。
ファーニィやクロードからすれば今更のおさらいだ。
「改めて聞くと本当に極端な子じゃのう」
「メガネないとそんなに見えないんだ……オシャレでかけてると思ってた」
「剣も筋は悪くないのだがなあ。ほんの数日の稽古の内容を実戦技として昇華しきれるのは立派なものだ。それこそ一年……いや、半年あればいっぱしの腕に仕上げられると思うのだが」
感想も三人それぞれ。
……ユーカさんは指を鳴らす。
「で、だ。……この中のいくつかは、金や時間があれば補える話だ。ロナルドの野郎やデルトールの怪人……そういう奴らと今日や明日やらなきゃいけねーわけじゃねえ。なんとか装備や訓練で足りない部分を足すってのは、無理な事でもないだろーな。だが」
び、と僕を指差し。
「魔力不足だけは、どうにかバシッと対策取らなきゃいけねー。アタシもこんな体になっちまってる以上、あまりモタついてもいられねーしな。いざとなったら魔力向上薬を大陸中から集めてガブ飲みさせてでも、と思ってたところだ」
「それやると最悪廃人になっちまうんじゃないかのう」
「それをお前が何とか保たせるんだろマード」
「無茶苦茶言うわい……」
いや待って。その薬ってそういう感じの薬なの?
……まあ本来そうそう伸びない魔力を強引に伸ばすんだから、全くの安心安全ってことはないか。
「状況はだいたいわかったわ。……それを『フォースアブソーブ』で補えるなら、ってことよね」
「どういう状況でどれだけ回収できるか、ってのがネックなんだけど」
使った魔力を「回収」する。
戦闘中にそんなことができるなら、うっかり底まで消費しきらなければまた吸収して戦い続けられる、ということにもなるだろう。
そんなに都合よくいくのかな、と少し思ってるけど。
「……それに関しては、まずリーダーのいう『吸収』が何に対してどれだけ効くのか、ってところを検証しないと、なんとも言えないわね」
「参考までに聞きたいんだけど、理論的に最大の場合だと、それってどれだけ効率いいのかな……」
「他人の魔力も生命力も全部吸って自分の存在力に変換する非実体アンデッドの場合なら、そこに生物がいるだけで実質無限に魔術使えるわよ?」
「……さすがにそれはもうモンスターだから、とりあえず人間の範疇で」
「そうね……ものすごくいい魔導具を併用して『フォースアブソーブ』すれば、リーダーの魔力剣技みたいな効率悪い原始魔術なら6割くらいは再利用できる、かも」
「……つまり実質的に倍以上は戦えるようになるのか」
「本当に理想的な場合だからね!? そもそもリーダーの謎能力とかじゃなくて『フォースアブソーブ』で考えての話だからね!?」
その検証は、遺跡内でやる必要はないから、ということで。
その話はとりあえずそこまでにして、多頭龍に最終的な処理を施して、僕たちは遺跡を後にした。
……戦利品は多頭龍の牙。9本。
ナイフ素材としてすごい高値で売れるらしい。頭の数と総数が合わないのは、戦闘中にへし折ってしまった分だ。
「おー……なんか立派なテント立てとるのう。なんじゃこれ、ワシらの他にも遺跡に挑んどる奴おる?」
「いや、アタシらが連れてきたんだよ。後詰冒険隊編成して」
「リーダーはアイン君じゃろ? そんな金出せるくらい稼げたのか」
「デルトールでしばらく頑張ったので……」
こういったものを雇うのは原則、パーティリーダー持ちだ。
ユーカさんの蓄えならいつでも雇おうと思えば雇えるだろうが、冒険に財力を使うならリーダーとしてやるべきであり、それを僕に任せているのだからよほど稼いだのだろう、という話。
実際、デルトールでかなり余裕はできた。
前回の滞在時、いい防具を買うのにすら躊躇してズタボロ皮鎧で過ごしていたことを思えば、考えられないお金の使い方だ。
それがまだ「この間」と言えてしまうような時期の話。
本当、ハタで見てると無茶苦茶だろうな……と思う。
で。
「……あー! エックスさん!」
「本当だ! ナオさん、エックスさん帰ってきたよ! めちゃくちゃマッチョ! あと裸!」
チューリップ嬢とキティ嬢が僕たちの帰還を目ざとく見つける。
その声を聞いてマード翁、真顔。
「……チューリップちゃんとかナオちゃん連れてきちゃったん?」
「なんだよ。懐いてるみたいだしいいだろ」
「ああいう懐き方されるのワシ困るんじゃけど……」
「そういうとこお前アーバインと似てるようで似てないよな」
「ワシ元々宗教の人なんじゃよ。なんかキマっちゃったやべー女いっぱい知っとるんじゃよ。あの子らちょっとあれっぽくて苦手なんじゃよ。そのうち突然病んだ目で刺してきそうで」
「いいだろ刺されても。死なねえよお前なら」
「そういう問題でもねーじゃろ!?」
ちなみに帰り道は、ユーカさんはマード翁に乗ってきた。肩車で。
多頭龍戦でも肩に乗ってエントリーしてきたけど、なんか妙にお互い当たり前みたいな雰囲気なのは、元々やり慣れていたんだろうか。
……いやそんなわけないな。あのゴリラユーカさん肩車は無理があるな。
単にマード翁が美少女肩車するの楽しんでるだけだな。あとユーカさんも何かに乗るのが好きなだけだ。
「おーい! マード爺さん! 凄ぇぜ、ナオのおかげで温泉出てるぜ!」
「さっき浴槽完成したから入れるぞ」
ウォレンさんとセドリックさんも出てきた。みんなで温泉の準備に手を貸していたようだ。
「確かにありがてーな、こうなると。よし、アタシ入る!」
ユーカさんが張り切ってマード翁から飛び降りるが。
「駄目。一番風呂はエックスさんか雇い主さんから」
ナオさんにきっぱり断られた。
「えー、いいじゃんかよー」
「これだけは譲れない。あとエックスさん入るなら言って。私も入る」
「な? なんかこの距離感怖いんじゃよ。ワシこの子苦手」
「僕に訴えないで下さい」
なんかそれぞれ複雑な人間模様がありそうだけど、とりあえず巻き込むのはやめてください。




